岡山県の最北東端に位置し、兵庫県・鳥取県と県境を接する人口1500人ほどの村、西粟倉村。面積の約95%が山林という環境で、「百年の森林構想」を掲げ、森林との共生に向け歩み出した地域だ。
そんな西粟倉村で、林業の活性化やローカルベンチャーのプラットフォームづくりに取り組んでいる牧大介氏に、地域プロデューサー・齋藤潤一氏がお話を伺った。
牧 大介氏(写真:左)
京都府宇治市出身。京都大学大学院農学研究科卒業後、民間のシンクタンクを経て、株式会社アミタ持続可能経済研究所の設立に参画。森林・林業、山村に関わる新規事業の企画・プロデュースなどを各地で手掛ける。06年から地域再生マネージャーとして西粟倉村に赴任。09年より株式会社西粟倉・森の学校を設立し、代表取締役就任。15年、株式会社森の学校ホールディングスを設立。16年に森の学校ホールディングスをA0(エーゼロ株式会社)に変更。
齋藤 潤一氏(写真:右)
地域プロデューサー。慶應義塾大学大学院 非常勤講師/MBA (経営学修士)
1979年大阪府出身。米国シリコンバレーのITベンチャーで、ブランディング・マーケティング責任者を務め、帰国後に起業。震災を機に「ビジネスで持続可能な地域づくり」を使命に活動開始。ガイアの夜明け・NHK・日経新聞等に出演・掲載。
地方の可能性とローカルベンチャー
齋藤
今回出版された本のタイトルにもありますが、牧さんは「ローカルベンチャー」をどう定義付けているんですか?
牧
あんまり、定義付けはしていなくて。意味付けというか、文脈で説明している感じです。
「地方にベンチャーがあってもいいよね。」というだけで、それ以上のメッセージは特に無いんです。ベンチャー = IT = 東京 みたいなイメージが強いので、地方でもベンチャーは存在し得るし、成長していける。
ローカルベンチャーは、「それが、ありえない。」という固定観念を外すところから可能性を探っていきたいということで使っている言葉です。
齋藤
どうして、ありえないという固定観念を外したいと思うんですか?
牧
固定観念を外すこと自体が変革につながると思っているので。逆に思い込んでいると、どんどん過疎化していく。
やる前から「無理、地域は縮むしかない。」って言って縮んでいくのが、昔から気持ち悪かったですね。
農学部の学生だったんですが、その頃から、縮小にどう対応していくのかという議論があったし、いかに日本の林業が国際競争力を持ち得ないかということを論理的に丁寧に解説されたりしていました。
そういう授業を聞いて、こんな授業をやっているから日本の田舎は良くならないんじゃないかと思っていました。それが原点で、やるだけやってみたいというのがあります。
後、ETIC. との出会いは大きかったです。ソーシャルベンチャーが出始めの頃にETIC. と接点ができて、ベンチャーや新しいビジネスをつくっていくっていうのは、ITというものに限定されるわけではなく、地域の課題を解決していく・地域の可能性を掘り起こしていくベンチャーがあっても良いと思えたのは、ETIC. に関わり始めた2003年ぐらいからですね。
ETIC.:次世代の起業家型リーダーの育成と社会へのイノベーション創出を通して、変革と創造にあふれるコミュニティづくりに挑むNPO法人
ローカルベンチャーへの想いとビジョン
齋藤
学生時代の話もありましたが、その根源的な想いや原体験のようなものとして、具体的にどんなことがありましたか?
牧
学生時代は、地域に関わっていたけど、後ろ向きすぎて。その後、シンクタンクに入ったんですが、地域に行ってコンサルタントをしたり、色んな計画を作ったり、調査をしたりして、提案はするわけです。
例えば、ある県の産品をブランディングしていく時に、誰がそこにコミットして努力をし続けるのかということをクライアントに聞いても、とりあえず調査をして提案をしてくれたら良いと言われて、その後、誰がどうするかは分からないという話が多くて。
地域に可能性はあると思うし、感じるけど、実際にやる人がいないままコンサルをしているのが、仕事として気持ち悪かったんですよね。
そこから、地域にプレイヤーがいないという問題意識と、ETIC. で出会ったソーシャルベンチャーの人たちというのが頭の中でつながって、ローカルベンチャーって言い出したんです。
齋藤
自分は、誰もが自分らしく生きる・働くという社会をつくれれば良いなあと考えてるんですが、ローカルビジネスやローカルベンチャーの先にあるものは何でしょうか?
