和食が2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されたことをきっかけに、世界中で和食・日本食ブームが起こっています。
2015年には、海外の和食のレストランの数は8万9000店にもなっており、2006年に比べると3倍以上の伸びを記録しています。
この日本食ブームに合わせて、日本から輸出される牛肉の量も伸びており、いま和牛が注目されています。
和牛は海外でも人気
和牛の輸出額をみてみると、2011年は34億円でしたが、2014年には82億円となっています。5年間で約2.5倍に増加していることからも、海外からの需要が高まっていることがわかると思います。
日本政府は、農産物の輸出を増やすという方針のもと、2020年には250億円まで増やすと掲げ、海外での和牛の認知拡大やブランド向上に取り組んでいます。
ミラノ万博でも注目の和牛
ひときわ注目を集めたのは、2015年に開催された「食と農業の未来」がテーマのミラノ万博です。
初の「食」がテーマの万博とあって、各国のパビリオンでは国の食料生産の現状などが伝えられる展示等が行われ、2000万人が来場するイベントとなりました。
ミラノ万博に合わせて、日本は和牛のPRを積極的に展開し、地元のシェフや、小売業者に対して商談会も実施されました。和牛独特の霜降り肉の柔らかさや、肉の甘味は、食通たちにも高評価だったそうです。
課題はライバル「WAGYU」の存在
国産和牛の海外展開が順調に見込めるかというと、実は課題があります。それは、海外産の「WAGYU」という牛肉の存在です。
実は、海外での和牛生産というのが1990年台から行われています。もともとは日本から輸出された和牛をもとに始まったもので、アメリカからオーストラリアへと広がっていき、現在では世界で30万頭ほどが生産されているそうです。
読み方は一緒でも、だいぶ違う
和牛と「WAGYU」は、読み方こそ同じですが、まったく違う牛肉だと考えてください。育て方や手の掛け方などがまったく異なりますし、日本の和牛で重視される血統についても、管理がされていません。
ほんの少しでも、和牛の血が入っていれば、WAGYUという名前で取り引きされるほどです。
しかしそんなWAGYUでも他の肉と比べると肉質が良く、日本の和牛に比べると安価に手に入ることから、大きな人気をほこっているのです。
佐賀牛は地道なファンづくりでシェア拡大
日本には150種類ほどブランド牛があるといいますが、その中でも最高峰の肉質を誇るのが佐賀牛です。実は佐賀牛は、ブランド牛の中でいち早く海外展開を始めています。
2007年から業界団体を立ち上げ、海外への販路を探っていきました。現在では、佐賀牛の取り扱い店舗を海外で指定することで、販売を増やしています。
2012年のデータになりますが、海外での指定店数は、香港が34店舗、マカオが2店舗、シンガポールが14店舗、アメリカが5店舗となっています。
中でも香港・マカオが人気
佐賀牛が人気なのが、香港・マカオ。2007年から輸出をはじめ、指定店を拠点に順調にシェアを拡大しています。日本から同地域への牛肉の総輸出量の1割を超えるシェアを獲得してます。
人気を支えるのは地道な活動
なぜこれほどまでに、佐賀牛が支持されているのかといえば、地道なPR活動の成果です。
高級百貨店やスーパーマーケットでの佐賀牛フェアを年に数回実施したり、佐賀牛取り扱いレストランでの試食イベントなどもおこなっているといいます。
ときには、生産者を招いてのイベントも企画され、どのようなこだわりをもって育てられているのかといった情報を伝えています。そして、実際に食べることを通じて、買い手側はもちろん、生産者側にとっても、海外で人気なのだということが伝わり、一層良い肉をつくろうという機運が高まるのだといいます。
輸出用に処理できる施設を増やす

佐賀牛の牛舎。佐賀牛専用のエサで育つ。
国産和牛が世界で売れていくためには、WAGYUとの違いを打ち出すことはもちろんですが、輸出用に処理・加工できる食肉施設を増やすことも求められています。
畜産物の輸出は、各国共に、食の安全や伝染病の防止の観点から厳しい規制を敷いています。認定された施設で処理された肉でないと輸出できないため、それが行える施設が国内では10数カ所にとどまっている現状は、対応しきれなくなるかもしれません。
増加する需要を見込んで、低コストで輸出できるような環境整備が求められています。
世界市場での食べ方の提案こそ重要
さらに重要なのは、和牛の食べ方の提案ではないでしょうか。
海外にはない、和牛独自の食感や、味や香りといった魅力をどのように伝えていくのかという点で、単に和牛を輸出するのではなく、しゃぶしゃぶやすき焼きなど、日本の多様な食べ方と共に輸出していくことが大事です。
このときに決して、海外産の肉と同じ土俵で戦わないことが求められると思います。何百という業者がいる中で、和牛独自の市場を切り開ければ、大きな躍進が期待できるのではないでしょうか。
その際に参考になるのが、佐賀牛の事例だといえます。地道な活動で認知を増やし、ファンを獲得し、市場を広げていく。そんな基本的なことが、大きな成果に結びつくと言えるでしょう。
※本稿ではわかりやすく、「佐賀牛」という表記に統一していますが、実際には佐賀牛または佐賀産和牛の取り引きを指しています。それぞれ佐賀県で生産されている和牛ですが、認定基準が異なっており、ブランド牛の中でも最高峰の肉質を誇るのが「佐賀牛」で、その基準に満たないものは、佐賀産和牛として取り引きされています。
参考文献:
・佐賀の酪農・肉用牛の現状について
・牛肉の輸出推進を目指した産地の取り組みと課題