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スペイン サン・セバスティアンの真似ではなく、日本は、独自の観光食文化をつくるべき

「食」の魅力で町おこしをしようという事例が増えています。

例えば、全国的にもメジャーになったB級グルメ。2006年頃から安価で庶民的でありながら、地域の良さを活かしたおいしい料理を指す言葉として定着し、道の駅やイベントでの出店をよく見かける光景になりました。

また最近では、東京や世界の一流レストランで修行したシェフが、地方でお店を出すことも増えています。

一例ですが、ミシュランガイドで日本において三ツ星を獲得しているレストランは32店舗あり、その内東京、大阪、京都の地域を除くと、9店舗が地域にあります(※ミシュランガイドは日本全域を調査しているわけではないため、地方の店舗の評価は非常に限定的あることは知っておいてください)。

地域の食は、重要な地域資源のひとつであり、有効に活用したまちづくりが求められているといえます。

そんな中、世界で最も注目されている、食でまちづくりに成功した地域があります。スペインのサン・セバスティアンです。

美食の聖地サン・セバスティアンとは?

スペインの北東部、美しいビスケー湾に面し、美食が集まる街として知られるのが、サン・セバスティアンです。

当然ながらヨーロッパにも数多くの地方都市が存在しています。日本と同様に、衰退の一途をたどる地域もあれば、大きく躍進している地域もあります。スペインのバスク自治州に属するサン・セバスティアンは、躍進した地域のひとつ。

18万人の都市なので、神奈川県の鎌倉市や東京都の三鷹市ほどの規模です。小さな都市であることが伝わるのではないでしょうか。

美食の街にふさわしい豊かな環境

地理的にも、美食の町にふさわしい環境が整っています。サン・セバスティアンの目の前に広がるのはビスケー湾からは豊富な魚介類、背後の広大な土地から畜産物。原材料は豊富に地元の市場から調達できるという特徴があります。

日本との交流も

実は日本とも関係性があり、香川県丸亀市が1990年に姉妹都市として提携し、毎年10日間程度、中学生による相互訪問(親善使節団の派遣・ホームステイ)をおこなうなど、教育・文化・スポーツを中心に交流を続けています。

サン・セバスティアンに観光客が訪れ続ける理由

サン・セバスティアンは、ヨーロッパをはじめ、世界中から観光客を集め、観光地化し、地域産業を活性化させることに成功しています。

スペインは年間観光客数が6500万人を超える観光先進国ですが、その中でも訪れる人が急伸している地域だといいます。

一体なぜ、サン・セバスティアンは成功しているのでしょうか。

世界中が求める美食体験

世界中から訪れる観光客が求めているのは、「美食」体験です。客観的な指標のひとつとして、有名なレビューを参照してみると、ミシュランの三つ星レストランが3店、二つ星が2店、一つ星が4店あります。これは、人口一人あたりとしては世界一のミシュランの星付きレストランを有していることになります。

さらに、イギリスの世界的な飲食業界専門誌「レストラン」の「世界ベストレストラン50」のトップに2店がランクインするという快挙も成し遂げています。

食べ歩きでおいしい料理を味わう

サン・セバスティアンの旧市街地を歩くと、おいしいピンチョスがあるバルに数多く出会え、食べ歩きが楽しめます。

ピンチョスというのは、バルで出される小さな料理のこと。スペインのほかの地方でタパスと呼ばれているものと同様で、「ピンチョ」とは串を意味し、もともとはバケットに具材を乗せて、落ちないように串で刺していたことが始まりだといいます。

今では、バルで出される小皿料理もピンチョスと呼ばれています。

おいしいピンチョスがそろうバルを食べ歩きすることで、観光客ひとりあたりが各お店で少しずつ食べ、しかも数が多いため数日にわたって滞在し、しっかりとお金を落とす。そんな仕組みがかたちづくられています。

サン・セバスティアンはなぜ成功できたのか?

