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一時、最盛期の0.3%に漁獲量激減。秋田の魚「ハタハタ」が直面する危機

一時、最盛期の0.3%に漁獲量激減。秋田の魚「ハタハタ」が直面する危機

    CATEGORY: AREA:秋田県

お正月、皆さんのお家ではどんな料理が出されただろうか?

おせち料理やお雑煮などの他にも、地域によっては郷土料理が新年の食卓に並んだことだろう。

私の故郷である秋田県の南部では、納豆をすり潰して味噌汁に投入した納豆汁が出される。苦手な人には罰ゲームのようなメニューだが、納豆好きには堪らない料理だ。

そしてもう1つ、秋田県人にとって馴染み深い郷土料理がある。

秋田の歴史を伝える郷土料理「ハタハタ寿司」

知らない人にとっては信じられないほど見た目がグロテスクであろう、この料理が、秋田の郷土料理「ハタハタ寿司」だ。

これは、「寿司」と聞いて多くの人が連想する「握り寿司」ではなく、日本料理における魚の保存方法の1つとして昔からある「なれ寿司」と言うものの一種。

全国的には、滋賀県の鮒寿司(ふなずし)が有名だと思うが、秋田で生まれた「なれ寿司」が、特産のハタハタを使用した「ハタハタ寿司」である。

秋田県人が愛するハタハタ

魚へんに神と書いて「鰰」と示され、激しい雷が響く冬の始まりになると産卵のために姿を表す有難い魚で、秋田の県魚にも指定されている。

秋田県人にとって、冬の魚と言えばハタハタ。特に、メスのお腹にある大量の卵(ブリコ)はネバネバとプチプチが共存する珍しい食感で、秋田県人は好んでブリコを食べる。

その他にも、ハタハタなどを使った秋田の魚醤「しょっつる」をベースに、ハタハタや旬の野菜を入れた「しょっつる鍋」は、秋田県のソールフードと言える。

ハタハタ寿司の作り方と特徴

ハタハタを米・麹・ふのり・人参・ゆずなどと一緒に、塩・酢で漬け込み、発酵させて作る方法が一般的だ。

ハタハタの食感と柑橘のサッパリした風味が特徴で、麹を使った発酵食品独特のクセが好きな人であれば、きっと美味しいと感じてもらえるはずだ。

江戸時代から続くハタハタ寿司

「ハタハタ寿司」の起源は、江戸時代まで遡るという。昔は冷蔵技術も物流も整備されておらず、秋田県の東部や山間部では海産物を口にする機会が少なかったが、保存食として「ハタハタ寿司」は喜ばれた。

そして、各家庭で「ハタハタ寿司」が作られ、正月に食べられる郷土料理として欠かせない存在となっていった。現在は、お土産としても販売されている。

ハタハタが秋田の食卓から消える?

秋田県人にとって昔から欠かせないとされてきたハタハタだが、1980年代以降、危機的な状況に直面している。

ピーク時の0.3%まで漁獲量が激減

1960年代半ばに2万トンを超えていた秋田県のハタハタの漁獲量だが、1991年には、ピーク時のたった0.3%となる71トンまで激減した。

原因は明らかになっていないが、乱獲・地球温暖化による水質変化・生活排水による環境変化などが要因として考えられている。

3年間の自主禁漁とハタハタへの想い

ハタハタを残さなくてはいけないという想いから、1992年9月から1995年7月まで秋田県では3年間の禁漁期間に入った。

秋田県立大学客員教授の杉山秀樹氏によれば、世界的に見ても、国が禁漁施策をすることはあっても、漁師が自主的に禁漁をしたのは秋田だけだと言う。

それほど、秋田県人にとってハタハタを失う危機感は大きかった。

回復するも、需要と価格が低迷

その後、3年間の自主禁漁を成し遂げ、2000年以降になると漁獲量は2000〜3000トンまでに回復するが、近年、再び減少傾向となっている。

秋田県でハタハタを食べる年代の高齢化や人口減少が起こり、県内での需要と価格が低迷しているのだ。

そのため、更に価格が下がることを恐れ、漁獲量が下がる。とは言え、今年の様に漁獲量が少なすぎると、価格が高騰する。そして、消費意欲が落ちる。

ハタハタと地域の食文化を守る

ハタハタを地域の魚として守っていくためには、市場が縮小している地域内だけではなく、県外・海外にも目を向けて販路拡大をしていく必要がある。

実際、秋田県内の食品加工会社は、ハタハタ寿司が持つ麹の発酵食品独特の匂いを軽減した商品を展開したり、スモークしたハタハタをオイル漬けにした新商品「はたはたおいる漬」を開発したりするなど、新たな取り組みを始めている。

ハタハタの魅力と可能性

ハタハタは、淡白な白身と独特の食感が特徴で、加工品には非常に適した魚である。しかしこれまで、外向けに対して加工食品の商品開発・販路開拓をほとんど行ってこなかった。

全国的にも人気が出てきている「はたはたおいる漬」の様に、テストマーケティングを行いながら、新たな挑戦をし続けることで成果を出せるはずだ。

魅力を再発見し、食文化を守る

地域のブランドづくりを行いながら、ハタハタの魅力を様々な形で伝えることを続け、需要が増えていけば、漁師さんや加工会社がもっと元気になる。

誇りを持って笑顔でハタハタの魅力を伝える人が増えれば、その熱量や想いが地域の人たちにも伝播していく。

地域の魅力を再発見し、きちんと地域の人が稼ぐことは、地域の食文化を守ることに繋がるのだ。

「あなたの地域にも、守りたい大切な地域の資源がありますか?」

参考資料

公益社団法人 日本水産資源保護協会 わが国の水産業「はたはた」
一般財団法人セブン-イレブン記念財団 広報誌「みどりの風」
秋田県観光文化スポーツ部 秋田うまいもの販売課「マルシェ アキタノ」