愛媛に移住したデザイナーが見つけた地域ブランディングで大切なこと

愛媛県松山市より車で1時間ほど南下したところにある喜多郡内子町寺村(小田地区)。周囲を1000~1500m級の四国山地の山々に囲まれ、清流小田川が流れる静かな山里にこの春移り住んだのは“地域密着型デザイナー”メルカドデザイン 市毛友一郎(いちげゆういちろう)さん。

東京都出身の市毛さんが愛媛に移住し、愛媛に関わるデザインを手掛け始めて今年で6年。新たに拠点を松野町の借家から内子町寺村(小田地区)に移し、ますますどっぷりと愛媛の田舎暮らしに浸る市毛さんにお話を伺った。

仕事を辞め、夫婦で地方移住

今から8年前に、東京のクリエイター系の会社を辞めて奥さんと二人で約1年間、バックパックの旅に出た市毛さん。好きな町を見つけると、そこでしばらく“沈没(バックパッカー用語で、その土地が気に入り長期滞在すること)”しては、暮らすように旅しながら世界一周したのだそうだ。

市毛さんが現在暮らす内子町寺村(小田地区)

帰国後、市毛さんは生まれ育った東京を離れ、地方に移住することを決めた。車に寝袋を積み、今度は移住する場所を探す旅に出た。移住先のイメージとして第一候補の九州を巡り、山口を抜け車中泊を繰り返し四国に入ったが、ピンとくる場所には出会えなかった。「いったん東京に戻って仕切り直そう」と諦めかけた矢先、立ち寄った宇和島市の道の駅で滑床渓谷のパンフレットを見つけた。

それが、それから市毛さんが5年半あまりを過ごすことになる松野町との出会いだった。マイナスイオンたっぷりの滑床渓谷の美しさと愛媛南予の山奥の小さな町、松野町を流れるのんびりした空気に“沈没”したくなってしまった市毛さん。ピンとくるところはやはり縁があるところなのか、松野町を初めて訪れたその日に家まで決まり、トントン拍子に移住が決まった。

デザインで移住した地域に関わる

市毛さんの仕事はデザイナー。パソコンさえあればどこでも出来る仕事なので、はじめのうちは住む場所が変わっただけで、東京のクライアントからの仕事をしていた。が、ある時、町の魅力を表したイラストを描き、お礼がてらお世話になった町役場の担当者に持っていったことで状況が変わった。そのイラストが役場の広報の目にとまり、それから松野町をブランディングする仕事がどんどん舞い込んでくるようになった。

市毛さんが制作した、松野町のデザインワークは数十件に及ぶ。それもポスターなどの一時的なものだけでなく、道の駅のロゴデザインやコミュニティバスのラッピングデザインなど、継続的に使用されているものも多い。自分のデザインが数多く採用された理由について市毛さんはこう話す。

地域のデザインには、いわゆる『よそ者視点』が役に立ちます。よそ者だからこそ、新鮮な目で、『うわ~!こんなのがあるんだ!』って楽しめるんです。でもそれは地域の人には日常的過ぎて気付かないことが多いので、それが移住者デザイナーとしての僕の強みになってるんだと思いますね。

市毛さんデザインの内子町のパンフレット

デザインだけでなく、イラスト、映像、冊子編集など、幅広いスキルを持つ市毛さんは1人広告代理店のような形でトータルに、移住先の地域をブランディングしている。

都市部はともかく、里山エリアには全くデザイナーがいないんです。でもデザインの仕事は山ほどあるんです(笑)!積極的に探してないだけで、地域をブランディングしてくれるデザイナーを実はどの田舎も求めていると思うんですよね。

愛媛の里山に移住して以来、市毛さんの仕事は増える一方なのだという。

地方で仕事し、家族と暮らす

東京から愛媛に移って、金銭的収入は少なくなったと思うじゃないですか? 実際そうなんですけど(笑)。だけど生活はすごく豊かになりましたからね。

満員の通勤電車なんかとはおさらばですし、ストレス激減です!愛媛に来てから生まれた息子と遊べる時間もたっぷりあるし、もう毎日が夏休みたいで楽しいんですよね。デザイナーとかクリエイターの人たちこそ地方に移住したらいいんじゃないかっていつも思います。何より競合が圧倒的に少ないから、スキルさえあれば仕事が来るんですよ。

強みを生かして発行したフリーマガジン「とんとん」

愛媛の地域情報や旅の思い出など、自分が面白いと思ったものを自由に掲載しているこの小冊子にかかる費用は全て市毛さんの個人負担。だが広告としての効果は絶大らしい。ただ仕事をしているだけでは出会えなかった人たちとの縁が生まれ、新しい仕事がそこから舞い込むこともあるのだという。また家族でつくっているため、必然的に家族との時間も密度の濃いものになるのだとか。とんとんは、この夏に3冊目が出る予定だ。

移住して地域ブランディングに取り組む

松野町で借りていた家が手狭になり、市毛さん一家は今年の春より内子町寺村(小田地区)に引っ越した。小田地区も最初に移住した松野町と同じく町から車で20分ほど山の中に入った里山エリアであり、山奥の小さな集落ならではの面白い独自な文化が数々ある。

その一つがたらいうどん。大釜でゆでた熱いうどんをゆで汁ごとたらいに移し、椎茸や大豆が入った熱い出汁に薬味のニラや生姜を入れて食べる。「コシ折れうどん」と呼ばれるほど柔らかい麵の食感は小田地区独特のもの。

今後市毛さんは、このたらいうどんの店「かじか亭」のメニューデザインや、小田地区の道の駅のオリジナルブランド「オダメイド」のパッケージデザインなど、小田地区のプロモーション活動に注力していく予定なのだそう。

地方移住に大切な感覚

「オダメイド」のパティシエ上野さんと

フリーランスのデザイナーとして東京から愛媛に移住し、今では愛媛密着型デザイナーとして地域をブランディングする市毛さん。ふらりと立ち寄って決めた移住先だから、ただのんびりしたかっただけで、過度な期待もなく地域の活性化なんて頭にもなかったと笑う。だが、そんな気負わない姿勢が結果的に地域の人とのつながりを生んだ。

また、ピンとくる場所は、やはり同じような価値観を持っている人に出会いやすく、理解者にも恵まれるらしい。移住先を探しに行くのではなく、肩の力を抜いて、波長の合う場所と出会いに旅に出てみるのはどうだろう。ふらりと立ち寄ってみた先が、意外に新しい移住先になるのかも知れない。

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