伝統守りながら、新たなイノベーションを生み出している日本の伝統工芸品がある。
それが400年の歴史を持つ有田焼だ。
有田焼は、従来、窯で陶器を焼く窯元とそれを売る商社の役割が2分化されていた。
その既成概念を打ち破り、売り手と作り手がいちから制作に取り組み、生まれた有田焼の新商品がここ数年世界のVIPから注目されている。
有田焼の歴史をおさらい
有田焼は、佐賀県有田町を中心に焼かれている400年の歴史をもつ磁器である。
町中には、120社を超える窯元があり磁器の生産・販売を行っている。有田町は有田焼のほか、自然風土豊かな棚田があることでも有名だ。
公衆トイレの手洗い場所
毎年5月3日から5日の祝日(ゴールデンウィーク)には、全国から100万人以上のファンが集まる
しかし高級磁器として人気を得ていた有田焼も1992年の約661億円をピークに、2005年には約210億円まで売上を落としている。2011年現在も輸入品による価格下落など。依然として厳しい状況だ。
そんな中、今世界のVIPが注目している有田焼がある。
日本デザイン×職人のコラボレーション
日本は、伝統文化を大切にします。伝統文化を継承していく事は、歴史の積み重ねそのものであり、購買者にとってはそれが信頼になります。
しかし、時代の変化が激しい昨今では、消費者のニーズを反映させた商品作りが大切です。
そこで、有田焼に携わる21社がタイアップし、有田焼の職人技×日常生活に適した機能性×日本ならではのデザインを融合させた新商品の開発が始まりました。
複数の窯元が同じ形を共有するということは、400年の歴史の中でも殆ど無いことで、プロジェクトリーダーの百田さんは、年長の方々へ礼を尽くしながらも、革新的に進める所を一番大切にしたそうです。
ユニクロのように多彩な絵柄が選べる
作り手側の意図で完成した磁器を買ってもらう、というプロダクトアウトの商品提供から、消費者が自由にデザインを選べる伝統工芸品に挑戦した結果は、大ヒット。
27万個を超えるセールスになり、累計では、100万個を突破し、現在では、中国市場へ進出するまでになりました。
有田焼に携わるそれぞれの業者が別々に販売をしていくのではなく、これまで培われてきたその叡智を結集して、最高の一品を作ることに集中したことが成功につながったのです。
日本酒を美味しく飲むための機能とデザイン性を追求
最初に発売された焼酎グラスのヒットを得て、次は、日本酒の徳利と杯の開発が着手されました。
これも、自分達が作りたい、作れるというプロダクトアウトの発想ではなく、実際に焼酎を売りにいった営業マンのフィードバックを参考に開発されました。
地元で有名な日本酒メーカーの協力を得て、生活者にとって使いやすく、日本酒がさらに美味しくなるように工夫されている所が、強みです。
筆者も実際に試してみましたが、洗練されたデザインの徳利を使って注いだ盃の口触りは、日本酒の醍醐味が感じられ、大名気分が味わえます。
これからの有田焼の課題と挑戰
2011年末までには、焼酎グラスの販売から、6シリーズ目のお茶漬け用の茶碗が販売されており、大変好評を博しています。
有田焼は、国内のみならず中国やドバイなどへの展開を仕掛け始めている。では、海外展開、特に中国進出への課題は、なんだろうか?
中国人が好む商品を作ることは、技術でなんとかなるだろうが、一番の課題は、商標登録なのかもしれません。
・中国の商標登録
2010年8月30日 佐賀県流通課によると中国商標局に「有田焼」が登録されていたことが判明した。2002年11月に福建省の個人が「有田焼」の名称を申請、2004年11月に10年間の期限で登録されていた。上海万博に合わせて佐賀県が上海の百貨店で開く「日本佐賀産品展」に出展するため中国商標局のホームページを調査していたところ判明した。会期中は原産地表記として「日本有田産」のほか、「ARITA JAPAN」あるいは、「ARITA CERAMICS」などローマ字、英語表記でせざるを得ないようになった。wikipediaより
有田焼という知名度が高い商標ブランドを中国では使用ができないのだ。さて、どうしようか、と悩みました。
「商標登録の件は、法務のみならず、政治面での働きかけが必要なのでやはり有田焼の良さを消費者に知ってもらうしか無い。
有田焼の絶対的な強さは、完全にコピー出来ない事だ。」
徳利や杯なども本当に美味しく飲めるように200以上のサンプルで試し、職人しか作れない精巧な作りを実現している。
飲食用の磁器とは別に発売されている、せっけんの溶けにくさを追求した有田焼きのせっけん入れにもその技術の高さが現れているだろう。
まとめ
伝統工芸品は、これまでのプロダクトアウトの発想を完全に捨てて消費者目線から製品を作っていかなければいけないということ。
それは、多くの人がわかっていることだがその体現者はまだ多くないことはまだまだこれからの課題と言えます。
同時に若い担い手を受け入れる体制もまだまだ十分に整っていない。
佐賀の事例は、百田陶園の百田社長が東京の商社で経験を積んで佐賀県に戻ってきた事が一つの成功の要因だったと考えられるでしょう。
行動力のある経営者に限らず、すでに何年も前から海外に動き出しているし自治体が主導になって、海外展開を推進している都道府県もあるのです。
しかし、伝統工芸品については、製作者自体の意識改革も必要なのでは?
それをどのように実現するか?衰退してなくなるのも文化の1つであるし、また革新性を持って、生き残っていくのも文化という言葉思い浮かびました。
伝統工芸を作る工房もしくは伝統工芸組合などは、まずは、自分達の活動を知ってもらう事からはじめ、共鳴してくれる「ファン」を増やしていく事が大切でしょう。
そして、その中で、ヤル気がある人を、見つけて、育てて、応援しながら商品も一緒に育てていくこと。それが、我が国の伝統工芸品のこれからの繁栄に大きく影響することになるでしょう。
関連リンク
http://arita.takuminokura.jp/
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