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地方消滅を救う鍵。世界とつながり、外貨を稼ぐ「ローカルハブ」になる4要素

地方消滅を救う鍵。世界とつながり、外貨を稼ぐ「ローカルハブ」になる4要素

    CATEGORY: AREA:地域活性化の海外事例

2017年に、地方創生の理想モデルが提示されています。日本の最大手シンクタンクとして知られる野村総合研究所が発表した「ローカルハブ」というモデルです。

これは、地方が経済的に自立することを理想とし、地方の牽引役となる都市を「ローカルハブ」として整備するというものです。

ローカルハブとは、地方都市が大都市に依存せず、自立して世界市場と結びつき、外貨を獲得するという都市モデルです。

ローカルハブという考え方と、それを導くことになった海外の事例、そして日本の地方の可能性について探っていきます。

「ローカルハブ」とは何か?

ローカルハブは、大都市に依存するのではなく、地域で人材や企業を育て、大都市と競い合い、世界と結びつく都市のあり方です。

この考えのポイントは、地方の自立という点にあります。なぜ地方は自立しなければいけないのでしょうか。

大都市依存型の経済からの脱却

それは現在の地方創生の取り組みが、大都市に人材を供給し、大都市から財政支援を受ける「大都市依存型」が地方都市の基本的なあり方になってしまっており、この構造の中で、企業誘致なども行われている背景があるからです。

国の産業全体が成長局面であれば、大都市を支える下部構造としての地方が機能していましたが、成長が鈍化した現在、この構造を持続的に維持することは不可能になっており、それを打開するためには、構造そのものを変化させ、各地域で、付加価値の高い産業をもち、外貨を稼ぐ、自立した地方経済をつくっていく必要があります。

地方が自ら考える地方創生へ

つまり、国が監督し、管理する地方創生から、地方が自ら考え、実行する地方創生に変わる局面を迎えています。

そのときに、重要な地方都市の姿がローカルハブというものです。

ドイツに学ぶローカルハブの成功事例

ローカルハブの参考になるのは、ドイツのまちづくりです。ドイツは日本と同じく、低い出生率と高齢化により人口減少という課題を抱えています。

しかしドイツの地方都市には、自立的な経済基盤として地域を支える「ローカルハブ」が多数存在していることで、生産性で大都市を上回る地方都市が存在しています。

生産性の高い4つの都市モデル

ドイツにおける生産性の高い都市は、4つに分類することができます。

– 経済拠点型
– 企業城下町型
– 内発発展型
– 交流型

です。この中でも、内発型発展型の都市は、その地域に進出したグローバル企業と地元に根ざした企業が結びつき、産業構造を形成。その結果、世界からの外貨を稼ぎ、地域経済の基盤となっています。

ローカルハブが地域経済を牽引する事例

例えば、ミュンヘンとニュルンベルクの間のレーゲンスブルク市は、そんな地域のひとつです。自動車を中心に、半導体・電気・産業機会・IT等の企業が集積し、自動車大手のBMWと連携し、研究開発拠点としての都市として発展してきました。

部品を提供する企業が、人材供給機能などが整備され、それがまたグローバル企業の量産機能や研究開発部門を呼び、その結果、地域から企業が創業されるという好循環を生み出しています。

これはつまりどういうことが起こっているのでしょうか。

レーゲンスブルク市というローカルハブに、グローバル企業が立地する理由は、ローカルハブのもつ資源を活用し、事業の競争力を高められると判断しているからです。

この事例から、ローカルハブが備えるべき要素が見えてきます。

ローカルハブの備えるべき要素とは?

