いま、もっとも注目されている産業分野のひとつが、「食と農」の分野です。
2017年は、「今、食・農業の新ビジネスが熱い」と題した大規模なカンファレンスが行われ、ビジネス誌の特集でも「農業ビジネス」についての記載が目立ちます。最近では、大手企業の農業分野への進出も増えており、注目度の高さが伺えます。
JTBコミュニケーションデザイン様に聞いてきました

プロジェクトを担当する中橋まどかさん
JTBグループの一社、株式会社JTBコミュニケーションデザインは、地域における新たなコミュニケーションを創造する地域活性化事業の一環で、2017年4月から千葉県君津市の野菜等の直売を行う、「カズサの郷 愛彩畑」に資本参加し、農業ビジネスに参入しています。
大手企業の農業ビジネス参入の意義や効果について、愛彩畑のプロジェクトに携わる中橋まどかさんにお話しを伺いました。
大企業が運営する食と農の複合施設「カズサの郷 愛彩畑」とは?
千葉県君津市に誕生した「カズサの郷 愛彩畑」は、グループで生産する農作物の流通販売機能、地元野菜の農産物直売所、グルメエリア、各種ワークショップや野菜の収穫体験ができる「農業」と「食」の複合施設です。
君津市の農業生産法人8社からなるカズサの愛彩グループの中核企業である株式会社アグリアドバンスと、貸し農園事業をおこなう株式会社アグリライフ倶楽部、全国で約40施設の地域交流拠点の運営を手がけている株式会社JTBコミュニケーションデザインの3社が連携し設立しました。
コミュニティづくりへの想い
愛彩畑のビションは、
農業と食を美味しく。楽しく。思いっきり体験できる施設
であり、「農業の美味しい体験」を通じて地域全体を活性化することを目指しています。
地域に、気軽に立ち寄れ「農業」と「食」を通じて「新たなふれあいや賑わいを生み出す場所をつくりたい」という想いに共感した、企業同士の連携と、地方銀行の融資支援により誕生した施設です。
地域を訪れる人の流れを創り、交流人口を増やす
JTBコミュニケーションデザインが、農業ビジネスに参入するのは、地域の魅力を創出・発信することにより、「地域を訪れる人流を創出(交流人口)」するためとしています。
特に今回の取り組みは、食と農をテーマに、人づくり、もの・ことづくり、場づくりを通じて、君津市で地域一体となった”地域の魅力の発見”と”付加価値づくり”の足掛かりと位置付けています。
実は、私たちに期待されているのは<地域との連携>です。私たちが培ってきた行政や企業、関係機関とのつながりを活かして、地域内外に”本物の君津の魅力”を伝える支援をし、地域の拠点施設を核に地域を訪れる人流を生み出し、これからの地域づくりを一緒に支えたいと考えています。(JTBコミュニケーションデザインの中橋様)
企業が運営する直売所の運営に学ぶ3つのポイント
愛彩畑は、初年度から順調なスタートできるとは思っていなかったといいます。
もともと、小規模に運営していた直売所を前提に試算し、7年後の国道バイパスの開通を見込んで開店しました。近隣に他の直売所が多く存在する中の後発でもあり、協力していただける生産者も限られる状況でのスタートでした。
売り場面積を広げても面積相応の売り上げを期待するよりは、直売所の本当の在り方や、お客様が本当に美味しいからと買って食べてもらえる農産物を目指しています。オープンから半年以上が経過し、徐々に本当に美味しい野菜(農産物)が認知されてきた様子です。(JTBコミュニケーションデザインの中橋様)
この成果をもたらしているポイントとは何なのでしょうか。
1. 地域課題の解決
1つ目のポイントは、地域の課題を解決する施設であるということです。
近隣に気軽に食事が出来たり話がゆっくりできるカフェが少ないという課題がありました。
農家が手伝いに来てくれた方と昼食をとる場所も無く、ビジネスでコーヒーを飲みながら商談する場所も無く、帰省した親戚の方と食事やお酒を飲める場所も無く、子供連れで安心して行ける場所も無く、といった状況です。
そんな中から食事もできて楽しめる直売所を目指し、農業の良さと野菜(農産物)の本当の美味しさを伝える目的で作られた施設です。これらのために大人はもとより次の世代の子供達にも農業と食に関して、希望と感動を伝えられるように、日頃では味わえない空間と体験を伝えていこうと、少しずつお客様の理解を深めながら取り組みたいと考えているとしています。
2. 複数社の連携による相乗効果

施設のまわりには、畑も広がる
2つ目は、3社連携で運営できていることが大きなポイントだということです。
3社で役割分担し、愛彩畑の日々の運営、貸し農園での遠方利用者の獲得、ワークショップ等の新しい企画開発や地域連携など、各社の専門分野を持ち寄って相互に組み合わせ運営していることで、相乗効果を生んでいます。
農業の大切さ・楽しさ・希望・感動を、3社がそれぞれの立場でこれらをリアルに伝えることで、失われつつある「本物の農業と食」が伝わっていくとの考えが根底にあります。
「訪れた人へリアルな感動を伝えていきたい」という思いがあるといいます。
3. 地域との連携
一方で、愛彩畑の関連企業だけでは、地域活性化の限界を感じているといいます。
想定外だった近隣のキャンプ場のお客様の立ち寄り利用が、好調な販売要因の一つになっているため、地元企業との連携による地域の魅力の発信は、今後最も重要な課題だといいます。異業種連携による地域一体となった拠点づくり、拠点間をつなぐ仕組みづくり、拠点ごとで楽しめる体験づくりに取り組んでいきたいと考えています。
また、地域農業者との連携も重要で、農業の担い手の確保や耕作放棄地の解消に繋がるような取り組みも進めていくと将来にわたる構想も準備しているとしています。
農と食の継続的なビジネスへ
食と農は、将来的には日本全体の課題となると想定されます。
地方では、農業をどのように継続させビジネスとして成立していけるかが課題でしょう
このように中橋さんも指摘します。懸念は2極化が進むのではないかというものです。
今のままでは、ビジネスとして成立している地域はよいが、そうでない地域では農業人口も減少し、産業を維持することが困難となりつつあります。いま求められているのは、地域内を活性化し、さらに地域外をつなぐ役割だと考えています。私たちも、その役割を担えるようになりたいと思っています。(JTBコミュニケーションデザインの中橋様)
愛彩畑は、農業の魅力を伝える場であり、持続的な農業ビジネスを模索する場でもあるという中橋さん。3社連携で始まった新しい取り組みが、食と農のビジネスに新しい展開をもたらします。