2015年9月4日、新しいジオパークが認定されました。硫黄島、竹島、黒島の3島からなる「三島村」一帯を対象とした「三島村・鬼界カルデラジオパーク」です。
この日、認定の電話を受ける村長の隣に、ジオパーク認定を目指して活動されてきた三島村役場の担当者がいました。
大岩根尚さん。三島村役場のジオパーク推進担当として、認定に向けて尽力してきたひとりです。
認定から一夜明けて、その想いを伺いました。
研究職のキャリアを捨てて三島村へ
—– そもそも三島村で現在の役職に就かれる経緯はどのようなものがあったのですか。
大岩根:ちょうど2年前くらいに、「ジオパークを目指すから専門職員として行ってみないか」という話がありました。
相手は、大学の頃に所属していた研究室の先生です。地質学の研究者で、硫黄島の研究をしている先生でした。
私自身は、大学を出た後、博士号を取り、研究者の道を進んでいました。南極観測隊に参加し、帰国後も南極の研究機関に所属していて、この後も研究者の道を歩むんだろうなぁと考えていた時期で。
電話がかかってきたのが、丁度任期切れの年度の初めだったんです。「どうしようかな」と、気持ちが揺れました。
まずは、全然状況がわからなかったので、島に飛び、1周間滞在しました。
とことん考えたら、島に行くと言っていた
硫黄島をあちこち歩いて調査しました。地質調査をしたり、話を聞いたり。ほんとにあちこちいったんですよ。
それで帰って、何ができるかなを考えていました。1ヶ月から2ヶ月くらいは、仕事をしながら考えて、考えて、考えてという感じでした。
ある日、お世話になった先生に言ったんですよ、「島に言ってみようと思います」って。
ここで、「ああ、俺決めたんだ」と自分で気付きました。
研究者のキャリアを捨てて、飛び込んだんです。
机の上で学べないことがある島
—– 硫黄島は魅力的に映った理由はあるんですか?
大岩根:自分自身が生涯をかけてやりたいことがあって、それは「教育」。机の上で学べないことを、外で学ぶような教育です。
それがここだとできそうだ、と感じたんです。
南極や各地の地質調査をやりながら、良い仕事をするためにどこに居ても自分の体調をベストな状態でキープするということを学んだんです。
火山があるおかげで特に変化に富んだ環境のある硫黄島でもそれがやりやすいんじゃないかと。
また、頭が良いとかということとは別に、人間力とか、生物の個体として生き残る強さを学ぶことって、なかなかチャンスがないと思うんですが、大事だと思います。
そのためには、結局自分が野外に出て様々な体験をするしかない。そういう体験を遊びとして提供するだけでなく、研究者がやっていることも体系的に学ぶことができるようにしたい。そのためには、自分がそういう体験を提供することで稼いで、持続可能なカタチにすることが必要だと思ったんです。
だから、三島村での私の仕事は、「遊ぶ、学ぶ、稼ぐ」仕組みを作ることなんです。
硫黄島の自然や文化を活かして、教育という部分に繋げていきたいと考えています。
月の半分は島生活。その中で得た信頼
—– 2年間駆け抜けてきたという感じだと思いますが、苦労や課題はありましたか。
大岩根:苦労を苦労と思わない性格なのでその質問難しいです(笑)。改善したことや、改善したいことは多くあります。
三島村は少し特殊で、役場の機能を鹿児島市に置いているんです。なので、村長をはじめ、役場の人間の大半は島にはそれほど頻繁には行きません。
そんな環境の中で課題だったのは、「情報伝達」です。島の人とも、物理的に距離があるので、呼びかけてもなかなか伝わらなかったりということがありました。
だから、ひとりひとり直接顔を合わせて話を聞いてもらうようにして、足繁く通いました。月の半分以上滞在している職員っていうのは、なかなかいないと思います。
おかげで、「おかえり」って言っていってもらようにもなって。
ここでやっと、迎え入れてもらえたように思いましたね。
過疎地だからこそ、勝負ができる
—– 「過疎地」「離島」というフィールドでの挑戦の魅力は何でしょうか。
大岩根:全員知り合いのスモールコミュニティがあるということです。100人に話をしたとして、10万人の都市だと0.001%にしかなりませんが、ここだと全島民人口になりますから。この規模感は可能性だと思います。
小さいからこそ、全員を巻き込むことも夢じゃないです。
担当になってから、ツアーや日帰りクルーズを10回以上して、講演もあちこちでして、それをメディアに取り上げてもらってというサイクルを作りました。
これがひとつのわかりやすい成果になって、どんどん「三島村のメディア露出が増えたね」という声がきこえるようになっていきました。
すると、巻き込まれる人の方も、期待して巻き込まれてくれるようになっていきました。
村の人誰もに参加してほしいから、徹底してオープンにして、情報を伝えて、一緒にやりましょうと言い続けて。
そうしたら、変化がじわーっと起こっていったと思います。
「みんな来い、みんな来い」って声が、聞こえるように言えるんですよ。
人口が少ないからこそ、みんなで協力しなきゃ無理なんだけど、みんなが少しずつでもやると、大きな力になる。
それが、ここの魅力で、可能性だと思います。
今しかできないことがあるから、絶対来てほしい!
—– 今改めて、ジオパークに認定されてどんな気持ちですか。
大岩根:免許をもらったくらいの気持ちです。硫黄島の硫黄で花火を作るという取り組みを、着任早々でいきなりスタートしてから、あっという間の2年間でした。
色々やらせていただいた分、カタチにできていない部分も多いです。
シーカヤックや、登山や、スキューバダイビングなど、したいことがたくさんあります。島の人にも、役割や仕事を作って、みんなで面白がりながらやっていきたいんです。
これからは、構想を計画にして、実際に動かしていきます。
実は、まだ頭の中の2割くらいしか実現していないんです。
そして今の時期だからこそ、アウトドア好き、野外好き、地球好きにぜひ来て欲しいです。魅力を感じで、発信してほしいんです。生の声をきかせてください。
三島村で、待っています!