Uターン料理人が創った交流の場所「天理市トレイルセンター&洋食Katsui」


日本最古の自然道の一つとされる奈良県の「山の辺の道」。飛鳥と平城京を結んで栄えたかつての要路には時を隔て、古社寺等をめぐるハイカーらが詰めかけるが、今ここに、新たな賑わいが生まれつつある。

その契機は『日本書紀』にも記される大神神社と石上神宮の間に及ぶ、約14キロのメイン・ハイキングコースのほぼ中間にある観光拠点&無料休憩所「天理市トレイルセンター(天理市柳本町)」のリニューアルだった。

憧れた“都会暮らし”から、地方へのUターンを決意


リニューアルを手がけたのは、大阪市中央区で人気の洋食店2店舗を展開していた料理人の勝井景介さん。中学・高校時代を過ごした愛着のある地元に「何か恩返しがしたい」との思いから同施設のリノベーション役をかってでた。

勝井さんは、曾祖母を含めた4世代が暮らす大家族に生まれた。万葉集でも名高い「二上山を見て暮らしたい」と話す祖父のひと声で、当時住んでいた東京から二上山が見晴らせる柳本町へ引越すことになったという。

とはいえ、当時まだ十代だった勝井さん。故郷の豊かな自然に横たわる深い歴史にも興味はそう持てず、大阪の大学へ進学。東京のホテルに就職した後に結婚し、そのまま東京での暮らしが続くはずだった。

「けれど、子どもを育てる環境を考えた時、素直に故郷が浮かんだんです。それでよし、帰ろうと。でも、奈良で商売は無理だとの固定観念があって、住まいは奈良、仕事は大阪という選択をしました」

なかなか拭えなかった“田舎暮らしのリスク”

大阪市内で修行を重ね、念願の洋食店をオープンした勝井さん。2店舗目を開店させ順調な日々を送っていた中で聞こえてきたのが、トレイルセンターのリニューアル案と指定管理者の募集だった。「自分なりの方法で役にたてるかも知れない」。そう考え、コンペに参加することを決意する。

自身の得意分野を活かすために、レストラン「洋食 Katsui」の併設を考えた。レストランを開けば、新たな雇用が生まれる。ならば、高齢化が進む地元に若い力を誘致できるようレストランを活用したい。では、人材や客を集めるにはどうすればいいか。

様々なアイデアを練る内に、勝井さんは大阪店を離れて自身が陣頭に立とうと決める。しかし、コンペは見事に勝ちとったものの、周囲に理解されない。「ハイカーしか往来しない場所にレストランを出店してどうするのか」と、そんな意見ばかりが寄せられる。

「ハイキングにはお弁当って、誰が決めたんだ?と思いましたね。やり方次第で活路は見いだせるはずだと。そして何より感じたことは、ここでなら追い立てられることのない時間を生きられる。やりがいのある仕事さえあれば、そんな理想は年齢に関係なく共有できると考えました。故郷とちゃんと向き合ってはじめて、自分の中の固定観念を覆すことができたんです」

勝井さんは店のスタッフらと共に、元気な田舎暮らしを成功させている地方を見学して回った。賑わっている現地を実際に見せれば、自分がやろうとしていること、みんなでやれることが明確に伝わると考えたのだ。

Uターン×移住メンバーで、地域の新たな魅力を発信

その考えは実を結ぶ。長い大阪暮らしからUターンを決めた吉田さん、幅広い経験を求め東京から武者修行に来た関口さん、似た環境で育った経験を活かせると茨城から参加した小森さん。スタッフや知人の料理人が次々と手を挙げた。

現地でも人材を採用。最年長の福井さんを筆頭とした観光ガイドをはじめ20~70代・老若男女問わずスタッフが揃った。移住組の料理人らの経験や感想も交え、山の辺の道の“新しい魅力”の発信に取り組んでいる。

その求心力は、勝井さんの「何でも話しますし、ズケズケ聞きます」という大らかな人柄と、文字通りの家族ぐるみのつきあいを実現しているスタッフ間のコミュニケーション。スタッフ同士が互いの家へと行き来し、夕食を共にする間柄だという。

「自宅にお邪魔したりご家族とご一緒したりすると、グッと距離が縮まるというか、信頼感が増すんです。一緒に働く仲間として、これほど大切なことはないと思っています。ただ、そんな近しい関係が苦手な人もいますから、まずは1ヶ月働いてもらう。続けるかどうかは、その後の本人の意思次第です」

地元の方が集う交流拠点に

トレイルセンター内は、ビストロを思わせる優雅なレストランと無料休憩スペースが仕切りなくひと続きで広がるユニークな構造。大きな窓からは緑が望め、とても開放的。竜王山が見えるテラス席も人気だ。

メニューは大阪店の人気ラインナップを中心にオリジナルの一品も盛り込んだ。すると、ハイキングコース全14キロを踏破するのではなく、この中間地点をゴールとした手軽な“ハイク&ランチ”を楽しむ新たなハイカー層が現れはじめた。

地元の人たちも気軽な社交場として集い、話に花を咲かせている。ディナータイムにも、少しばかりおめかしした近所のおじいちゃんやおばあちゃんが来店する。トレイルセンターは、地域の交流拠点として機能しつつあるのだ。

愛する地元に、人も雇用も呼びこんでいく

勝井さんの次の目標は宿泊施設の運営。料理が可能なコンドミニアムタイプで、例えば、鍋の注文があれば、素材と用具一式を揃えて届けるというスタイルを考案中。もちろんレストランでの食事も可能だ。

「現在、最寄のJR万葉まほろば線・柳本駅を地域交流拠点として活用する計画が進んでいます。その機会を活かし、駅からも人の流れを作ることで、さらに人を、そして雇用を呼び込む方策をあれこれ模索中です」

新コースの提案やフリーウォーキングの開催、外国人ハイカー向けの“ピクニック・ランチ”といったビュッフェイベントも続々と企画し大成功。新たな視点で同地の魅力発信を続けるその活動に今後も注目したい。

【天理市トレイルセンター】
住所:奈良県天理市柳本町577-1
電話:0743-67-3810
営業時間:8時30分~17時
定休日:第1月曜日
設備:トイレ、シャワーブース、観光案内所、物産コーナー他
http://yamatoji.nara-kankou.or.jp/04public/04camp-resort/03east_area/tenrishitoreirusenta/

【洋食 Katsui】
営業時間:ランチ11時〜14時、カフェ14時〜17時 (L.O.16時)、ディナー17時〜21時 ※ディナーは木~日曜、祝休のみ
定休日:毎週月曜日休み
https://katsui1999.com/

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