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地方創生。地域の課題を解決し、持続可能な地域づくりを実現する上で、新しいことにチャレンジする起業家の存在は重要だ。
しかし、起業家が生まれるだけでは不十分。起業家が孤立することなく、お互いにつながってコミュニティを形成し、協力したり連携したりしながら、共に課題解決にチャレンジし続けるための「場」の存在が必要だ。
そのような「場」として、コワーキングスペース・シェアオフィスが考えられる。2018年6月、地方中枢都市の1つである仙台に、「enspace」という国内最大級のコワーキングスペースが誕生する。
7階建てのビル1棟を購入し、新たな挑戦をスタートする、株式会社エンライズコーポレーション 代表取締役の吾郷克洋さんにお話を伺った。
地域課題をITの力で解決する
吾郷さんは、1975年の広島県生まれ。大学卒業後、ベンチャー企業に就職し上場を経験。2001年、IT企業の事業立上げに参画し、COOに就任。2012年に、株式会社エンライズコーポレーションを設立。東京に本社を置き、シリコンバレー・札幌・仙台・大阪・広島・福岡にサテライトオフィスがある。
現在、インフラを中心としたITCソリューション事業、エンジニア育成から行うヒューマンリソースバリュー事業、新規事業やサービス開発を行うベンチャーバンク事業という3つの柱で事業を展開している。
そんな吾郷さんが、なぜ、仙台にコワーキングスペース・シェアオフィスをつくろうと考えたのだろうか。これまでの経緯、そして、設立の理由やビジョンを伺った。
地域に必要なエンジニア人材
−なぜ、全国各地にサテライトオフィスを置いているのですか?
私たちは、「○○ × IT」という形で、地域課題をITの力で解決したいと考えています。そのためには、地域のリアルをしっかり理解する必要があります。
ただ遠隔でソリューション提供をするのではなく、地域に住所を置き、地域の課題を共有してもらい、効率化や売上アップなどを実現したいと考えています。
−拠点だけではなく、地方ではエンジニア人材も重要かと思いますが、どうですか?
同感です。地方にはエンジニアが不足しており、もっと必要です。私は、IT業界に20年以上いますが、近年さらに人材不足は深刻です。
そこで、私たちは募集するだけでなく、自分たちでエンジニア人材を育てることも行なっています。未経験者を集めて、ゼロから教育して現場で育成を行なっています。
−素晴らしいですね。そのためにも地方に拠点をつくり、人材育成をしているんですか?
そうですね。ただ、未経験者をエンジニアに育てるには経験と時間が必要です。まずは、東京にあるスクールで学び、最先端の現場である東京で仕事の経験を積んでもらった上で、地元に帰って仕事ができる仕組みをつくろうとしています。
これまで、150人の未経験者を集め、育成から取り組んでいます。その人材育成に5年はかけていますので、今少しずつ、東京から各地域の拠点に送り込んでいます。
シリコンバレーで感じた「熱い空気感」を仙台につくる
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−全国に拠点がある中、なぜ、コワーキングスペースを仙台につくろうと考えたんですか?
元々、札幌にサテライトオフィスがありましたが、東京と札幌の間にある東北が抜けていました。単純に縁が無かったのですが、実際に仙台を訪れてみると、非常に高い熱量とポテンシャルを感じました。
時間をかけて、色んな人に会い、色んな人と話をしました。その中で、考えていた構想を実現するなら、仙台しかないと思いました。それが、今回のコワーキングスペースです。
−考えていた構想とは、どんなものですか?
仙台に来る2年前、私が40歳の時に、シリコンバレーにサテライトオフィスをつくりました。そこでは、シェアオフィスに熱量の高い人が集まり、そして、投資家も集まって、ビジネスがどんどん生まれていました。
その「熱い空気感」に刺激を受け、世界を変えたい・良くしたいという高い志を持ち、ビジョンを共有しながら、時には激しい議論を交わせるような場を日本の地方につくりたいと考えたんです。
−作業するだけの場ではなく、色々な人たちが出会い、ビジネスを生み出す場が必要と感じたんですね。
そうです。現状、日本のコワーキングスペース・シェアオフィスの多くは、新しい人との出会いも少なく、個室にこもって作業をしているだけというのが多いです。
そうではなく、利用者や地域の人たちが出会い、さらには、東京や海外などの地域外の人たちと出会い、地域の課題と解決策を議論して、ビジネスを生み出していく場が必要だと考えています。
地方で課題解決の場づくり
−地方には、課題解決の実現を目指す人たちの集まる場がもっと必要ということですね。
はい。私は、そういう場やコミュニティづくりを地方で実現したいと考えていました。単なる箱だけあっても、そこからイノベーションは生まれません。
人が集まり、想いやビジョンを共有し、地域の課題を真剣に議論し、外からの出会いや刺激がある場が良質なコミュニティをつくり、それによって地域や社会をより良くするビジネスが生まれると考えています。
−今回、クラウドファンディングにも挑戦されていますが、多くの人から応援がありましたか?
