中編に引き続き、HanaLabを運営する井上拓磨さんと、NPO法人まちづくりGIFTの齋藤潤一さんの対談をお送りします。
稼ぐ地域を作るために必要なこととは?
齋藤: ぼくらが考えている「稼ぐ地域を作る」って、ボロ儲けしようってわけではありません。
ちゃんと食べていけたりとか、地域資源を活かしたビジネスで、自分で食べていけるようになるという人がたくさん増えれば良いと思っています。
地域で稼ぐって大変ですよね。
一方で、一番お金をもっているところが行政だったりもするし。
井上さんにとって稼ぐ地域を作るってどういうことなんですか。
外からとってくるしかないと思います
井上: 上田という場所柄だと、外貨をとってくる仕事しかないと思います。
ターゲットが全国など外にいて、とってくる業種が有利なのかなと。
実際に、バリューブックスさんとか、ハルタさんとか、「倉庫+EC」は実際にあるなと思います。
上田の場合は関東に近いし、土地が安いし、既にそういった事例も出てきています。
「創業したい」という街の濃度が重要
井上: ぼくたちはどちらかというと、創業の業種を絞っていません。
ITを活用したっていうのは絞ってますけど、創業支援とは気持ちの総量だと思っています。
「創業してください」って言っても創業するわけではないし、「こんなビシネスモデルがあるから創業した方が良いよ」っていって創業させても絶対成功しないし、いくらイベントやってもセミナーやっても創業なんて増えません。
アントレプレナーの精神をもった人の濃度が、どれくらい街にあるのか、それを増やせるかというのが創業支援だと思っています。
創業者が集積しないから出会えない
井上: 創業したいなと、心の中で思っていても、そういう人たちと出会わないから現実にならないと思うんです。
それは第3都市レベルの都市の課題で、集積しないから、出会わないし、リアルにならない。
だからそもそも創業が増えない。
創業をしたいなと思って準備をはじめて、実際に始めるよってところはいろいろなサポートがあります。
創業融資や補助金など。初期投資も高くなくできるんです。
しかし創業希望者が準備に入る段階のところがサポートされていないので、そこをぼくらはやろうとしています。
相互にサポートするコミュニティをつくる
井上: 開業に影響を与える要因が7つくらいあるんです。
費用要因とかと合わせてその中に、産業集積というのがあります。
今までだと面的思考で、航空産業をやりましょうとか、車産業とか、エンジン部品とかやると、まわりに増えていくというような形だっと思います。
しかし現代のように、スモールスタートアップや、ITの世界の創業になってくると、上田っていう中に創業者がバラバラいても、あんまり集積しないし、出会いも起こらない。
だからぼくらは、16万人くらいの規模だと、そもそも街に創業者を増やしていくのが難しいから、コワーキングスペースという1点に創業者をあつめて、そこで集積効果を起こそうとしているんです。
偶発的に創業が起こるコミュニティに向けて
井上: コワーキングスペースに、創業者が多く集まっているとか、起業している人がたくさん集まっている環境になっていて、そこに例えば、そういう指向がある人がきたときに触れ合える。
雑談できたりだとかという環境を作れれば、あとは偶発的に創業が増えてくるのではないかと思っています。
僕らは創業支援とかいろいろな支援を行っていますけど、相互支援が起こりうるコミュニティ形成をしようとしています。
創業支援をしあっている状態を作る
井上: 場には、コミュニケーターとか、相談者がいて、例えばよろず支援とか、困った人がきてくださいというかたちは目指しません。
そのコミュニティにいる人が相互に話すし、助け合うコミュニティをつくるためにどうすればよいかを考えています。
ぼくらが創業支援するというよりは、その中にいる人達が創業支援をしあっているという状態をつくろうとしています。
今年は10万人都市のモデルを作りたい
齋藤: ここは立地も良いですよね。
井上: 宮崎って誘致に積極的で良いですよね。
創業濃度って、ある閾値を超えた時に爆発していくから、ここでいくらやろうが増えないし、ここが閾値に達するまでに地域の人材でやろうと思うと、結構大変なわけです。
だから、ある程度ベンチャーとかサテライトオフィスとかにきてもらって、そういう濃度を一時的に高める必要があります。
彼らも、一生いるわけではないから、地方に飽きて出て行くまでに、地方の人材だけで閾値を超えるところまでどう持っていくかというところが、たぶん勝負なんじゃないかなと思いますね。
起きる機能と育成機能をセットにする
井上: 今年は、10万人規模の都市のモデルを作りたいと思っています。
起きる機能と育成機能をセットにしたものをつくれたら、Hana-Lab.Tokyoを作りたいなと思っています。
地方企業の東京オフィスの集合体のイメージです。
そこは長野とか上田という枠も外してしまって、ぼくらが作ってきたコミュニティノウハウも合体させて、感度の高い地方企業の人達が繋がると面白いなと思っています。
その後に、第三都市に上田のモデルが横展開していって、日本中の第三都市が元気になったらいいなと思っています。
お母さん独自の仕事の仕組みをつくる
齋藤: ママさんの支援というのは、うまくいっているのですか。またそれは大変?
