チューリッヒ市の河川再生事業「バッハコンセプト」 (2)

好評連載のチューリッヒ市の河川再生事業「バッハコンセプト」。第2回目の今回は事業で採用されている「近自然工法」の採用の経緯とその工法についてお届けします。


河川改修における「近自然工法」の採用

近自然工法の施工例 トゥール川(スイス・チューリッヒ州)
※福井県雪対策・建築技術研究所 環境土木通信Vol 3(1997)より
チューリッヒ市は、1970年代以降、市域内の河川改修工事を実施するにあたり、「近自然工法」を採用している。「近自然工法」とは、河川の改修において、植物を植えた土手や石積み水制などを利用して護岸の整備を実施することにより、洪水などからの防災機能と美しい景観の創生を実現するとともに、生態系の保全・創出をはかるため、動植物の生息地及び生育地・生活空間(ビオトープ)を併せて整備するなど、環境親和性を重視した工法のことをいう。主に、郊外部の大規模な河川において、多く実施されている。
注目すべきは、「近自然工法」の理念は、「自然」の再生に主眼を置いたものではない、ということである。あくまでも、景観や風土、地域文化などを保全する立場から、人々が慣れ親しみ、あるいはイメージする「自然」に「近い」環境を整備し、守る、という点に、この工法の特色がある。それゆえ、「近自然工法」は、河川の流路を「あるがままに」するのではなく、防災機能と親水空間の確保の両立を実現することに最大の目標を置くのである。
その一例として、1985年に施工された、スイス・シャフハウゼン市郊外のライン川にある、ライン滝の落ち口にある岩場の補強工事が挙げられる。本来、滝を「あるがままに」するならば、浸食作用によって岩場は自然に崩壊する。しかし、地域の人々や観光客が慣れ親しんだ風景は、岩場の存在によって、二分して流れ落ちる滝の景観であった。このため、岩場にアンカーを打込み、着色モルタルを吹き付けて補強することにより、ライン滝の景観を守るための工事が実施されたのである。

近自然工法の施工例 ライン滝(スイス・シャフハウゼン郊外)
1985年、中央部の岩場に、近自然工法による補強工事を実施。
※wikipediaより転載(2010/8/17閲覧)
近自然工法は、スイス・チューリッヒ州やドイツ・バイエルン州において、1970年代から独自に研究が開始され、1980年代以降に本格的な導入が進められた。日本においては、1990年代以降に、当時の建設省によって「多自然型川づくり」として提唱されており、北海道や愛知県での施工を嚆矢として、同様の手法による河川改修工事が実施されている。この「近自然工法」の理念の延長上に計画されたのが、「バッハコンセプト」と呼ばれる、チューリッヒ市の河川開放事業であった。

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