サン・セバスティアンの街づくりが成功した大きな要因は、料理業界の伝統的な弟子制度を廃止したこと、そして、手法やレシピを店ごとに独占せずに共有するという「料理のオープンソース化」を実現したことにあります。

これらを実現したことで、外国で料理の勉強をして身につけた技術や、世界を旅して学んだ料理の知識をサン・セバスティアンで共有し、教え合い、街全体の食のレベルが上がっていくことになりました。

さらにサン・セバスティアンには、「ルイス・イリサール」という料理の専門学校があり、実はこここそ、サン・セバスティアンの料理のオープンソース化、そして美食化を進めることになった拠点でもあります。

アメリカのシリコンバレーが、スタンフォード大学を中心にイノベーションの文化を育んだように、サン・セバスティアンは、ルイス・イリサールを中心に、伝統的な料理に加え、新しいバスク料理の創造と、料理業界では異色といえるオープンマインドの精神が培われています。

表面だけ真似してもうまくいかない日本のまちづくり

今では、世界に冠たる美食の街となったサン・セバスティアンですが、わずか10年近く前まで、目立った産業もなく、世界遺産や美術館などの観光資源もなく、旅行者が訪れることがないような地域でした。

そこでこのサン・セバスティアンの躍進に学ぼうと、日本からの視察が絶えません。食を通じたまちづくりを導入するヒントにと、こぞって訪れているわけです。

しかし現実は厳しい。サン・セバスティアンの “ような” 取り組みが単年度予算で行われ、報告書だけを残し消えていっているのが現状です。

日本がダメだからうまくいかないという話ではありません。サン・セバスティアンの本質的な価値を見抜き、それが導入できていないと考えた方が良さそうです。

サン・セバスティアンの本質的な魅力とは?

サン・セバスティアンの料理は、ここでしか食べられません。これは誇張ではなく、その地でしか獲れない食材を使って料理することをポリシーとしているため必然的にそうなっています。

例えば、見た目や調理法が同じスペイン料理は世界中で食べられるかもしれませんが、サン・セバスティアンの料理人がつくる料理は、サン・セバスティアンでしか味わえないのです。

この街にしかない食材を活かして、この街にしかない料理を作る、それも最高級の。それがサン・セバスティアンの料理です。だからこそ、ここでしかできない食体験を求めて、世界中から美食家が集うのです。

まちづくりに必要な「特化する」ことの重要性

サン・セバスティアンが食に特化できたのは、たまたまではありません。わずか10数年前まで”何もなかった”地域でありながら、そこには光が当たるのを待ち続ける文化がありました。

それが「美食倶楽部」という地域文化です。これは、男性だけのクラブで、クラブハウスで仲間と料理を作り、それを楽しむという会。入会資格や会則は厳しく、サン・セバスティアンには100を超える「美食倶楽部」があるのだそうです。この文化は、1800年代から続いていて、街の男たちがこのクラブで1日シェフをして食を楽しんでいるのです。

食文化の蓄積が開花し成果をあげている

つまりサン・セバスティアンは、100年以上にわたって食文化を蓄積をおこなってきていたのです。その上に、食をサービス産業にした文化ができているわけです。地域に根ざした食文化の上に展開されたサービス産業としての食文化が、現在活況を呈しているのです。

これこそ、この地域だけの資源に「特化する」ということです。

光が当たらない中でも100年以上続き美食の街の足腰となっている「美食倶楽部」という伝統文化と、「ルイス・イリサール」という学校がリードする創造と教育、それらを軸にしたまちづくりがサン・セバスティアンの躍進の秘密だといえるでしょう。

文化づくりに必要なのは、長期的ビジョン

日本に目を向けてみましょう。日本には、北から南まで、無価値として切り捨てられたり、無視されたりしている資源が豊富にあります。

例えば、サン・セバスティアンの例にならい「食」で考えてみましょう。世界遺産への登録もあり日本の食は「和食」とひとくくりにされてしまいがちですが、当然ながら各地域で独自の食文化があります。

伝統野菜など地域限定の野菜もあったり、調味料や保存方法や食べ方など、数多くの多様性のある食文化だったわけです。

地域において価値あるものとは何か?

今こそ、地域において本当に価値あるものかは何かを見出して、それをどうサービスにして、稼ぐために活用するのか。どうすればお客さんを呼び、財布を開いてもらい、地域経済を動かすことができるのか。

地方独自の色を出す努力を怠れば、当然ながら行き詰まるでしょう。グローバル化とは、みんな同じになる中で、何が違うかを声高に叫び、存在を示すことです。

地域の歴史や文化に根ざし、それを現代にアップデートした価値観で提供し、長期的なビジョンをもって築いていく努力し、変化し続けることこそ、まちづくりに求められているといえるでしょう。

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