井上: ママさんの支援は、リアル版クラウドソーシングみたいなものですね。
企業からお金をもらって、ぼくらが仕事のクオリティチェックとかをやって、お母さんは子どもが病気になってこれなくなるといけないから、グループに対して発注するという仕組みです。
お母さんが働きに来る場所を作る
井上: ここの特徴は、ママさんがここにきて働くということです。
今年はニーズを拡大させるフェーズに入っています。
東京でいうとクラウドソーシングで、在宅ワークを中心とした働く仕組みの構築が進んでいると思います。
でも実際地方にいると、在宅でクラウドソーシング的な仕事を受けられるママさんって、さっきのマニュアル型人間が多く育っているから、ごく少数なんですよね。
だからここに来てもらってからがスタートで、育成していくという考えです。
施設を維持できるほどの売上は上がっている
井上: 業務を切り離してとってこないといけないから、どうしても単価が下がります。
単価が低いからそこに社員を投入できません。
だからママの中からパートさんをたてて、なるべく社員が動かなくてもまわる仕組みを作っています。
施設が回る文くらいは売上があがるようになっていて、ぼくらはここの人材を排出するから、会員になってここを支えてくださいということで、企業にスポンサーになっていただいています。
企業の育成も行っています
井上: 支えていただいている企業には、「ママさんが働きやすい環境を作るには」とか、「どういうふうになったら働きたいと思うのかと」いう視点からの企業の育成も行っています。
トータルで、ママさんが働きやすい環境を作ってくようにしています。
自分自身が、上田で楽しく生きるのはどうすれば良いか
齋藤: 井上さんを動かしている原点はなんなんですか。
井上: ぼくの一番の原点は、「ぼくが上田で楽しく生きるにはどうすればよいか」ということです。
僕自身は愛知県出身なので上田市にアイデンティティが特にありませんでした。
ただ、このままだと街がなくなるんだろうなっていうのと、俺の息子は上田で生まれるんだなというのが大きかったですね。
だからやっぱり何かをやらなきゃいけないし、つまんないつまんないって言って何かのせいにしているのも、それは違うと思ったんですよね。
子どもからつまらないと言われたくない
井上: 子どもに20年後とかに、「親父たちが作った上田ってつまらないね」みたいに言われちゃうのかもしれないけど、「何かをやろうとした」ということは良いのかなと思います。
後は、自分が楽しい状況はなんだろうって思うと、新しいことにチャレンジしてたりだとか、ちょっと前を向いている人に囲まれてそういう話をしているのが一番楽しいなと思っています。
そしてそういう新しいことにチャレンジする人たちを応援したいと思っています。
子育てにとっても地域の多様性は大事
井上: 子育てを地方でっていいなと思うんですけど、中学生からは大都市のほうが良いなと思うんです。
地方の一番の欠点って、キャリアの多様性が見れないことだと思うんです。
だからキャリアの多様性が生まれない。
でも、地域でもこういう場所をつくっていけば、アホな大人にたくさんあえるし、いろいろなことをやっている大人がいるんだなと伝われば良いなと思ってやっています。
ぼくの原点としては、意外に子供のことが大きかったんです。
齋藤: とても整理されていて、大いにヒントになりました。ありがとうございました。
井上: まだまだこれからだと思っています。ありがとうございました。