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丸亀町商店街:まちづくりは、まち経営(2)

丸亀町商店街:まちづくりは、まち経営(2)

    CATEGORY:観光 AREA:香川県

大変画期的と思われる再生計画ですが、その根底にあるのは「経営」の視点。それをどのようにまちづくりに活かしているのか、さらに詳しくうかがいました。


まちづくりにも「投資」という感覚が必要

(古)ここまでのお話だと公費を使って商売人が借金をチャラにした、ということになり、市民感情的にも許されません。ですので、わたしたちは役所に対しては、交付された補助金をきちっと税金としてできるような収支計画書を提示したわけです。
 
例えば、一番街のアメリアの建物の固定資産税評価は開発前400万円くらいお支払していましたが、開発後は実質3600万円お支払しています。従前比900%です。
私たちの商店街が7割程度仕上がれば、約10億の返済が可能という試算をはじきました。100億投資しても10年で回収できる、そうした投資効果のあるものが市の中心にできるというわけですね。
 
-補助金は投資である、というフレーズがありましたが。
(古)投資効果に対して高い評価をいただいて、それだけの公費が導入されていきました。私たちは約束とおりの税金をお支払いしているのです。
その大前提で、自治会のなかではいかに税収を増やすか、ということを今まで考えてこなかった、考える必要がなかったといえます。お金が足らなくなると、国に陳情団を送って、交付税をもらってきて、収支を出してたわけです。
まさに役所は配当は劣後でしたので、集まってきた税金のなかで運営費を引いた残りが按分されて、補助金・助成金で出るだけですから、税収が増えようがどうであろうが何の関係もありませんでした。
パワーより必要なもの、それは「収支計画」


-丸亀町のようにみんなが意識をもってやろうというパワーがあればいいと思いますが、そのパワーが分散するなどして団結できない場合とかはどうすればいいでしょうか。
(古)それはパワーの問題ではないのです。収支なんです。明らかに昔のまちづくりと変わってきた点で、過去にまちづくりに関わってきた人は誰も収支計画を考えてきませんでした。
アイディアはたくさんでてきます。では一体リスクを負うのは誰なのか。それは役所です、商工会議所です、ということになって今まで具現化できてこなかったのですね。
-収支計画を見せるということは、ビジネスをやっている人にとっては当たり前のことですよね。
(古)昔はまちづくりも収支計画は要らなかったのです。なぜなら考えなくてよかったからです。全ては経済成長が支えていて、経済は発展する、人口はどんどん増える、ということがベースになって組まれた仕組みだったのです。むしろお金の話はタブーでもありました。
今はみなさんが納得する収支計画をつくり、それで合意形成を図る時代にあることを本当に意識しなければなりません。ガッツとかやる気というレベルではもうなくなってきていると思いますよ。
鎖国をしても生き残れる地域へ

-グローバル化というのが声高に叫ばれていますが、それに対する取組みはされているのですか。
(古)私たちは全くの逆です。日本経済がこういう状態になったのはグローバル化を目指し、国際平準化のなかで結局競争をして、単価が下がってきました。これがデフレです。日本は資源をもっているわけではないのだから、欧米や中国のようにはいきません。私たちが考えているのは「自給自足」です。
これから人口は減っていくわけですから都市間競争をしていたら自分達の首を絞めているだけに過ぎません。だから、地域で採れたものを正しく地域で消費される地域経済の循環を目指しています。極端な話、鎖国をしてもこの地域だけで自給自足できるくらいまでもっていくことを目指しています。
各国土地問題というのは状況が違います。諸外国では政府や市が管理していたりして、まちづくりや都市計画が簡単にできるところが多いですが、日本は地権者がみな対抗権力者。これを解決しなければまちづくりができません。なので、これを解決し、世界に発信したところでそれが何?というレベルでしかまだ日本のまちづくりはできていない状況でもあるのです。
丸亀町はシドニー、シアトルになれる

