新しく農業を始めようという新規就農者が増え続けています。
農林水産省の調査(「新規就農者の就農実態に関する調査結果(平成28年度)」によると、2010年以降5万人台で推移していた新規就農者は、2015年で、6万5030人となっています。6万人を超えたのはおよそ6年ぶり。
特に若い世代の新規就農が増えており、49歳以下は2万3030人で、2007年以降最も多くなったといいます。
新規就農者が増えている背景には、農業と、それを取り巻く農業ビジネスへの関心の高まりがあげられます。
なぜ増加傾向にあるのか。そして大変なイメージのある農業で新規就農して黒字化に成功している事例からはどのようなことが学べるのか。
調査から読み取っていきます。
新規就農者が増える理由
増加し続ける新規就農者ですが、その理由も変化を見せています。
特に最新の調査では、「経営」に関する理由が増加しているといい、「自ら経営の采配を振れるから」という理由が2010年は33.7%だったところ、2016年の調査では52.3%に増加しています。
また「農業はやり方次第でもうかるから」という理由も、2010年の19.0%に比べ、2016年は38.2%に上昇しています。
最も割合が高い項目が、「農業が好きだから 」で40.4%となっており、これらを合わせて考えると、農業への好感と、農業経営者としての裁量や経済面での可能性に着目する新規就農者が増えているということがわかります。
1年目から黒字化するための4つのポイント
農家出身ではない、新規就農者が増える中で、2010年に全国新規就農相談センターが実施した調査(「新規就農者に対する実態調査」)では、新規就農者の実態を浮彫にしました。
それによると、就農して10年以内の農家のうち、農業所得で経営が成り立っているのは約3割という結果だったとしています。
この結果は、いかに農業を主軸として生計を立てるのが難しいかを物語っています。しかし一方で、3割のノウハウを分析することで、より広く黒字化できる可能性があるともいえます。
このような中にあり、新規就農1年目で黒字経営に成功している方々もいます。彼らの要因を分析してわかってきたのは、4つのポイントです。(参考:「初年度から黒字経営の新規就農者の要因分析調査結果」)
1. 研修先農家が地域とのつなぎ役になる
新規就農するためには、事前に農業法人等での研修が不可欠です。その際に、研修地域と就農地域が一致することが望ましいとしています。
農業に精通し、地域から信頼される受け入れ先が、一貫して新規就農者をフォローすることで、地域にスムーズに入り込むことができるというわけです。
地域に入り込み、情報交換などがスムーズにできるようになることで、農業の成果にもつながるということです。
2. 就農初期段階の出費を抑える
どのような農業をおこなうのかにもよりますが、農業を始める準備のために、一定額の資金が必要です。
その際に、研修先の農家から受け継いだり、斡旋を受けたりして、できる限り支出をおさえることが求められます。
ひとりで準備するのではなく、どうにか必要な資材を費用をかけずに準備できるかは、本気で取り組むべき課題というわけです。
3. 短期・中期・長期の目標を明確にする
黒字経営を行っている農家の経営は、明確な短期的、中長期的な計画を立てた上で、最小適正規模を意識して農業を始めているのが特徴だといいます。
最小適正規模とは、どのような規模で農業を始めるのかにより、ひとりでするにも、家族でするにも、その生産性の最大化を図ることです。
まずはこの最大化を目標として、農業経営をスタートすることが求められます。
4. すべてを自分でやろうと思わない
農業従事者に対しては、国や自治体から様々な支援策があります。しかしそれらを、就農準備の段階や、農業経営をスタートした際に、自分で申請するには、制度の理解から申請の準備まで、多くの時間を要します。
毎日が貴重な時間である農家にとって、手続きの複雑さや、遅れなどは、農業経営にとって打撃になりかねません。
そこで、スピード感をもって対応できるサポートが窓口で行われたり、誰かに任せる体制を整えるといったことが求められます。
この点は、国や自治体側も課題と考えており、地域によっては、わかりやすいマニュアルの整備や、担当職員の配置など、スムーズな申請を行える工夫が行われています。
素人が農業を変える
農業や、それを含む農業ビジネスは今後どうなっていくのでしょうか。
いま最も求められていることのひとつは、古い慣習に縛られず、斬新な発想で農業そのものを変えていくことでしょう。
例えば、農業の現場に、脱サラをして飛び込んだ元営業マンが、ビジネス経験を活かして、利益確保のために安易な値引き交渉には応じない経営をしたり、積極的な販路開拓を行い成果を上げているのは好例でしょう。
農業を支える技術も進化していることが、素人によるイノベーションを促進する可能性があります。
経験や勘といったベテラン農家がもつ暗黙知を、テクノロジーを使って、データ化し、客観的に再現可能にしようというアグリテックという分野での研究も進んでいます。
市場としても、食の安心・安全への関心は高まっており、誰がどのように作っているのかということが、今まで以上に価値をもつようになってきました。
「自ら経営の采配を振れるから」や「農業はやり方次第でもうかるから」といった新規就農者の思いの通り、農業ビジネスで稼ぐ環境が整ってきているのです。
農業を未来につなぐために
日本の農業は、多くの課題に直面しています。
大きな課題は、人口減少と、高齢化によりますます農業の担い手は減少し、耕作放棄地が増えていることでしょう。
いま最も必要なのは、農業の技術と農地を守っていくことだといえます。
例えば、アジアをはじめ世界でも注目される農業技術が多数ありますが、それが日本からなくなってしまうかもしれません。
また増え続ける耕作放棄地は、再び農地に戻すために土壌づくりからスタートしなければなりません。その労力は計り知れません。
そこで注目したいのは、プロとアマが協働する農業です。
前述したように、農業所得で経営が成り立っているのは約3割というデータもあり、農業経営は決して簡単なものではありません。
だからこそ、自分自身がどのような農業を行いたいかということは重要です。農業ビジネスで稼いでいこうというのか、自然が好きで土と触れ合おうなのか、それぞれどちらも、適した農業があるはずです。
重要なのは、農業に参加できる裾野を増やし、農家を保護の対象としてひとくくりにするのではなく、プロもアマも、たくさんの農家を出現させることではないでしょうか。
農業の裾野が広がれば、農業に注目する機会が増え、さらに参加人数を増やすことにつながるでしょう。
いま、日本の農業は確実に変わり始めています。今後どのような変化が起こり、農業が変わっていくのか。日本の農業の未来を描くことが求められています。