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地方創生と産業観光、ドイツの成功事例から日本が学ぶべきこと

地方創生と産業観光、ドイツの成功事例から日本が学ぶべきこと

    CATEGORY: AREA:地域活性化の海外事例

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「アウトシュタット」By Ralf Roletschek投稿者自身による作品, CC 表示 3.0, Link

日本は優秀な中小企業が多い国だということをみなさんはどのぐらい認識しているでしょうか。

多くの企業は東京に集まっていますが、地元密着型の地方企業も少なくありません。工場見学ツアーを用意したり、博物館を併設したりするなど、観光地になっている地元企業もあります。

このような「産業観光」の例としては、愛知県にあるトヨタ博物館や北海道札幌市のサッポロビール博物館などがイメージしやすいでしょう。世界遺産になった富岡製糸工場も、その一つです。

私が住んでいるドイツでも、産業観光が盛んです。今回は、その中でも特に成功している、ヴォルフスブルクという都市を紹介します。

ヴォルフスブルクが成功させた産業観光

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By Photo: Andreas Praefcke – Self-published work by AndreasPraefcke, CC 表示 3.0, Link

ヴォルフスブルクは、ドイツのニーダーザクセン州にある都市で、人口は約12万人。大分県の別府市や北海道の小樽市と同じ規模の地域です。

ヴォルフスブルクには世界的大企業・フォルクスワーゲンの本社があり、本社の敷地内には「アウトシュタット」があります。アウト(Auto)は自動車、シュタット(Stadt)は街という意味で、車を中心としたエンターテイメント施設になっています。

アウトシュタット:産業観光の成功モデル

アウトシュタットの敷地内には、もう見ることが出来ない古い自動車が展示されていたり、オフロードを走行できるコースがあったり、自分で車をデザインできたり・・・と、車好きにはたまらない展示やサービスが用意されています。

納品を待つ約400台の新車があるタワー型の駐車場(カータワー)では、ガラス張りのコンテナに乗って、内部からずらりと並ぶ新車を眺めることができます。

他にも、運転経験ができる子ども向けのエリアもあり、パーク内の専用免許も発行してくれます。広大な公園には、至る所で現代アートに触れられるので、散策にもぴったりです。

丸1日あっても足りないほどの充実度で、大人から子どもまで楽しめる、産業と観光が一体になった産業観光のモデルのひとつです。

完結した産業観光地の魅力

更に、アウトシュタットには、レストランやホテルも完備されています。

ホテルは、世界的に有名なラグジュアリーホテル、リッツ・カールトン。ロビーラウンジからは、フォルクスワーゲンの工場やミッテルラント運河を眺めることができます。

ホテル内には、ミシュランの3つ星レストラン「アクア」があります。「アクア」のほかにも、パーク内にはフードコートやカフェ・レストランが設置されています。

充実した施設にレストラン、そして宿泊施設・・・と、アウトシュタットの魅力は、「そこだけで完結する産業観光地」であることです。

まちを変えた車のテーマパーク

工場を開放したり、博物館を保有したりする企業は多数ありますが、そこだけで丸一日楽しめる場所は、決して多くはありません。ましてや、宿泊施設まで兼ねているとなると、さらに数は限られるでしょう。

ヴォルフスブルクはもともと小さな街で、旅行先の候補に上がるような場所ではありませんでした。ですが、アウトシュタットを建設し、まちの一部を「車のテーマパーク」にしたことのより、観光地化に成功しました。

「アウトシュタットに行くために、ヴォルフスブルクへ行こう。」「納車の際は、アウトシュタットに足を運んでみよう。」と思う人が増えた結果、今では人気の観光地の一つとなりました。

ヴォルフスブルク発展の歴史

アウトシュタットほどの規模の産業観光化が可能だったのは、フォルクスワーゲンとヴォルフスブルクの歴史にも関係しています。

フォルクスワーゲンはナチスドイツ時代、国策として国民車が構想されたことにより立ち上げられた企業です。国民車構想を実現する場所として白羽の矢が立ったのがヴォルフスブルクであり、必要な工場の規模や労働者数などを踏まえた上で都市建設が行われました。

つまりヴォルフスブルクという都市自体が、フォルクスワーゲンとともに生まれ、発展してきたのです。

こういった背景があったからこそ、アウトシュタットの建設が可能だったといえます。そのため、日本でこれほどの規模の産業観光化は難しいかもしれません。

ヴォルフスブルクに学ぶ、地方創生の鍵

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By de:user:Cubanitode:Bild:Wolfsburgskyline2.jpg, パブリック・ドメイン, Link

一方で、大きな地元企業がある地方都市にとっては、ヴォルフスブルクは一つのモデルケースとして参考になる部分も多くあります。

ただ博物館を併設したり、工場を解放したりするだけでなく、様々な角度からその製品を楽しみ、そのパーク内だけで1日たっぷり遊べる産業観光施設があれば、その土地の「観光の目玉」になります。

レストランやホテルを含んだ「そこだけで観光が完結する」施設は、観光客に「そこに行けば楽しめる」という保障をすることにもなります。

端的な例でいえば、ディズニーリゾートなどもそうです。行けば丸一日楽しめますし、食事や宿泊もできます。そこへ行けば楽しい旅行ができる環境が整っているのです。

丸一日過ごせる産業観光地に

「そこだけで観光が完結する」という視点は、官民が協力して観光地化する際に大切だと思います。

企業と連携した町おこしを考えている地域は、アウトシュタットを参考に、丸一日過ごせる産業観光について検討してみるのもいいかもしれません。