日本の農業の在り方を考えるシリーズ第2弾。
江戸川大学ライフデザイン学科 鈴木輝隆教授
北海道ニセコ町、長野県小布施町、高知県「四万十ドラマ」など日本各地で地域づくりパートナーとして活躍する鈴木教授から、本当に生き残る地域ブランド作り、ローカルデザインのあり方を、農業の視点も踏まえてお話をうかがいました。
ITの発達は、分散化・分権化を推進し、自由や余裕が生まれたかのように言われていますが、実際はその逆で、情報が集まる首都圏へと一極集中が加速し、一方で地方の過疎化が進み、情報の非対称性は顕著となっていった、と鈴木教授はおっしゃいます。
また発信される情報も不特定多数を対象にするため「わかりやすく」そして均質的なものとなっているため、そこには「わかりにくさ」が欠け、想像力を働かせる機会も減ることで、新しいアイデアが生まれにくいという弊害を起こしているのです。
つまり、
・人口過剰地域では、創意工夫をしようとしても高コストで過剰競争状態になっている。
・人口過疎地域では、アイデアを生む活力が奪われている状態になっている。
といえるのではないでしょうか。
では、こうした事態から脱却するためには、どのように対処していけばいいのでしょうか。それには「生命情報の獲得」が重要になってくると鈴木教授は主張します。
情報には次の3つに分類されるといいます。
・生命情報:生物が生きていく上で必要な情報
・社会情報:代表は「言葉」であり、日常的に使用している情報概念
・機械情報:大量に複製・通信・記憶 天文学的な量、情報洪水
このうち、現場で直接接触しないと得られないのが「生命情報」であり、インターネット上で複製され消費されていくための「機械情報」とは異なり、「ローカルな環境で『生命情報』を中心に構築していくネットワークこそが今後重要になる」のです。
そもそも、人間が作る共同体の構成員の上限値は150名が限度といわれているそうです。しかし、様々なITサービスによって、個々人の交流範囲が拡大する現代は情報過多にあり、帰属意識が持ちにくく、自分の「存在価値」を見つけにくくなってしまっているのです。
これに対し、ローカルな環境では「あそこがあるから、あなたがいるから、地域が明るくなる、楽しくなる」という評価と生命情報を得るができ、自分の「存在価値」が見つかるのです。
「生命情報」を得ることによって、それぞれ個人が輝きだす。これが地域が元気を取り戻すことになるのです。
衝萄(ワイン)を中心としたまちづくりをおこなっているのが、山梨県甲州市勝沼町。ワインに使用されてい甲州種ブドウは、約1,200年続く原種で、ヨーロッパでもこのように長く続く品種はなく、とても珍しいと世界から注目をされています。また、「鳥居平」や「菱山」といった「畑ブランド化」もされていて、世界中から多くの観光客が集まり、またワインの生産量も増加しています。
こうした勝沼町の事例からわかることは、地域性つまりその土地の「風景」を取り込んだブランド化に成功していることです。勝沼町の生命情報は勝沼町でしか手に入れることができないのです。勝沼町の生命情報はコピーできないので、世界の人が希少価値を評価し買い求め、その地域に継続的な経済活動を生み出すこととなり、農業、技、人、文化、風景も遺る「プラス・グローパリゼーシヨン」を構築できていることなのです。
現状の情報化社会は、「わかりやすい」均質な情報を流すことで、一過性の経済効果を生み出しますが、継続的でない傾向が強いのは「機械情報」に依存するためなのです。
「生命情報」というと少し漠然としているかもしれません。先ず、まちのどんな風景を遺していきたいのか、が入り口。そして、そこにはどんな人たちがいて、どんな技術があって、どんな文化があって…。そうした一つ一つの「生命情報」を集めること。それが、地域に眠る文化的な資本の質を高め、地域がデザインされていくのです。