-地域外の人に対する戦略とかはあるのでしょうか。
(古)観光客等はプラスαでしか考えていません。それをメインで考えてしまうと道を誤ってしまいます。その点、わたしたちは京都にはなれません、北海道や沖縄にもなれません。でもシドニーやシアトルになる可能性はあります。
それは歴史的観光資源をもっているのではなく、街自体がライフスタイルとして大変快適であるとか、コストが安いとか、車がなくても歩いて全て事足りるとか、そういう価値をつくることはできるわけですから。
-ヨーロッパのまちづくりを取材してきたのですが、その地域の住民が暮らしやすく、数字レベルでこのように投資したらどのように返ってくるか、をしっかり可視化して住民主体のまちづくりができている例をたくさんみてきました。日本はまだそういう段階には来ていないのでしょうか。
(古)日本はいままで中央集権で役所主導でのまちづくりをしてきました。昔はそれでよかったのです。役所もきちんと管理できていましたが、今はバブルが原因でガバナンスが崩れてしまったのです。そして国は莫大な借金を抱えてしまいました。
今までできていた仕送りができなくなったから自活してやりなさい、というのが今の地方分権です。自活をするためには財源が必要です。しかし、首長をはじめとして誰も税収を上げようという話が起きません。考えてこなかったので、そういう機能を失ってしまったのですね。
であるならば、自分達のエリアでは、自分達がお金を集め、自分達の街の運営を自分達でやりましょう、ということなのです。私たちがモデルにしたのはアメリカで発展している「BID(ビジネス再開発地区制度:Business Improvement District)」です(※BIDとは、「不動産所有者や商業者が地域振興を行うための組織づくり及び資金調達の仕組み」と定義されている)。
-街を歩いていても、住みやすそうだなぁ、という印象がありますね。
(古)私たちがやったのは、先ず住宅整備ですね。でも住宅整備だけしても人は帰ってきません。次にやったのは住民の人たちが快適に生活することができるために必要な施設を最優先にしてテナントリーションをするのです。
例えば医療、介護、温浴施設、スーパーでなく正しい流通の市場、そういうものがきちんと配置されて、以後市の中心に住む人々は車を使わず歩いて事足りるような環境が提供できれば人は間違いなく帰ってきます。そうすれば商業が勝手に発展していきます。
まずは「白紙に戻せ」

-今流行りのICTを使ったコミュ二ティビジネスとかもありますが、そういうのも仕組みができれば自然と発生するということでしょうか。
(古)大学や企業、第一次産業の方との連携等いろんなプランはいっぱいでてきます。でも結局それを具現化させるステージを作ることができなかった。私たちはそのステージを、土地の所有権と利用権と分離することで白紙にして作りあげたのです。
-これは他のところでもできるものなのでしょうか。
(古)みなさんこういうお話をするとそれは丸亀町の奇跡だ、とおっしゃいますが全然できますよ。誤解を招くのを避けるため、冒頭での地権者の合意形成のところを今まであまり詳しくお話してこなかったのですが、最近そのポイントをお伝えするようにしています。
ポイントを押さえ、そのシナリオに乗れば合意形成は簡単にできます。白紙にすることはできるのです。その後っそのエリアエリアの案件の基づいた新しいまちづくりをしていけばいいのです。
みなさん漠然とまちづくりをしてきました。イベントをやって人を集めると何かまちづくりをやっているような気になっていた、ということがあるかと思います。
まちづくりは「都市経営」へ

-まちづくり、とはそもそも何でしょうか。
(古)都市計画ですね。ただ過去の都市計画は道路計画でしかありませんでした。これからは「都市経営」なんですね。中央集権によりマネジメントする能力が役所にはなくなってしまったから、マネジメントすることが必要になってきているのです。
-地域活性化コンサルタントとか地域マネジメントをやる会社等ができてきていますよね。ああいうかたちでも良いわけでしょうか。住民主体でなく、よそものの関わりとしてどうなのでしょうか。
(古)基本的には構わないのですが、「土地問題」はよそものでは解決できません。ここだけは地権者が汗をかかねばなりません。更地にしたうえで運営をよそものに任すというのはOKです。みなさん今までそうしたベースを避けてきたので、土地問題をクリアにしないままにまちづくりを進めても意味が無いわけです。
先に言いましたが、過去の都市計画は道路計画でした。これは国土交通省の管轄ですね。商店街は経済産業省や財務省、その他税金等々様々な問題がありましたが、このように縦割りで全くリンクできていませんでした。もしこれから都市のマネジメントいう分野の学術研究がされ、モデルが確立するのであれば、この縦割りを壊すのが必要で新しい組織が必要です。
-これから丸亀町に必要なこととは何でしょうか。
(古)公的支援ですね。道路を通すのと同じなのです。ある程度公費を入れて地ならしをして、ただ一旦それが出来上がったら助成金や補助金は一切入れません。イニシャルのところだけはある程度必要ですからね。
-国や自治体は優秀な投資先を探しているのではないでしょうか。
(古)問題がありまして、国や自治体は集中投資ができないのです。まだ国は良いのですが、自治体は難しいです。例えば市長が市の中心部に集中投資をして、そこからの税収入が財源です、という理屈はわかるのですが、そうすると次の選挙は落選してしまいます。様々なところへ配分しなければなりませんので、それが地方自治体のネックなのですね。つまり投資ができないからリターンが生まれないのですね。社会の仕組みとして難しいです。