「持続可能な地域づくり」への様々なアプローチが行われています。中でも重要であり、求められているのが、地域において新たな持続的な産業を生み出し、雇用を生むことでしょう。
では、地域における新しい産業を誰が生み出すのでしょうか。そしてそれはどのような地域で起こるのでしょうか。
社会経済学での研究を参照しながら、日本の地域が持続可能な産業を作り出すポイントを考えてみましょう。
新しいアイデアを生むクリエイティブ・クラス
新しい産業を生み出すのはどのような人達なのでしょうか。トロント大学の社会学者で、都市社会学を専門とするリチャード・フロリダの議論が参考になります。
フロリダは、脱工業化した都市における経済成長の推進力を担うのが、「クリエイティブ・クラス」と呼ばれる創造性豊かな人材であると指摘しています。
クリエイティブ・クラスは、その特性上2種類あるとしており、それぞれ以下のような分類になります。
・スーパークリエイティブコア:
科学者、エンジニア、建築家、デザイナー、アーティスト、プログラマーなど、創造的な職業郡。重要な役目は、創造的で革新的であること。
・クリエイティブプロフェッショナル
ビジネス・IT・金融・医療・法律等の古典的な知識労働の専門家郡。
これらを、クリエイティブ・クラスと定義し、21世紀の経済成長の主力であるとして、クリエイティブ・クラスの集積による、相互に刺激をし合えるような環境が、新しい産業を生むことにつながるとしています。
このときに重要な指摘がなされており、フロリダは、クリエイティブ・クラスは。寛容度の高い都市に惹きつけられるとしています。
寛容度の高い都市とはどのような都市か?
リチャード・フロリダは、クリエイティブ・クラスに関する研究の中で、寛容度の高い都市ほど、クリエイティブ・クラスの集積度が高い・ハイテク産業の集積度が高い・イノベーションが生じる可能性が高いということに、強い相関があることを証明しています。
つまり、寛容性の高い都市であることと、経済成長には強い関連があるのです。
では、寛容度の高い都市とは、どのような都市なのでしょうか。
多様な文化や価値観を受け入れやすい
端的にまとめるならば、寛容度が高い状態とは、よそ者を迎え入れ易く、多様な文化や価値観を受け入れることができる状態といえます。
フロリダは、その議論の中で、人口に占めるゲイの割合「ゲイ指数」、人口に占める作家、デザイナー、ミュージシャン、俳優、アーティストなどの割合「ボヘミアン指数」、人口に占める外国生まれ人口の割合「メルティングポット指数」などを参照し、都市の寛容度を分析しています。
ポートランドは寛容度が高い都市
実際にクリエイティブ・クラスの人材を誘致し、新たな産業を生んでいる都市が、例えばポートランドです。
コンパクトで環境に優しく、移動も簡易な都市開発を行なった結果、「全米で最も住みたいまち」に輝き、多様な若者を引きつけています。大企業も立地する一方で、ベンチャー企業が生まれるなど、経済的にも活況を呈しています。
移住者への寛容度が高い宮崎県
クリエイティブ・クラスによる産業活性化を日本の地域で考えてみましょう。
注目したいのは、大手シンクタンク野村総合研究所が調査し発表している都市ごとの分析で、「移住者にやさしく、多様性を受け入れる風土がある」と、全国的にも上位に評価されている宮崎県です。
中でも昨年から地域づくりにおいて、全国的な注目を集めている宮崎県中央部に位置する「新富町」の事例を参考に考えてみましょう。
移住者に優しい宮崎県新富町
新富町は、移住者に優しく、寛容な土地として知られています。その背景にあるのは、独特な土地環境です。町の中央部に、航空自衛隊の新田原基地を有していることで、多くの自衛隊関係の居住者が滞在しています。
任期等で、定期的に人の入れ替わりがあり、比較的若い世代が入れ替わることから、町の人々も外から人が入ってくることに慣れており、寛容な土地柄となっています。
そして注目が、2017年にスタートした一般財団法人こゆ地域づくり推進機構(通称:こゆ財団)がリードするまちづくりです。
起業家育成塾を実施し、地域内外から地域課題を解決するビジネスを生む人々を集めたり、ファーマーズマーケットを開催し、シャッター街となっている町の中心街を盛り上げたりと、様々な活動を行なっています。
その結果、農業が主産業の町において、新しい農家が生まれたり、アグリテックと呼ばれる農業とITCテクノロジーを組み合わせた取り組みが行われたり、ライターやデザイナーといった移住者も増えてきています。
このような方々を、こゆ財団がハブとしてつなぐことで、新たな出会いや、コラボレーションを生んでいます。
つまり地域内の起業家や、移住者が増えてきたことで、クリエイティブ・クラスが可視化され、それをコミュニティとしてつなぐ役割もあることで、創造性が発揮され始めた地域だといえます。
実際に、地域課題をビジネスで解決するという動きも始まっており、今後どのような展開をみせるかに注目が集まっています。
課題は多様性の低さ
一方で、課題もあります。それは、地域の寛容度は高いですが、多様性が少ないこと。主産業となっている一次産業以外に仕事の種類が少なく、カフェなどの人が集まる場所や、インターネット環境などのインフラ面でも、未整備な現状があります。
町に多様な仕事を生み、多様な人々が働ける環境整備を行なっていくことを行わなければ、地域の寛容度が高くても、人が定着することは難しくなってしまうでしょう。
日本の地域には起業家人材が必要
リチャード・フロリダの研究や、新富町の事例等を参考に考えると、多様な文化や価値観を受け入れる寛容性に富んだ地域が、自由な気風で人を惹き付けるといえるでしょう。
日本の地域において、クリエイティブ・クラスに求められるのは、今までにない方法や発想で、地域課題を解決していくという視点でしょう。そのためには、中でも重要なのは起業家人材といえます。
求められる仕事を生み出す環境づくり
まず新しいビジネスを作ることができる人材が活躍することで、仕事を作り、仕事が人を連れてくるという好循環を生み出す必要があります。
そのために、起業しやすい環境はもちろん、住居やインターネット環境などのインフラ、創造性を担保する町の環境を整備することが必要で、その上で、町の魅力を発信し、クリエイティブ・クラスの人材を呼び込むことが求められるといえるでしょう。
持続可能な地域をつくるためには、町の環境整備と、クリエイティブ・クラスの活躍が重要な鍵を握ります。
参考文献:リチャード・フロリダ『クリエイティブ・クラスの世紀――新時代の国、都市、人材の条件』(ダイヤモンド社),『クリエイティブ都市論―創造性は居心地のよい場所を求める』(ダイヤモンド社)