地方創生のキーワードのひとつに、「ローカルベンチャー」があります。
地方の先進事例の地域として知られる岡山県の西粟倉村が「ローカルベンチャーの聖地」と呼ばれ参照され、今後の地方経済にとって欠かせない存在とも言われる存在です。
ローカルベンチャーの可能性を、実際に地域に根ざして探る試みとして、2016年に始まったのが、NPO法人ETIC.の呼びかけに賛同し、全国10自治体が参加しているローカルベンチャー推進協議会です。
会の発足から1年、これまでの取り組みを振り返る「ローカルベンチャー・サミット」が開催されました。
ローカルベンチャーとは何か?
そもそも「ローカルベンチャー」とはどのような存在なのでしょうか。ETIC.の代表理事を務める宮城治男さんは、次のように定義しています。
ローカルベンチャーとは、地域の資源である「自然資本」「文化資本」「関係資本」を活用し、地域の新たな経済や安心で豊かな暮らしを創造する事業です。
ローカルベンチャーに期待される役割は大きく3つあるといえます。
ひとつは、地域課題の解決を行なうこと。人口減少、少子高齢化、労働人口の減少にともなって、地方の行政が行き詰まったり、財政が縮小していくという状況になると、行政サービスがスムーズに提供されることが難しくなっていきます。
それに対して、地域に根ざしてビジネスを行なうローカルベンチャーによって、例えば教育の機会であったり、医療サービスであったり、障害者雇用などを通じて、行政のサポートとなるような存在となっています。
2つ目は、地方に多様性のある雇用の機会をつくることです。
地域に根ざしたビジネスを展開し、現地での雇用創出を行なっています。例えば、西粟倉村では女性に働きやすい木材の加工場が増えていたり、気仙沼のジャム工房では未就学児を抱えるママだけが働ける施設なども知られています。
3つ目は、新たな地方経済の担い手として期待でしょう。地方は経済成長する可能性がないのかというと、全くそんなことはありません。地域資源の活用や、これまで無視されてきた領域で成長可能性が十分にあるといわれています。
そんな可能性を「創造的スペース(余白)」と呼び、若者を中心に関心が高まると共に、活用される事例が増えています。
10自治体が牽引する、地方発の取り組み
このようなローカルベンチャーの創出に向けた自治体連携としてローカルベンチャー推進協議会の活動は、大きな成果を上げつつあります。
この取り組みは、画一的に行われているわけではなく、各地域の独自の取り組みも行われながら実施されています。その中でも共通しているのが、地域独自のローカルベンチャー推進施策を、自治体と共同して行なう民間パートナーを設置し、連携していることです。
例えば、地方創生の代表格として名前が上がることも多い、宮崎県日南市では、ローカルベンチャー推進の重点項目として、地場企業の右腕人材の確保と育成を掲げています。
この取り組みを市がリードしつつ、県内の大学や民間企業、地元商工会議所などのステークホルダーとの連携を行いつつ、総合的な課題解決の実践をサポートする存在として、日南市ローカルベンチャー事務局が機能することで、企業連携や創業の流れが生まれています。
地域資源活用で、新たな経済を生み出せる
ローカルベンチャーの取り組みが、大きく前進しているのも事実です。ローカルベンチャー推進協議会が公表しているデータによると、取り組みが始まった2016年度だけでも、新規創業・事業創出数が14件、起業・経営人材のマッチングが40人生まれ、2017年度も、現時点でそれぞれ35件、60人となっているといいます。
この躍進を支えているのは、ローカルベンチャーの取り組みを行なう10自治体が相互にノウハウを共有する機会をつくっていることにあります。
相互の視察がコラボレーションした事例につながったり、成功した取り組みを輸入したりと、個々の取り組みだけではない広がりを見せています。
インターネットインフラの整備や、IoTの発展などを通じて、都会でしかできなかったという仕事が減る一方で、新たな可能性に満ちたフィールドとして地方に注目が集まっている現在、どのように地域経済を維持し、担い手を獲得・育成するかが重要になっているといえます。
ローカルベンチャーの取り組みは、現在は10自治体ですが、2020年には100地域が参加するものにしたいと目標が掲げられています。
行政と民間が連携し、地域資源を活かしたビジネスを行なうローカルベンチャーの取り組みが、今後も増えていくが期待されています。