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脱・東京!地方に移住してカフェ・ショップを開業した夫婦の決意−岐阜県大垣市

日本列島のほぼ中央に位置する、岐阜県大垣市。日本の東と西を結ぶ経済・文化の交流点として栄えた、人口約16万人の都市だ。国内有数の地下水・自噴帯に位置しており、良質で豊富な地下水に恵まれていることから「水都」と呼ばれている。その中にある上石津は、いわゆる農村地帯。

2008年に東京から、誰一人見知った人のいない大垣市上石津町の時(とき)地区へ一組の夫婦が移住した。雨宮英樹さん・明日香さん夫妻だ。

2013年、大垣市かみいしづ緑の村公園の入口で、アンテナショップ「手づくり工房あめんぼ」をオープン。そして2015年、総ヒノキ造りの喫茶店「桧」を地元の方から譲り受けて「CAFÉあめんぼ」を開業した。

2017年にはお子さんも生まれ、田舎暮らし・店の切り盛り・子育てに奮闘する雨宮夫妻にお話を伺った。

脱!東京、地方移住を決意

北海道出身の英樹さんと名古屋出身の明日香さん。二人が出会ったのはバイト先の飲食店だった。

英樹さんは整備士の資格を持ち、上京後はノルウェーの劇作家・イプセンの作品を上演する劇団に属し、舞台俳優としても活躍していた。一方、明日香さんは動物の行動心理学を勉強するために大学院へ。まったく畑違いの二人が結ばれたのは、共に環境問題や食に関する意識など、生き方や暮らし方について共感する部分が大きかったからにほかならない。

結婚した二人は豊島区要町で「あめんぼ」という名前のマクロビカフェを始めた。マクロビオティックは食養や玄米菜食などとも訳され、日本の思想家・櫻澤如一によって提唱された健康による長寿を目的とした食事法である。

(明日香さん)マクロビの根本的なところは日本の伝統食を重んじ、食生活を整えることで平和な世の中が生まれるということ。二人とも世界が平和になったらいいなと考えていたので、その思想にとても共感をおぼえました。

店をやりつつ2年ほどマクロビの勉強に通いながら、習ったお料理をお店に出せるメニューとしてアレンジしていましたね。今のお店もそうですが、マクロビのお客さんに「もっとこうしたら」と、改善のためのアドバイスをもらっていました。

ところが、順風満帆に見えたカフェの経営は、思いもかけないかたちで幕を下ろすことになる。

(英樹さん)地主さんと家主さんのトラブルに巻き込まれ、ある日突然、裁判所から呼び出しを受けました。いずれ立ち退かざるを得ないという状況の中、マクロビを勉強したことで、自分たちが食べるお米や野菜を自分たちの手で育てたい、自給自足をしながら半農半Xというライフスタイルにシフトしていきたいという思いが強くなりました。

東京では100%お金によるやり取りでしか暮らしは成り立たないけれど、もっとほかの方法もあるのではないかと考えるようになったのです。

ちょうどそのころ、若年性アルツハイマーを病んでいた明日香さんのおとうさんの病状が悪化。両親は名古屋から三重県の東員町に引っ越しており、二人姉妹の長女だった明日香さんは英樹さんと共にたびたび三重の実家を訪れるようになっていた。

地方で空き家を検討するポイント

二人が移住先として考えたのは、明日香さんの実家から1時間圏内の場所。何かあればすぐに飛んで行ける距離だ。暇があればネットで空き家物件を検索。興味を持った所には、三重に行った際に立ち寄って見学するという日々が続いた。

そして、運命の出合いはやってきた。ある不動産会社がネットで公開していた物件を見るため、上石津にやってきた二人は、担当者の手描きの地図を頼りにウロウロ。すると、近所の女性が「どうしたの?」と、声をかけてくれた。

