前回に引き続き、「日本型グリーン・ツーリズム」の可能性を探っていきます。「日本型グリーン・ツーリズム」は諸外国に比べてバラエティに富んだツーリズムの形を生み、「交流」から「協働」への進化を遂げています。
日本型グリーン・ツーリズムには多彩な顔がある。
「グリーン・ツーリズム」とは西欧諸国から導入された概念で、農山村の資源は社会的な共通の資本・財産である、という考え方から、社会や国としてどう守っていくかという意識がとても強いのです。長期有給休暇を利用した滞在が多いですが、実際に農家との交流といった側面は小さいようです。
これに対して、日本型グリーン・ツーリズムは農林水産省の資料では、「緑豊かな農山漁村地域において、その自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動」と定義されていますが、実際は「滞在型」が主流ではなく、「身の丈」に合った小規模ながらも質の高い交流が行われており、その類型は持続的・双方向の交流や実践を基軸にバラエティに富んでいて、その裾野はどんどん広がっています。
こうした、日本独自のグリーン・ツーリズムが展開していった背景には、今までの市場原理で対峙してきた「食」と「農」の関係性の回復に向けた地域密着型の実践がその根本にあるのです。
それでは、「日本型グリーン・ツーリズム」における類型をみていきましょう。
都市と農村の交流拠点としての農産物直売所
先ずは、「直売所」という生産者と消費者の接点を生みだすかたちです。
70年代は無人の直売所が多かったのですが、90年代に入ると行政・第三セクター・農協等が中心となって常設大型直売所が各地に出始めました。さらに最近では生産者経営が60%を超えるようになってきています。
そこには多角化経営の波も表れ、ただ野菜を売るだけではなく、様々な事業を複合的に組み合わせた経営が進んでいます。例えば、有機・朝採れ等の差別化商品の販売、加工品開発、消費者との交流・体験ができるイベント、レストラン運営等といったものです。こうした取り組みが消費者を捉え、今では農産物直売所は全国で1万箇所超え、販売額も2,300億円を超えるまでになりました。
直売所を設置する目的は、元々規格外品の販路確保・現金収入の確保、高齢者・女性の役割発揮と意欲向上、自給農家から販売農家への転換、といったものが中心でした。
それに加えて、近年は都市と農村の交流拠点としての役割として、名前や出荷日を表示する等「顔の見える」流通への期待、常設によるリピーターとの日常的交流といったことが求められるようになっています。
「市民農園」で気軽にもっと農業を
市民農園とは市民が有償または無償で農地の一定区画を借りたり、入園したりして、趣味的に利用する農園のことを言います。
以前は「貸付方式」というかたちで、借りた市民それぞれが自分たちで作物を植え、管理するといったものが主流でしたが、作物を育てる絶ためには、それ相当の知識や経験が必要となり、なかなか継続して借りる人が少なかったり、初心者は参加しにくいという点がありました。
そこで、最近増えてきているのが「農園利用方式(体験農園)」。農園の作業の一環を区画毎にお手伝いをしたり、作物を育てるのに農家のアシストがあるなど、様々なかたちで初心者でも入り易く、わかり易く、参加しやすい方式が急速に伸びています。
農家にとっては農作物収入外の新たな収入源としてのビジネスモデルでもあり、また、新たな農業の担い手の創出にも繋がります。また、市民の側からとってみても農作業が気軽にできるだけでなく、食や農に対する教育につながるものといえるでしょう。
東京都でも練馬区にもこうした体験農園の取組がなされており、特に都市近郊の農村ではこうした「農園利用方式(体験農園)」のよる市民農園の在り方は非常に効果的であるといえるでしょう。
泊まり、語らうことで本当の農業が見えてくる「農家民泊」
農家に泊まる「農家民泊」というかたちは、都市部の小中学生・高校生の修学旅行等での体験教育旅行として盛んになってきており、全国的には約16.5%で実施されているといいます。
そのための旅館業法や食品衛生法の規制緩和等の法制度も整備され、「農家民泊」は拡大傾向にあります。
農家民泊を行う効果は、その一件に留まらず、地域全体に広がっていきます。まず、農業外収入を得る手段として、やりがいが芽生え、人材活用の機会が生まれるなどの地域経済へ活性化への貢献があります。
そして、受け入れ農家が緊密に連絡を取り合うことによって、地域のコミュ二ティの再生の動きとなり、また、高齢者の生きがいを創出する効果も生まれます。
こうした農家の再生、地域再生の可能性を秘めた農家民泊は今後も広がりをみせていくのではないでしょうか。