都市部から地方へ移住する人が増えている。親類や知人がいない地にやってきて、そこに根を張る。ただ単に、「好き」なだけではやっていけない。
人口約8万人。本土と橋で繋がっている離島自治体の中では最も人口の多い、熊本県天草市。天草市に移住した山田さん夫妻は、「天草に思い入れはない。」と話す。そんな山田夫婦のお話を伺った。
熊本移住:ものづくりと農業で離島暮らし
山田紘平さん(34)と未央さん(32)の夫妻は、2015年に熊本県天草市に移住した。現在二人は、週3日地域の集落営農の手伝いをしながら、皮革製品とスケートボード廃材のアクセサリーショップ「麻心商店」の運営、有機野菜の栽培・販売で生計を立てている。
海外での有機農業との出会い
天草に移住する前の二人は、日本と海外を行き来する放浪生活を送っていた。北半球と南半球とで季節が真逆なことを生かし、世界中の農繁期の農家を渡り歩いていたという。農家の手伝いをしながら金を貯め、貯まったら新しい土地に行く。
「いろいろなものを見てみたい。」放浪の旅を続けていた二人が天草に定住することを決めたのは、タイミングが重なったからだった。
ニュージーランドに行ったときオーガニックの農業を知った。売るためのものではなく、自分が安心して食べられるものを作りたい。
移住定住して農業を始める
子どもの頃から、「ものづくりをすることで自分を表現したい。」と思っていた紘平さんにとって、ニュージーランドでの経験は何を作るかが明確になった時でもあった。
農業をするには定住をしなければならない。定住するなら温暖なところがいい、そう考えた二人は親類のいない九州で移住先を探し始めた。ものづくりをしている二人にとって譲れない条件は、工房スペースをとることのできる家と、自宅近くで畑を借りられることだった。
空き家選びの決め手は「人」
現在、空き家バンク制度は一般的になってきてはいるものの、まだまだ登録物件は多くない。移住先を探していた当時、自治体の職員が直接案内してくれるところも少なかった。そんな中、たまたまやってきた天草で空き家バンクに登録されている物件の中から条件に合った家を見つけることができた。
候補が複数あったのに、なぜこの家にしたのかを尋ねた。
最終的には人で選んだ。手伝いに行っている集落営農の代表の方が家の仲介をしてくれたし、畑も貸してくれた。家を見に来たときに、近所の人を含めて話ができたのがよかった。
天草は熊本市内から1時間半ほど離れたところにある。二つの地域は、東京と箱根のような関係だ。熊本の人からすると、天草は海水浴や温泉を楽しみに行くような場所。定年後に天草の海の景色と温暖な気候に魅かれて、移住を決める人も多い。
自分のペースで生きる
「自分のペースで生きる」ことに強いこだわりを持っている二人は、他との差別化はあまり意識していない。「単に売れるものを作る、生産量を増やす。」という発想はほとんどないように見受けられる。
オーダーメイドの商品は、完成品のサンプルだけでなく材料の現物を見ながらじっくり選びたいという客のニーズも強いという。「将来は家を改装して店舗やカフェを併設したい。」と話してくれた。
おカネは本当に地方移住の課題か?
やりたいことを実現できる場所だから、天草を選んだ山田夫妻。「美しい景色や食べ物に魅かれてやって来たものの、さて何をしようか・・・」という移住者とは、アプローチの方法が異なる。
みんなお金の心配をするけれど、世界を旅しているといろいろな立場や考え方の人に出会う。日本の常識は、常識ではないと感じるようになった。今後、家族が増えてお金が必要になったら、その時はまた働きに出ればいい。
それはやりたいことを諦めるのではなく、やりたいことを続けるために必要なことだから。
外に手伝いに行って現金を稼ぎつつ、自分たちのやりたいこともやっていく二人。あなたは、何で移住先を決める?