理由を話すとその女性は「だったら、自治会長さんに頼んで家の中を見せてもらいなさいよ。」と言い、養老町在住の家主さんにも連絡をつけてくれた。中を見せてもらったところ、状態も良くすぐに住める状態であることがわかった。

(英樹さん)明日香の実家に行く途中、上石津は何度も通って良い所だなと思ってはいましたが、地域の人と話したのはこの時が初めて。しかも、時地区の案内までしてくれたのです。それはまさに神対応! 明日香の実家にも近いし、ここならなじんでやっていけそうだなと思いました。

(明日香さん)上石津には何とも言えない心地よい時間が流れていて、ここで生活できたらいいねと二人で話し合って空き家の購入を決めました。

地方移住と地域コミュニティ

2008年4月、二人は上石津へ移住。英樹さんは地域の寄り合いで挨拶し、終了後には歓迎の宴席が設けられた。

家を購入したことで貯金を使い果たした二人は生計を立てるため、英樹さんは関ケ原にある清掃会社で、明日香さんは三重県いなべ市の病院にあるスタッフのための託児所で働き始めた。

典型的な農山村地帯である上石津において、地域コミュニティの結束力は、都市部のものとは比べ物にならないほど強い。たとえ移住者であっても、地域の行事や活動にはできる限り協力しなければならない。でないと、コミュニティを維持することができなくなるからだ。二人はそれを当然のこととして受け入れたそうだ。

地域の活動団体の一つに消防団がある。有事に際してはもちろんだが、年1回大垣市で開催される水防大会、操法大会に参加しなければならず、そのための練習がほぼ毎晩のように行われていた。帰りは10時、時には11時過ぎることもある。最初は抵抗を覚える新入団員もやがて団になじみ、数年間消防団として仲間とともに活動する。英樹さんも消防団に入り、大垣市の大会に地区の代表として出場した。

一方、明日香さんは、地元のおばあちゃんたちのおしゃべりサロンに参加するようになった。

子どもがいなかったのでPTAにも縁がなく、同性代の人と知り合う機会がありませんでした。サロンに行けばご近所さんとも仲良くなれるし、私はおばあちゃん子だったので、時のおばあちゃんたちの智恵を学びたいと思ったのです。

東京時代、天然酵母パンの店でバイトをしながらパンのレシピや焼き方を学んだ明日香さんは、その後パン屋に転職し、石窯パンを担当。しかし、おとうさんの病状が悪化してフルで働くことが難しくなったため、在宅でも可能なインターネット販売の仕事を任されるようになった。

再び訪れた人生の転機

自給自足を夢見て上石津に来た二人は、家の前の田んぼや畑で米や野菜を作り始めた。農薬も肥料も使わない自然農法を実践。秋にはハサ掛け天日干しのおいしい米がとれるようになった。

やがて、英樹さんは自宅の物置を改造して、家具を創り始めた。誰に習ったわけでもないが、劇団員時代に大道具や小道具を作っていたことから覚えたのだという。

英樹さんの作る家具は主に廃材を利用したシャビー感漂うスタイリッシュな作品。ネット販売も好調で次第に顧客もつくようになった。また、牧田まちづくり協議会の依頼により、保育園の卒園記念に「智恵増(ちえます)」という上石津の間伐材を使った積木を作るようにもなった。そんな時、再び人生の転機が訪れたのである。

「大垣市かみいしづ緑の村公園」の入口に小屋があるのですが、長い間使われることなく放置されたままになっていました。そこを使って店をやってみないか? 大垣市が募集しているよと、知り合いが勧めてくれたのです。

緑の村公園は上石津町時代からの里山体験施設で、春から秋にかけてファミリー層でにぎわう。毎年7月には「もんでこ上石津」という大きなイベントもある。店舗となる小屋は国道365号沿いにあり、立地条件も悪くない。

おとうさんの介護や、ようやく定着してきた半農半Xの暮らしができなくなることを考えると、二人とも乗り気はしなかったが、背中を押してくれたのは、おとうさんの介護で大変な明日香さんのおかあさんだった。

良いお話だったら、やってみたらどう?

