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地方創生ICT特集:中村彰二朗さんに聞くスマートシティと地域の未来(会津若松市)

地方創生ICT特集:中村彰二朗さんに聞くスマートシティと地域の未来(会津若松市)

    CATEGORY: AREA:福島県

2011年3月11日、東日本大震災。その日を境に、東北は大きく変わった。そして、尊い犠牲を胸に刻みながら、東北は前に進み続けている。

福島県の西部に位置する会津地方の中心都市・会津若松市では、2011年12月に復興計画を策定し、2012年から「スマートシティ会津若松」の推進を掲げてきた。

そのスマートシティ構想を実現するため、会津若松市・会津大学・地元企業・地元に拠点を持つ大企業による産官学連携の団体「会津若松(現・会津地域)スマートシティ推進協議会」を立ち上げ、事業を推進してきた。

その参画企業の1つに、世界最大級の総合コンサルティング企業である「アクセンチュア株式会社」がいる。同社は、2011年8月に「福島イノベーションセンター(センター長・中村彰二朗さん)」を設立した。

持続可能な地域づくりを実現するために、全国で地域課題を解決する起業家育成とビジネス創出に取り組む、地域ビジネスプロデューサーの齋藤潤一さんと共に会津若松を訪れ、センター長・中村さんにお話を伺った。

中村彰二朗氏(写真:左)
アクセンチュア株式会社 福島イノベーションセンターセンター長
1963年生まれ、宮城県出身。IT業界〜経営コンサル業界、25年間従事。3.11以降は、福島県復興の為に設立した福島イノベーションセンターのセンター長に着任、東日本の復興および日本の再生を実現するため、首都圏一極集中のデザインから分散 配置論を展開し、社会インフラのグリッド化、グローバルネットワークとデータセンターの分散配置の推進、再生 可能エネルギーへのシフト、地域主導型スマートシティ事業開発等、復興プロジェクトに取り組んでいる。

齋藤潤一氏(写真:右)
地域プロデューサー。慶應義塾大学大学院 非常勤講師/MBA (経営学修士)
1979年大阪府出身。米国シリコンバレーのITベンチャーで、ブランディング・マーケティング責任者を務め、帰国後に起業。震災を機に「ビジネスで持続可能な地域づくり」を使命に活動開始。ガイアの夜明け・NHK・日経新聞等に出演・掲載。

震災復興から地方創生へ

アクセンチュアは、会津若松市内に「福島イノベーションセンター」を置き、協議会のメンバーとして、会津大学とも連携しながら、地域に根差した産学官連携を支援してきた。

スマートシティ推進協議会は、復興から地方創生の実現に向けて、「会津復興8策(現在の「会津復興・創生8策)」を策定し、先駆的なモデルとなる地方創生の仕組みをつくり、そこで得た成果を国内の他地域や海外へと展開しようとしている。

中村さんは、「日本で一番面白い取り組みが、会津で行われている。」と伝えてくれた。会津若松市は、自分たちの地域を様々な地域課題を解決する実証フィールドにしようとしている。

そうすることで、様々な企業が自分たちのサービスの実証実験をしたいと集まり、そこで蓄積されたデータがシェアされ、地元企業や会津大学発ベンチャーのチェレンジにも活かされていくのだ。

データの供給と豊かな暮らし

このような実証実験において、重要となるのが地域や地域で暮らす人たちの協力と自分たちが地域を良くしていくという主体性だ。

齋藤:地域を実証フィールドにしていくためには、どのようなステップが必要ですか?

地域の方々に、「データを活用した方が、地域づくりや幸せな生活に繋がるんだよ。」ということを理解してもらうことです。

まずは、エネルギーの分野から取り組み始めました。消費電力という目に見えてわかりやすい結果が出ますし、プライバシーに関する懸念が少ないデータを扱いますので。

齋藤:その実現のために、大学とはどのような連携をしていますか?

実証実験を行う場合、重要になるのが分析官ですが、その人材が不足しています。会津大学の学生を分析官にするために、大学と連携して取り組みを進めています。

データを真ん中にして、市民も良くなるし、国も良くなる。地域の人たちが求める理想のまちを市や学生と話し合いながら進めています。

これが、ヘルスケア(予防医療)の領域で行われれば、市民の健康寿命が伸びる。一方、地域・国としても、医療費の削減につながるというわけだ。

公助から自助・共助へ変える

6年半進んできた取り組みも、次のステージへ進もうとしている。持続可能な状態で、この仕組みを行うことができるかどうかという壁を乗り越えなければいけない。

齋藤:この事業に、市民はどのぐらい主体的に関わっていますか?

もっともっと「市民参加型」という意識を強めていきたいです。2019年までに、公助から自助・共助へシフトしていく計画で取り組んでいます。

大切なのは、誰かがやってくれているではなく、「スマートシティ」という共通ビジョンを市民が自分のものにできるかどうかです。

齋藤:どのようにすれば、市民参加型を実現できますか?

これまでは、特定のテーマで個別に議論されることが多かったです。例えば、医療の分野に専念して、デジタルガバメントを推進した方が良いなどです。

しかし、本当に市民参加型を実現するためには、エネルギー・健康・子育て・観光など、市民生活に関わる分野を広く横断的にカバーし、市民の幅広い関心・ニーズに応えていく必要があります。

軸足を市民に置いて、市民が欲しい地域の情報は何かを考えることが、非常に重要なポイントとなると、中村さんは伝えてくれた。

地域づくりで大切な住民意識

地域に今まで無かった仕組みを取り入れ、地域づくりを行っていくためには、地域の人たちからの理解と協力、更には自主的な参加が必要になる。

齋藤:地域づくりの難しさをどのように感じていますか?

求めるところと現実のギャップ、地域・議会・行政から様々なリアクションがある中で、地域の人たちの意識が変わるまで耐えられるかどうかが問題です。

「こうならないと、地域は良くならない。」という目線を下げてしまうと、イノベーションは起きません。目標も未達になってしまいます。時間をかけて、地域の人たちの理解を得ていくことが大切です。

地域が住民のライフデータを取得し、それを医療やエネルギーなどの情報と組み合わせることで、地域をより良くすることは可能だ。やはりそこでも、重要になるのは、住民の意識となる。

齋藤:能動的に市民からデータを渡してもらう信頼も必要かと思いますが?

そうですね。エネルギーから始めたのは良かったと思います。データを活かして家族会議をした話や、27%電力消費量が減って嬉しかったという話を聞いています。

データは活用してこそ価値が出るのだという理解が進んでほしいと思います。データを活用することで、まちが、自分の生活が、豊かになるという理解のもと、ではどのデータを公開するのか、市民それぞれが主体となって考えていく必要があります。

会津では、市が公開しているオープンデータのほか、「市民一人ひとりがスマートシティの主体者」との考えのもと、市民から事前に利活用の許可(オプトイン)が得られたデータを集めて活用しています。

会津若松市は、地方の新たな道を模索し、チャレンジし続けている。実証実験も含め、12万人という規模の地域だからこそ、地域のキーパーソンを巻き込みやすく、実現できることも多い。

自分の生活を豊かにする、地域をより豊かにする。そのためには、従来の考え方に固執せず、少しずつリスクを取ってでも、主体的に暮らしや地域をより良くしていく意識が、地方には求められている。