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ライネフェルデ市の都市再生計画の歩みについて(5)

ライネフェルデ市の都市再生計画の歩みについて(5)

    CATEGORY: AREA:地域活性化の海外事例

最終回の今回は、ライネフェルデ市の都市再生計画の真の意味と、日本での応用について考察をする。


5、終わりに

ライネフェルデは,ドイツ中部の中核的な都市であるカッセルまで、列車で1時間、アウトバーンで30分という地理的な条件にあり、近年ではカッセルのベッドタウン化が進行していることから、人口の減少は鈍化しつつある。
また、ライネフェルデは企業誘致を実施し、地元の雇用環境の創出にも努めており、失業率も、周辺地域に比較して数%程度低減されている。
これらの成果を見ると、ライネフェルデの都市再生は順調に進んでいるように見えるが、その一方で、2005年のモニタリング調査では、市民から次のような意見が出されている。
①改築に伴う地区ごとに、より低価格なタイプを考慮に入れるべき。
(住居供給の更なる多様化の必要性)
②さらに駐車場を設置すべき。
③道路網を整備すべき。
④緑化による工業地区周辺の修景を実施すべき。


今後は、バリアフリー型住宅や、職住一体型(自営型)住宅などの需要も発生すると予測されているが、2010年をもって、マスタープランに基づく事業はいったん終了することとなっている。今後は、旧市街地や、合併地域(ヴォアビス等)との一体的なまちづくりへとシフトしていく方針が示されている

注目すべきは、ライネフェルデの都市再生の歴史は、単なる団地の再生の歴史ではないという事実である。ライネフェルデの都市再生計画の最大の目的は、東西冷戦構造の崩壊に伴う社会主義体制からの脱却と資本主義経済の導入の過程で生じた、さまざまな社会矛盾の克服にあった。
リノベーションによる多彩で高質な居住空間の実現の意図の裏側には、画一的で無味乾燥な、旧社会主義体制を想起させる建物を排することで、ライネフェルデ市民が感じる心理的圧迫感や、歴史上の忌まわしい記憶を軽減しようという意志があったことは、想像に難くない。
決して、人口減少社会に対応すること、都市を適正な規模に縮小してその機能を維持すること、就労機会を創出すること、高質な居住空間を実現すること、資産価値の高い住宅を市場に供給すること、地域経済と市民生活の安定をはかること、こうした一連の施策が、ライネフェルデのまちづくりの主たる目的であったのではない。
社会主義から自由主義へと体制が移行し、新たな都市像の実現が求められた時代にあって、ライネフェルデがどうしても必要とした手続きであり、手段だったに過ぎないのである。この事実を見落としては、ライネフェルデのまちづくりを、正確には理解できない。

このライネフェルデの手法を学ぶために、日本からも多くの視察者が訪れている。
しかし、日本の賃貸住宅は、借地借家法により、借主側の権利が手厚く守られている。分譲団地においては、区分所有権の問題が存在する。いざ建て替えとなれば、権利変換や、建替費用の捻出のための保留床の積み増し、優良建築物等整備事業の認定に伴う自治体からの補助の獲得等、さまざまの問題が噴出することになる。
何より、不動産に第一義の価値を置く日本の金融文化・生活文化に、縮小という概念は馴染みにくいのも。事実、都市再生機構が実施する団地再生事業には、間引きを実施する代わり、新規着工住棟への間引き分の積み増しを実施し、保留床の売却益を建築費に充当しているものが見られる。

真の意味でライネフェルデの手法が注目されるようになるには、数十年後、人口減少社会がいよいよ本格化し、市街地の空洞化が深刻となり、治安や福祉、インフラの維持等、都市機能の維持に支障をきたすようになる時期を待たなければならないのだろうか。
最後に、ライネフェルデが提示する、都市再生が成功するためのクライテリアを、以下に示して、本稿の筆を擱くこととしたい。
①徹底的かつ公平な分析を行うこと
②長周期の予測と戦略をたてること
③透明性の担保された、参加型計画プロセスを選択すること。
④マスタープランの目的を実現するため、運用に柔軟性と信頼性を持たせること
⑤核となる地域に焦点を当て、持続的に施策を実行すること
⑥パイロットプロジェクトを迅速に実現し、可視化すること
⑦市民に参加機会と情報を適切なかたちで与えること
⑧継続的な事業の実施体制・品質管理を確立すること
⑨政治が積極的に関与すること
⑩事業実施を共にする良い相手を見つけること
⑪忍耐と主張
⑫運

なお、ライネフェルデの治安状況は、東西ドイツ統一直後に比べれば改善されているとはいえ、黒のシャツにスキンヘッドという、いわゆるネオナチに属すると思しき若者が、街のあちこちにたむろする姿が見られる。
最寄りの在独領事館はフランクフルトであり、列車で3時間以上を要する。また、旧東ドイツ地域に属することから、英語の通用率は、旧西ドイツ地域に比較すると、低い傾向にある。視察の際は、現地の行政関係者や、市民に協力を求めるなどして、予め、対策を講じられるのがよい。