サードステージへの二人の心の扉が開いた。

上石津にはいろいろな宝物があるので、それらを集めて店に並べたい。すごい人もいっぱいいるので、その人たちのことを紹介したい。上石津で店をやろうという気持ちがどんどん強くなっていきました。

地域のアンテナショップとしての役割

大垣市との契約も済み、英樹さんは約1ヵ月半かけて自力で小屋をリノベーション。木の香り豊かな、手づくり工房「あめんぼ」が誕生した。二人が上石津に移住して5年後、2013年のことである。

炭焼きアート、草木染めのショールやスカーフ、刺し子、陶芸、ガラス作品などのクラフトや、上石津のお茶や卵などが並ぶ地域のアンテナショップ。横の小部屋は奥で調理ができるように改装した。キノコやブルートマトなど地域の野菜を使ったオリジナルの里山ピザや、英樹さんの故郷である北海道産の生乳を使ったソフトクリームなど、これまでの上石津にはなかった魅力的で新鮮なメニューは国道365号を通る人々を引き付けた。

それまで遠巻きに見ていた地元の人たちも足を運ぶようになり、店先に置かれた電線ドラムを再利用したテーブルでコーヒーを飲んでくつろぐ姿も多く見受けられるようになった。

「あめんぼ」の隣には「桧」というカフェがあった。総ヒノキ造りのおしゃれな建物だったが、オーナーも高齢で後継者もいなかったことから、二人に店を買ってもらえないかという話が持ち上がった。

工房でもピザは焼いていましたが、どうせなら自分でピザ窯を作って焼きたいと思っていました。カフェがあればそれが可能になりますし、上石津産の薪を使って焼くこともできます。ピザと言えばナポリが有名ですが、ナポリに行ったことはなくても現地に負けない窯を創る自信はありました(笑)

カフェをオープンすれば今まで以上に忙しくなることはわかっていた。それでも二人は購入に踏み切った。より多くのことを可能にするために・・・。

お客さんの紹介で、家庭用のピザ窯を製品化しようとする会社がいなべ市にあることを知り、窯の火入れの様子を見学。アドバイスをもらいつつ、英樹さんはほぼ独学で窯を創って行った。。カフェができたことで英樹さんはカフェを、明日香さんは手づくり工房を担当することになった。リピーターも増え、休日には駐車場が満車になることも珍しくなくなった。

地方で、地域に支えられて共に生きる

その後、二人の間に待望の赤ちゃんが誕生。出産後、店に出られない明日香さんを支えたのは、おかあさんや信頼のおけるスタッフたちだった。

10年以上子どもができず、あきらめていたので、授かったと分かった時は本当に嬉しかった。みんなからは奇跡の子と言われています(笑)。でも、夫婦二人の暮らしが長くて生活環境が大幅に変わったことで大変なことも・・・店と家庭との両立は難しく、一時は工房を閉めようかと思いましたが、皆さんに助けられ、続けることが可能になりました。

生後半年以上が経ち、最近では明日香さんも娘をおぶって出勤することもある。

一昨年からカフェではジャズなどのコンサートも行うようになった。元々音楽好きな二人は東京でもそうであったように、上石津でもカフェを拠点に楽しいイベントを仕掛けていこうと考えている。

上石津は冬が厳しく、積雪量も少なくありません。国道を通る人は春~秋に比べると極端に少なくなります。時にはほとんどお客が入らないことも・・・。冬の営業に関しては週末だけにすることなども考えています。

でも、上石津を出て行こうとは思いません。ぼくらはここが好きだから・・・。今、上石津は農業生産者の動きがちょっとおもしろくなってきているので、店としてバックアップしていきたい。情報発信も含め、一緒に商品化することなども考えていければいいなと思っています。

地方で生きていく。支え合い、共に生きていくためには、本当に好きな地域に出会えるか、それが大きな鍵だ。

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