長崎移住「紅と香」築100年の古民家リノベ、紅茶専門店を開業

様々な情報が溢れ、追いつくのに必死な毎日。忙しさから余裕がなくなり、自分と向き合う時間さえ失ってしまう。

そんな慌ただしい日々でも、一杯の紅茶をきっかけに少しでも穏やかなひと時を満喫し、幸せになってほしい。そんな願いで、国産紅茶の魅力を発信している人がいる。

坂の町として有名な長崎市の旧外国人居留地。かつて外国人の住む家々が斜面に並んでいた地区の古民家で、紅茶専門店「紅と香」を営んでいる本田さなえさん。

生産者一人ひとりのストーリーとともに発信するのは、国産の紅茶ならではの魅力と、ゆったりマイペースなひと時を過ごすことの大切さだ。

地方の働き方、国産紅茶の専門店を開業

「紅と香」で販売されているのは、日本の茶畑で作られた国産紅茶。一口飲んだだけで香りやコクの個性が感じられ、その奥深い味わいに驚かされる。本田さんが、直接茶畑を回って仕入れた茶葉で、そのクオリティには確かな自信があるそうだ。

大手のメーカーは大量にいろんな茶葉を仕入れないと供給が間に合わないんです。

でも私は小ロットで販売しているので、特定の茶畑だけで、収穫の日にちや時間まで指定した一番ベストな状態の茶葉を販売することができるんです。

四季や体調でも変わる紅茶の楽しみ方

茶葉には様々な種類があるが、それぞれ時期ごとに適したものがあるそう。

例えば春一番はすごく香りが良くて、夏に向かうにつれて徐々に茶葉のカテキンが増えていきます。なのでその時期は発酵茶が向いていて。秋になると越冬に向けて糖を蓄えるのでほうじ茶がオススメに。寒さに耐える冬は、カテキンが少ないので番茶に適しているんです。

また人によって体質が異なるように、その日の体調で飲みたくなるお茶も変わることがあるそう。

そうした日々の体の声に耳を傾けて紅茶を楽しむことで、健康につながると話す本田さん。丁寧に解説しながら「それでも、結局は趣向品。好きに選んで、楽しめればいいんです」と明るい笑顔。あくまで大らかに、紅茶がもつ魅力を分かりやすく伝えてくれる。

国産紅茶に感動し、お店を開業

もともとは保育士をしていた本田さん。数年前、佐賀県にあるお店で国産紅茶の奥深さを知り、そのおいしさに衝撃を受けたそう。いつか紅茶のお店を自ら持ちたいと思うようになり、お茶の一大産地である嬉野の茶畑を訪問した。

その後も全国の茶畑を訪ね歩き、退職後の一年間は、茶所を旅してまわり、茶農家に直接紅茶作りを指導してもらったそう。直接その土地で茶葉に触れて気づいたのは、水の大切さだった。

紅茶って、約98%は水の成分なんです。残りたったの約2%が茶葉の成分。それだけ水で味も左右されるし、その茶葉が育った場所の水で味わうのが一番おいしくなるんだと感じました。

豊かな自然と多彩な四季に恵まれた日本の紅茶。そのバリエーション豊富なおいしさは、それぞれの土地に根付いたもの。国産紅茶の歴史は、蒸し製の緑茶より歴史が古いそうで、いかに生活と密接に関係していたのかを感じられる。

空き家の古民家を紅茶専門店に

紅茶と真摯に向き合う本田さんが最初にお店として選んだのは、築100年を超える古民家。その出会いを繋いだのは、長崎市で活動している「斜面地・空き家活用団体 つくる」というグループだ。

もともと紅茶の資格を取得時に「つくる」と共同で、古民家を使った紅茶イベントを開催した本田さん。その時、古民家と紅茶という組み合わせの可能性を感じたそう。

古民家に残っている昔の茶器って本当に素敵なものが多くて、今でも十分使えるものもあります。それにお店じゃなくて、毎日暮らす家として大切にされていた建物なので、なんだか落ち着くんですよね。

イベントからしばらくして、地元住民から別の空き家活用の相談が「つくる」にあり、そこを紅茶のお店にすることを決意。本田さんと、「つくる」のメンバー、地域住民が力を合わせて、古民家を改装することとなった。

長崎の茶商・大浦慶との繋がり

実際に旧居留地でお店をすることが決まると、不思議な縁を知ることとなった。かつてまだ鎖国下の長崎で茶商として腕を振るい、開国後の対米輸出で大きな成功を収めた大浦慶。上海に密航までして本場の茶葉を学び、日本に伝えたとされている。

その大浦慶が、なんと「紅と香」から見える船着場から密航したと、地元の人が教えてくれたそう。「そんな縁があるなんて、びっくりしました」と話す本田さん。実はお店のマークが模したイニシャルの“K”は、紅茶やくつろぎ、居留地、そして大浦慶の名前からとったものだった。

様々な繋がりに支えられながら、約8ヶ月に及ぶ改修作業の末に、紅茶専門店「紅と香」はオープンした。

地方でできる、体験を提供する仕事

建物の改修はまだ進行中とのことで、今後は紅茶の淹れ方講座やイベントのためのスペースを用意するそう。本田さんが心に留めて大切にしているのは、単なる“消費”ではなく“体験”としての紅茶を伝えることだ。

今の時代って、すごく忙しいじゃないですか。本当はもっとゆっくりしたペースでいれば、幸せになれるんじゃないかと思うんです。だからこのお店では、訪れた人を急かしたりしないし、何時間でもいてくれていいんです。

自然体で、自分のペースを大切にしている本田さん。着飾ることなく、ありのままの目で見て、感じて、紅茶と向き合っている。これからも国産紅茶の魅力、そして日常の中でほっと一息つくことの大切さを発信したいとのこと。

畳に座ってゆっくり紅茶を飲むと、なんだか肩の力が抜けたような気がした。

店舗情報

紅と香(コウトコウ)
□住所:長崎県長崎市浪の平町7-23
□電話:080-5268-3765
□営業:11:00〜18:00
□定休:金曜
□駐車場:近くにコインパーキング有り

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