日本の地方産業を支えている仕事のひとつ、農業。従来の経験や勘に頼る生産ではなく、ITテクノロジーの導入によって収量や品質を向上を試みる動きも活発になるなど、いま改めて注目されている分野のひとつです。
実は、UターンやIターンで農業を行っている方々の間で、「新しい農業」とも言える取り組みが始まっています。
「ひとりの農業」から「みんなの農業」へ
いま農業はひとりで孤独にやるというものではなくて、仲間と情報交換しながら、みんなで一緒に取り組む農業になっていると思います。
こう語るのは、宮崎県できゅうり農家を営むIさんです。22歳でUターンし、きゅうり農家の実家で2年修行したのち、独立。「いつか父を超えたい」と語り、きゅうり生産に取り組むお一人です。
30代を前に、規模は小さいながらも着実に成長し、若手農家の代表格として町でも知られた存在です。
彼が語る「みんなで一緒に取り組む農業になっている」とはどういうことなのでしょうか。
農業といえば、ひとりで黙々と取り組むようなイメージがあると思います。実際作業するとなるとひとりなのですが、例えば、勉強会を通じて、お互いのやっていることを共有したり、あれは効果があったとか、これはなかったとか、そういうことを共有するようになったと思います。
狭い視野でみると、同じ作物を育てているとライバルのように見えてしまうのですが、大事なのは、ここを産地として良いものをたくさん作れることだと思います。そういう意識がみんなの中に育ってきているように思いますね。
ベテランの農家への視察もできるように
「農家同士の飲み会も増えた」と語るIさん。従来では考えられなかったようなこともできるようになったと言います。
飲み会の場ではみんな熱く語るんです。こういうふうに育てたいとか、目標がこうだとか。
最近は、みんなで連れ立って、先進的な取り組みをする農家さんを訪問して、視察をさせていただくような機会も増えました。みんなで行くので発見もあり、実際に効果もあると思いますね。
この「農家が農家を視察する」というのは、珍しいことなのだそう。例えば、農家であれば、他の人のハウスに入って中を見たりするのは一種タブー視されており、なかなか行われなかったのだそうです。
その理由は、使っている設備や工夫の情報が漏れないようにするのと、「他人の家に土足であがるような感じ」がしていたのだろうと言います。
昔は、農家同士が一緒に出会ったり、交流したりする機会がなかったことから、ひとりで農業というのが多かったと思います。
でも今は、勉強会や農家の集まりを通して新しい出会いもあったり、そこから視察につなげて、勉強したりということが増えました。作業はひとりだけど、みんなで連携して農業をやっているような感覚があります。
昨日より良いものを、一緒につくる
その背景にあるのは、「良いものを作りたい」という想い。
テクノロジーの導入で、経験や勘の農業から脱却するとよく言われるのですが、個人的には「経験や勘」も大事だと思っています。
いま私もテクノロジーの導入で、ハウス内の環境を把握したりしながら効果が出ているんですが、それをやって、ベテラン農家さんに並べるかな、くらいなんです。
なので、経験や勘も学びながら、更に良いものをたくさん育てていくということにつなげたいですね。
Iさんの語る農業は、より人と人が繋がり、地域の特性を活かした農業に向かう姿だといえます。土の質や、気温などの環境にも左右される農業は、同じ作物を育てていても、こちらではこれで成果が出たが、他方では効果が薄かったということも日常茶飯事。
従来はそれが共有されなかったために、同じ失敗を繰り返すことで、独自の技術として磨き上げてきた歴史がありました。
しかし今農業に取り組む若手の中にあるという、「1人ではなく、みんなで農業をしていく」という感覚は、従来の同じ失敗を繰り返すということを回避し、町の農業全体を活性化させる取り組みだといえるでしょう。
農業のノウハウや、技術が進歩する中で、機具等を貸し合ったりするだけではなく、土地土地でのトライアンドエラーや農業への思いを分かち合うことで、ゆるやかな連携の中で、成果を出す農業というように、いま新しい農業が始まっています。