秋津野の農産物直売所「きてら」には「きてら俺ん家ジュース工房」があります。
ここは日本一小さいジュース工場。広さは10畳ほどの広さしかありません。
しかし、ここから先人の想い、地域の想いが実る日本一美味しいジュースが生まれたのです。
美味しさが本当に伝わるものを届けたい
そのまま商品として出せないみかんは非常に多くあります。形が悪い、表面にキズ跡や、中までは到達していないが、表皮が病害虫に侵された跡があるもの。こうしたものは味は全く同じなのに、捨てられることが多く、なんとかしたいという想いがずっとあったそうです。
もちろんジュースにする、ということは以前からやっていたそうですが、それは他人任せ。みかんをJAを経由で大規模ジュース工場に納入して、和歌山のみかんジュースとして出荷されていました。このときのみかんはキロたった3円程度で取引され、集荷費、輸送費等を考えるとほとんど利益にもならない。そしてなんといっても「この秋津野の地域の美味しいみかんの価値が多くの人に伝わらない」という想いがつのり、自分達でジュース工場を作ろう!という動きになったのです。
補助金に頼らない地域経済をつくる
この想いを実現すべく、31人の有志が資金を募り、立ち上げたのが「俺ん家ジュース倶楽部」。秋津野のみかんをそのまま利用した、無添加・無調整のみかんジュースを作ろう、ということになりました。
ここでポイントとなるのが「補助金を使わなかったこと」。もちろん補助金は新規事業立ち上げの際に大変に力になるもの。しかし、このときはその選択をしなかったのは、早くなんとかしたい、機動性を確保して、やりたいことを即実現したかったのです。そしてそれを頼らず「自分達で、自分達の経済を回していかなければ」という想いがあっての選択だったといいます。
補助金に頼らなかったので、たちあがりは非常に早かったそうです。早速直売所の「きてら」の一角に工場を建て、アメリカ製のジュース搾り機を導入し、ジュースづくりに励むという体制まで一気に進むことができました。
しかしジュース加工技術のノウハウはほとんどなかったので、一から習得する毎日だったそうです。それを試行錯誤する日々が続ましたが、計画ができてから実際の商品化まで1年で成し遂げられたのです。
「秋津野の」ミカンジュースだから買うんだ
こうして進められた「俺ん家ジュース」計画。ほんとうに美味しいのか、そして秋津野の地域の美味しいみかんの価値が伝わっているのか、が一番気にかかるところ。
そうした不安を解消してくれるのがお客さんの声。「きてら」店内のジュースサーバーで販売でも好評で、また「きてら」の人気商品で、秋津野地元の農産物を盛り込んだ「ふるさと詰め合わせセット」にジュースを入れて販売したときに、多くのお客さんからいただいた、「本当に美味しい」との声。ここで「『秋津野の』地域の美味しいみかんの価値が伝わっている」ということを確信でき、本当に伝えたかったことを伝えられたのだ、という気持ちになったそうです。
秋津野地区では、一年中多くの柑橘類を栽培できる多種多品種栽培体制をずっと昔からの努力で築きあげられています。温州みかん、ポンカン、三宝、デコポン、清見オレンジ、バレンシア等。これらを地域活かして、さらに秋津野の良さをこの「俺ん家ジュース」に乗せて多くの人へ伝えていくことに挑戦する毎日がまた続いています。
地域経済に循環をもたらす「俺ん家ジュース」
俺ん家ジュースは地域経済を潤し、また地域の経済を循環する仕組みを構築できました。以前のJA経由で他人任せのジュース生産では、60tJAに出荷して地域に18万円の収入しかなかったのが、「俺ん家ジュース」によって2000万円の収入になりました。この資金がまた地域の生産品質・加工技術のアップにつながる、こうした農工商の連携が生まれるのです。
スタートアップの補助金や援助というものはもちろん必要です。この秋津野の事例では、若干資金に余裕があったりしたという点もありますが、地域にあるもの全体を
見渡したなかで、非常に経営的な視点から最適の方法をとった成功事例といえます。事業を一つでみるのではなく、地域全体としてその事業の位置づけを考えて、あらゆる選択肢から一つをチョイスすることが大切です。
しかし、一番は「秋津野の良さを自分達の力で伝えるんだ」という気持ちであることは間違い無いようです。