「しまなみ海道」などを自転車でめぐる旅が脚光を浴びている、広島県。
そんな広島で、県内初のプロのサイクルロードレースチームを立ち上げた自転車レーサーがいます。
中山卓士さんは、プロの自転車レーサーとして栃木やベルギーで活躍した後、広島へ。日本でロードレースを広めたい、自転車で地域を盛り上げたい、そんな想いで2015年にプロチーム「VICTOIRE広島(ヴィクトワール広島)」を設立しました。
ヴィクトワール広島は、レース参戦だけでなく、様々な形で地域を盛り上げる地域密着型プロチームです。
夜遊びの中学時代、栃木、ベルギー、そして広島へ
中山さんが自転車競技に出会ったのも、広島へたどり着いたのも、ひょんなきっかけからでした。
東京で育ち、夜な夜な池袋で遊びまわっていた中学3年生の時、高校だけは行けと親に言われた中山さん。高校に受かるために何かしようと、父に勧められて自転車競技を始めました。
高校では、「練習をサボったら坊主」という監督の言葉でがむしゃらに練習に励み、インターハイ、国体に出場しました。
アマチュアから宇都宮でプロに
その後、アマチュアを経て、宇都宮ブリッツェンなどのプロチームでレーサーになりました。
中山さんはその後、ベルギーのプロチームで3年間活躍し、23歳で競技人生に終止符を打ちます。宇都宮とベルギーでの経験は、中山さんに大きな影響を与えました。
ロードレースが国技のベルギーへ
自転車競技を辞めてベルギーから帰国した中山さんは、知人の縁で広島のお寺で半年間修行をすることになります。
これから何をしようかと考えた時、「ベルギーのように日本でもロードレースをメジャーにしたい、宇都宮のように地域に密着した日本一のチームをつくりたい。」と思い立ちました。
マネジメントや資金集めの経験は一切なかったものの、周りに相談しながら、弱冠25歳で広島にチームを立ち上げたのです。
自転車が人々を魅了し、まちを変える
ヴィクトワール広島には、現在8人のレーサーが所属し、プロツアーレースに参戦しています。
チームの監督である中山さんは、ロードレースを「全ての選手がきちんと生計を立てられるようなプロスポーツにしていきたい。」と考えています。
それと共に地域を盛り上げ、一人ひとりに自転車を身近に感じてもらうため、自治体や住民など地域全体を巻き込もうと、日々奔走しています。
安全で楽しいサイクリングが、暮らしを変える
サイクリングが身近になる一方で、街中では危険な運転も目にします。
ヘルメットをせずにすごいスピードで自転車を走らせる小学生、ベルトもせずにママチャリに乗せられている子どもたち、スマホを見ながら自転車をこぐ大人・・・。
ちょっとした接触や転倒で、大けがどころか、命まで失う危険性もあります。
ヴィクトワール広島では、レースの合間を縫って、ほぼ毎月のように学校やイベントなどで自転車安全教室も開催しています。プロレーサーが実技を交えて話をすると、子どもたちもとても真剣な眼差しで聞き入ります。
夢は、広島で国際レース開催!
ヴィクトワール広島が生まれて3年。
地域で応援してくれる人も増え、スポンサー企業も約60社に増えました。また、中山さんが広島に来る前は、実業団に登録しているアマチュアチームが1チームのみだったのが、今では7チームになっています。
地域密着型チームは、少しずつ地域に変化をもたらしています。
プロスポーツで地域をおもしろく
日本では今年5月に、「自転車活用推進法」が施行されました。
環境や健康にも良い自転車の利用を、日本全体で進めていこうとしているのです。これから様々な地域で、自転車専用レーンやシェアサイクルなど、自転車を使いやすい環境が整備されていくでしょう。
「地域密着型のプロスポーツチームが、自治体や地域の人々と一体となって、自転車で人を呼び込み、地域をおもしろくする。」
中山さんたちが始めた取り組みは、これから日本で広がるモデルになりそうです。
(ライター:宮原桃子)