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小豆島中山地区で約300年間続く中山農村歌舞伎「この地域に生まれて幸せ」を伝える

小豆島中山地区で約300年間続く中山農村歌舞伎「この地域に生まれて幸せ」を伝える

    CATEGORY: AREA:香川県

小豆島中山地区で約300年間続く中山農村歌舞伎。地区に住む人々が役者、義太夫から化粧師、舞台係などの役割を担い、みんなで築き上げていく、年に一回の奉納歌舞伎。地域の人々が一体となってつくりあげる喜びをいつまでも後世に伝えていきたいという熱い想いが込められていました。

「楽しみを分かち合いたい」気持が起源

中山農村歌舞伎は、今から約300年前に小豆島から伊勢参りに出かけた人々が、上方で観た上方歌舞伎の面白さ、素晴らしさに魅了され、それをぜひ島にいる人々たちのも感じてもらいたい、と思ったのがきっかけで生まれたそうです。

当初は上方から一座を招いて上演していたものを、次第に自ら企画し、上演するようになりました。それが今に続く「中山農村歌舞伎」です。

その特徴は、演じる者、裏方の者、そして観る者を含め、地区の人々が世代を超えて、そして時代を超えて、一体となって運営されているところにあります。

伝え続けられる舞台設備

○舞台

中村農村歌舞伎の舞台は桟敷席を挟んで南向きに鎮座する春日神社と向かい合うように建てられています。現存する舞台ははっきりとした記録が現存しまでんが、江戸時代文政年間(1818年以降)に建てられたといい、現況を著しく変えるような改築はされておらず、20年に1回の屋根の葺替えが行われているのみです。

○まわり舞台

舞台床の一部を円形に切り抜き、これを回転して舞台転換を行います。四本の棒が取り付けれれれていて、人力でそれを押して回す仕組みになっています。

○油鉢

昔の照明器具です。ここに火をくべ、芝居の見せ場になると観客の掛声に合わせて照明係がこの油鉢に油を注ぐと、パッと火が立ち上り、明るくさせます。

○桟敷席

桟敷席はかつて地区毎に10区画に分けられて、一軒につき0.7畳ほどが割り当てられていましたが、現在は自由席になっています。割り当て制だったころはその地区毎の席の分配について激しい争いもあったそうです。それだけ人々を熱狂に包んでいたのですね。

○根本

「根本」とは歌舞伎の台本のこと。約350冊が保管されていて、その歴史を伺い知ることができます。

○小道具・大道具

衣装は約720点が保管され、その他かつらやふすま等、数々の大道具や小道具が保管されています。

上演されるまで

中村農村歌舞伎は、毎年10月10日に春日神社に奉納されます。それに向け、毎年地区の人々の多くが関わります。

○大寄り合い
8月15日~20日頃に「大寄り合い」と呼ばれる地区の寄合で、その年の世話人を決め、農村歌舞伎がスタートします。8月末日には 演目、配役、裏方を決め、「抜き書き」という作業が行われます。根本(台本)から役者毎の台詞を書きうつし、役に選ばれたものはそれを見て稽古をします。

○練り固め
9月15日~20日頃に「練り固め」が行われます。これは稽古始めで、役者や裏方等の関係者が全員顔を揃え、その年の農村歌舞伎上演への結束を固めるものでもあります。この練り固めが終わると稽古も仕上げに入ります。

○舞台開き
本番一週間前になると、「舞台開き」が行われ、舞台を準備します。そのほか小道具などの準備を行い、上演を迎えます。

○上演
上演は午後5時から。まずはこども歌舞伎の上演、そして二幕の大人歌舞伎があります。演目には、「伽羅先代萩」「仮名手本忠臣蔵」「義経千本桜」など 名作の他、小豆島を題材にした「小豆島」や「清水騒動雪降新形」「星ヶ城古跡の石碑」 「島義罠伝平井兵左衛門」等があり、とても人気があるそうです。観客は「わりごう弁当」と呼ばれる大型の弁当箱に小分けの弁当箱が入っている弁当箱を持ち、集まります。そして酒を汲み交わしながら舞台に声援を送って見物します。

○衣装干し
上演日の翌日、桟敷に綱を張り、衣装を干します。そして「どぅやぶつ」と呼ばれる打ち上げが終わると、その年の農村歌舞伎は終了です。
「この地域に生まれて幸せだ」が地域への誇りへ

中山地区はご覧のようにとてもきれい棚田が続き、農作物の収穫への感謝として中山農村歌舞伎はこの地区を鎮る春日神社に奉納されています。

農村歌舞伎は始まったのも上方で観た上方歌舞伎の面白さ、素晴らしさを島にいる人々たちにも感じてもらいたい、という気持ちから。島外に働きに出る人も多くなり、なかなか稽古などもできず一時はその存続が危ぶまれたこともあったそうですが、地域の人々が一緒になって楽しみながらつくるこの伝統をなんとかして伝えていきたい、という気持ちによって、今日まで続いてきました。

地域の人々の連携という横の連携もさることながら、自分が子供の頃ワクワクしながら観ていた、あの感動を次の世代、また次の世代とつなげていきたい、という時代という縦軸の絆の強さを感じる中村農村歌舞伎。それを通して生まれる、「この地区に生まれて幸せだ」という気持ちが地区への誇りへとなり、この農村歌舞伎を支え、伝え続けてこれました、と地域のみなさんは口を揃えておっしゃっていました。

みなさんの地域にも古くから伝えられる伝統芸能や伝承文化はありませんか。そこには人々の誇りが詰まっています。何事にも代えがたいその文化を、縦軸・横軸の絆を感じながら、多く人に伝えることは、地域の人の元気にもつながり、その地域のことをよく知ってもらうことにつながるのではないでしょうか。