ドイツのローカルハブのひとつレーゲンスブルク市などを参考に、野村総合研究所がまとめたローカルハブの特徴は、4つ上げられています。

1. 大学・研究機関と連携し、最先端の研究開発成果や研究人材を獲得できる
2. 良質な人材を適正なコストで採用できる
3. 事業シーズを有した事業パートナーとの連携の可能性が高ます
4. コンパクトで良質な都市・住宅インフラを活用できる

シリコンバレーもローカルハブだった

ここで思い出したいのは、アメリカのシリコンバレーの事例です。シリコンバレーは、イノベーションの聖地のように考えられていますが、1930年代まではただの地方都市でした。

きっかけになったのはスタンフォード大学です。1938年にヒューレット・パッカード社の創業を促し、シリコンバレーにおけるイノベーションの生態系をつくってきたのは、スタンフォード大学であり、そこから排出される優秀な人材です。

つまりローカルハブは、企業、自治体、大学・研究機関などが連携し、地域の産業をつくっていくというモデルなのです。

日本のローカルハブの可能性

成長可能性都市1位の福岡市の街並み

日本のローカルハブの可能性はどのような地域にあるのでしょうか。同じく野村総合研究所が実施した「成長可能性都市ランキング」が参考になります。

これはローカルハブの可能性を、都市の産業創発力と設定し、国内100都市を対象に今後の成長可能性を調査したものになります。

項目は、

・風土:起業を促し、発展させていく風土や気質を持っているか
・基盤:ビジネスがしやすい環境があるか
・環境:人々が幸福にビジネスに取り組む環境があるか

を、基本的な視点として、

「多様性を受け入れる風土」
「創業・イノベーションを促す取り組み」
「多様な産業が根付く基盤」
「人材の充実・多様性」
「都市の暮らしやすさ」
「都市の魅力」

という6つの視点から、131の指標を用いて調査されました。

日本には成長可能性が都市が多い

この調査の結果、ポテンシャルランキングとして、ローカルハブになる可能性のある成長可能性都市を明らかにしています。ランキングを見てみると、

1位:福岡県福岡市
2位:鹿児島県鹿児島市
3位:茨城県つくば市
4位:愛媛県松山市
5位:福岡県久留米市
6位:長野県松本市
7位:北海道札幌市
8位:宮崎県宮崎市
9位:沖縄県那覇市
10位:熊本県熊本市

となっています。

これらの都市は、どの地域も独自の強みを活かしたローカルハブになる可能性がある都市だといえます。

例えば福岡市は、多様性が高く、近年では起業家の輩出率も高い都市で、アジアにも近いという点を活かして、ローカルハブの生態系を作ることが可能でしょうし、鹿児島は、もともと地域に根ざした共助精神や、コミュニティ濃度の高さを活かしたビジネス創出への行動が求められています。

宮崎市がローカルハブになるためには?

また例えば、第8位の宮崎県宮崎市を考えてみると、宮崎市は「移住者にやさしく適度な自然がある環境で仕事ができる」というライフスタイルの特徴があるとしており、ここで全国3位に入っていることがポテンシャルとして評価されたようです。

宮崎市がローカルハブとなるためには、移住者を積極的に受け入れ、創業を促す環境を作ることと、宮崎大学など、地方の拠点大学を人材育成のハブとし、アカデミックな知と、スタートアップ等の実践の場を近づけ、相互に影響を与え合うような環境づくりを目指すのが良いのではないでしょうか。

その際に産業分野も、農業など既にある強みに特化していくなどの可能性が考えられます。

各地域の強みを活かしたまちづくりへ

成長可能性都市にあがっている地方都市はもちろん、上がっていない地域でも、ローカルハブのような企業、自治体、大学・研究機関などが連携し、地域産業を形成し、外貨を稼ぐことで自立した地域経済を実現することを目指すべきだといえるでしょう。

日本が直面している少子高齢化、人口減少という社会課題の中で、日本の都市間で依存関係を強めていくことは、持続可能ではないことは明らかです。

生産性を高めるという観点でも、従来の日本の労働観ではなく、地方から世界に進出しビジネスするという観点で、そのスタイルを革新する必要があるでしょう。

各地域がそれぞれの強みを活かした自立した経済を構築することで、日本全体の産業活性化にもつながっていくはずです。地方と都市圏が肩を並べ、それぞれで世界市場での価値を発揮することが求められているといえます。

参考文献:NRIメディアフォーラム資料