骨董通りから少し奥まった洗練されたショップやカフェが並ぶ商業スペースの一角に「ふくい南青山291(以下、291)」はある。
ガラス越しに見る店内はセレクトショップかのようだが、その奥にはずらりと日本酒の酒瓶の並ぶ棚も見える。昼時には、鯖寿司やパンを手にしたサラリーマンが出入りする。
ここは何だろう?と興味を惹かれる291館長の井上義信さんにアンテナショップにこめた想いを伺った。
アンテナショップは福井と東京との循環の起点
井上館長(以下、井))アンテナショップは、地元のいいものを並べる物産館とは違うのです。291があるのは東京ですが、ここは福井と東京をつなげる接点だと考えています。一言で言えば「情報の発信、収集ができる場所」でしょうか。
福井にある伝統工芸や味文化といったものと首都圏をつなぎ、お店でのお客様との接点を通して、お客様の意見を集める。お客様との接点があるサービス業は、一番情報が集まる場所なのです。ここで集めた情報は首都圏でモノやサービスを売りたいと思っている福井県の企業にフィードバックする。その循環を起こしてこそ、アンテナショップの意味があると考えています。
近所の人たちが遊びに来てくれる店にしたい
井)私がここの館長になったときにまず考えたことは、この南青山という土地の持つ「かいわい性」を大事にしたいということでした。
まず近隣の住民の方々に愛されて、ご家族揃って遊びに来てもらえるような店づくりをしたいと思いました。
その場所が持った個性や文化と溶け合った地域に対してオープンな店にすること、近所に住む人たちに近くにあることを自慢してもらえるようなお店であること、というコンセプトを強く意識しています。
かいわい性を大事にした結果、アンケートなどの調査によると、291を利用してくれるお客様の3分の1以上が周辺に住む住民の方々です。土地柄、高級マンションなども多く、生活レベルの高い比較的裕福な方々が近所に住んでおられます。
路面でもなく、一見のお客様が入りやすいロケーションでもないので、目的性をもってお店に来てもらえるようこの三年間弱、お店に人を呼びこむ取り組みを、いろんなアイディアを駆使してきた結果、周辺の住民の方々からは生活の一部として使っていただけるようになってきたと思います。
「かいわい性」が様々な人を呼び込む
井)これもかいわい性の話につながりますが、次の3分の1は南青山エリアを散歩していてたまたま通りかかった方々、また南青山エリアにお勤めの方々です。
こうしたお客様は、「福井県だから」という理由で291を使ってくださるわけではないかもしれませんが、「なんか面白そう」「おいしいお弁当がありそう」と思って店に来てくださる。
例えば、こうしたお客様に鯖寿司を買ってもらうとしたら、鯖寿司一本だと東京では量がちょっぴり多いので、半分の大きさにしてOLのランチやお年寄りにも食べてもらいやすくしました。こうした南青山という土地柄に根ざしたお店づくり、商品づくりをしてきたからふらりと立ち寄ってくださるお客様が増えてきたのだと思います。
残り3分の1が、福井県となんらかの関係を持つお客様。例えば、福井県生まれで東京に嫁いでこられている方が、福井県の食べ物が恋しくなった、と言って訪れてくださるお客様もいらっしゃいますよ。
品質の良いもので勝負する
井)291には、産地から直送されたお米やお魚の加工品がたくさん並べられていますが、ここでは価格訴求はしません。お客様の価値観に合った商品を提供すれば決して価格的に安くなかったとしてもお買い上げいただけるのです。
また、アンテナショップにはここでしか買えないというものがたくさんあります。並べられている商品にはそれぞれ、歴史、文化、地域性があり、そこに首都圏の人が魅力を感じるのだと思います。
例えば福井県はめがねや若狭塗りのお箸が有名な特産品です。若狭塗りのお箸はNHK朝の連続ドラマ「ちりとてちん」の主人公が福井の若狭塗り箸職人の家出身だったことから一躍有名になり、お客様増加のきっかけにもなりました。
ここ291には、若狭塗りのお箸を数多く揃えています。お箸をはじめ、地元の作家たちと291がコラボレーションして商品開発した雑貨などを「291Style」というシリーズで展開してお店でも紹介しています。元々持つ素材のよさに加えて、291が受信したお客様の望むものを形にすべく商品開発しています。
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