牧
ローカルベンチャーって、仕事を生み出していく存在だと思うんだけど、色んな仕事や色んな役割を生み出していく、地域性やその人にあった出番をつくっていけると思っています。
大きさも含めて色んな会社・ベンチャーが地域にあるということで、地域の人がどこかで活躍できるという確率を上げていくことなんじゃないかなあ。
地方で地域に関わる仕事の意義
齋藤
もちろん、シンプルにそうだったらイイじゃんというのもあると思うんですが、牧さんは、どうしてそういう社会をつくりたいんですか?
牧
それができると、地域で生まれ育った人が出て行かなくてもよくなるんじゃないかあと。もちろん出ていっても良いし、出ていくのが悪いというわけではなくて、そこで暮らしたいと思っているいのに暮らしていけないというのが、寂しいなあって思います。
齋藤
牧さんを動かしているものは、楽しいとか、つくりたい未来があるとか、チャレンジしたいとか、色々なものが混ざっている印象ですが。
牧
でも、最終的に、僕はこうしたいというのがあんまり無いんですよ。
僕自身の内発的に出てくる意思が強くあるというよりは、地域の人と接していく中で、こうなった良いなあという想いが蓄積している。
ずっと地域に関わって、地域の人と仕事をしていると、そこにいる人たちが幸せになったら良いなあと素直に思うというか、それ以上のことはそんなに無いんじゃないかなあ。
齋藤
自分たちは、ローカルベンチャーも生み出しつつ、本質的に価値の高い会社という意味で上場企業や世界的な企業も生み出せる生態系にしたいと思っています。
上場してお金を儲けるのではなくて、結果として上場する企業も生まれたという土壌をつくりたいんです。
牧
ある程度の規模の会社っていうのは、やっぱり出てきた方が良いですよね。
お金があるとできることっていっぱいあるし、ちゃんとこれぐらい儲かっているよ、成長しているよという姿は見せていきたいですね。
地域にはビジネスの可能性があふれている
齋藤
地域にはビジネスの可能性があふれていて、僕らからすると、地域にビジネスが当然必要だと思うんですが、中にはそう思わない人や無関心な人もいます。
「このままだと、持続可能じゃないよ。」と言っても、「何とかなるでしょ。」「行政が何とかしてくれる。」「良く分からない。」という無関心な人もいると思いますが、そう考える人たちに対して、牧さんはどういうメッセージを送りますか?
牧
送らない(笑)
自分が楽しい、思いっきりハッピーでいるしかない。分からないことに対して、人間はどうしても嫌悪感を感じてしまう。
逆に、楽しそうにしている人には、みんな好意的に関わってくれるので、周りに合わせるのではなくて、自分がどう在るかだけかなと思います。
齋藤
地域のビジネスには可能性があると言われていますが、その可能性ってもう少し噛み砕くとどういうことですか?
牧
「過去50年以上にわたって、可能性があると思ってこなかった」という所の可能性というか。別に東京にだって可能性はあるし、田舎にだって可能性はあるし、誰にだって可能性はあるという、改めて言うほどの話ではないです(笑)
ただ、当たり前なんだけど、「可能性があるよね」って言うことに意味があるぐらい、「可能性が無い」という固定観念があるんじゃないかなあって思います。
10年後ぐらいに、僕の本を手に取った人が、「何言ってるんだろう、この人? そりゃ、どんな地域にだって、どんな人にだって可能性はあるでしょ。」「いちいち、可能性があるって言わないといけない時代だったんだあ。」と、読まれるようになると思います。
ただ、今の時代、今の状況の中で、ローカルベンチャーとか地域の可能性とかを言う意味がある。
齋藤
東京に可能性があるって、僕らも当たり前に思ってますけど、地方に可能性があるって言うと、「どんな可能性?」ってなってしまう。
本当に10年・20年後先は、地域のビジネスに可能性があるって言うと、「当たり前じゃん。」っていう時代が、絶対来るでしょうね。
きっと今まで誰も掘り起こさなかったものが、たくさん地方に残っている。それが、今、いろんな形で見えてきていますね。
どうもありがとうございました。