コワーキングスペースを始める際、最初は1フロアだけを考えていましたが、どうせやるなら圧倒的で、全ての機能や施設が集まった複合的な場所にしようと、地元の七十七銀行さんに相談したところ、全面的に応援したいと融資をいただきました。
また、クラウドファンディングでも、多くの方々から支援や応援のメッセージをいただき、公開から2週間で目標額の250万円を達成し、まだ伸びています。これを機に、東京から、サテライトオフィスを仙台に出すという方々もいます。
−凄いですね。地域の外からの刺激や出会いを増やすという点でも、既に実現しつつありますね。
はい、大変有り難いことです。私自身も、EO Tohoku という仙台にある東北の起業家コミュニティに参加し、地域に入って、一緒に課題解決をしたいと思っています。
私は、ビジネスが生まれる場に「良質な出会い」が不可欠だと考えています。そのためには環境も大切で、出会う人たちそれぞれが、視野を広げて成長していく環境を「enspace」につくっていきたいです。
出会いからビジネスが生まれ、ITで加速する
−良質な出会いがある「場」をどのように実現していきますか?
私や会社で持っている人脈を活用し、普段仙台で話を聞けないようなゲストを日本全国・海外からお呼びして、イベントを行なっていきます。
また、低価格帯(月額2万円前後)のフリーデスク会員を中心に会員を増やし、多様な人たちが行き交う場所にしたいと思っています。そのようなプラットフォームを提供し、地域の人たちと一緒に「場」をつくっていきたいです。
−地域にとって、どのような存在を目指したいと考えていますか?
地域の課題をビジネスで解決しようとする人たちが出会い、ビジネスが実際に生まれるクリエイティブな場にしたいと考えています。
地域や社会に喜ばれ、必要とされるサービス・ビジネスを生み出すためには、課題への気付きを与えてくれる出会いや広い視野を得られる場が大切だと思います。
それは、1人ではできません。若い人も経験豊富な人も、仙台の人も東京の人も一緒に、ビジョンを共有する人たちでディスカッションし、新たな気付きを得ながら、地域の課題を解決していくビジネスが生まれる未来を描いています。
−そこで、IT企業である吾郷さんの会社は、どんな役割を果たすのですか?
ITは武器やツールで、新しいチャレンジをする人やビジネスを応援するものだと考えています。私たちは、そのツールの活用方法をアドバイスできればと思っています。
具体的には、「enspace」に当社の社員が常駐、あるいは、オンラインでITの活用方法を相談できる仕組みをつくりたいと考えています。ディスカッションの中で生まれたアイデアの実現や成長をITで加速できれば、そのビジネス・サービスはより多くの人に利用してもらえるはずです。
東北を課題解決の先進地に
「enspace」には、先行内覧会やクラウドファンディングを通じて、既に利用者が集まり始めている。私も実際に中の様子を見て、吾郷さんの話を聞き、利用を申し込んだ1人だ。
他にも、これからビジネスを始めるために拠点を持ちたいと考える起業家、仙台市内に複数店舗を持ちながら集約拠点づくりと人材採用のために利用を決めた経営者、地方へのサテライトオフィスをつくる東京の企業などが申し込んでいるという。
このコワーキングスペース「enspace」の「en」には、大切な5つの想いが込められている。
お客さまに価値を提供し、「ありがとう」を“対価(円=en)”でお預かりすること。ベンチャーとして実績が少ない中でも“応援(en)”してくれた方々との“ご縁(en)”。起業当初から“エン(en)ジニア”の力を活用し、可能性を最大限に高めてきたこと。どうせやるなら、楽しく、仲間とともに宴(en)をするように進めていきたい。
仙台・東北を「地域や社会の課題を解決する先進地」にしようとする場づくりが、始まろうとしている。私も、東北の起業家の1人として、主体的に参画していきたい。