既存の行政サービスは、財政難や住民ニーズの多様化などの問題があり、従来の地方自治体主導のやり方では解決できない問題を抱える自治体が多いのが実情です。札幌市では、平成19年に制定された自治基本条例に基づき、行政と住民、NPO等の団体とが対等な立場で連携した「協働」によるまちづくりが積極的に行われています。
「協働」が広がる札幌市
全国の地方自治体の中に、厳しい財政状況や住民ニーズの多様化が進んだことによって、既存の行政サービスでは解決が困難な状況が生まれて、様々な課題を抱えている自治体が少なくありません。そこで、新たなまちづくりの手法として、行政と住民、NPO等の団体とが連携し、対等な立場で責任を共有しながら地域課題の解決に取り組む「住民協働」の動きが広がっています。
北海道札幌市では、平成19年に「情報共有」と「市民参加」を柱とする自治基本条例が制定されました。現在、住民自身が行政と協働し、まちづくりの主役となって地域課題を解決していく「市民自治」の取組みが進められています。
札幌市のバラエティに富んだ「協働」
札幌市では「協働」の取り組みが非常にバラエティに富んでいます。今回はその中でも、
行政と市民の協働、行政とNPOの協働、設備面での協働、資金面での協働といった観点から
3つの取り組みを紹介いただきました。
まちづくりセンターの設置と地域自主運営
行政サービスセンターとして設置されていた市内87か所に設置してきた「連絡所」を、市民の地域における主体的なまちづくり活動を行う「まちづくりセンター」として、平成16年に衣替えをしました。すると、一部の地域では、この取組み町内会などを核とする「まちづくり協議会」などのネットワーク組織が中心となった、地域の主体的このセンターを活かして、地域自らが、地域のさまざまな課題を地域の実情に沿って解決するための活動をするために、「運営を地域に任せてほしい」との要望が高まってきたのです。地域のことを最も良く知る地域の人ににまちづくりセンターの運営を任せることが、より自立した地域運営につながっているのです。
こちらは札幌市石山地区のまちづくりセンターが運営しているコミュニティ食堂「いしやま食堂」。地域住民が日替わりで食事を提供して、地域コミュニティの場としています。この日はカレーを提供いただきました。食を通したコミュニティの場は人々が集まりやすく、地域の食材等も利用するとより地域への意識が高まる、面白いアイディアです。
NPO法人コンカリーニョとの協働
NPOとの協働では、NPO法人コンカリーニョの斎藤ちず氏理事長からお話を伺いました。「まちがアートを育て、アートがまちの力になる場として、『芸術文化の力を生かしたまちの拠点づくり』をすることを目的にしています!」と元気に語る斎藤さん。
現在、JR琴似駅の商業施設にコンカリーニョの劇場があります。もともと琴似駅近くの倉庫を改装した劇場をもちながら活動していたコンカリーニョですが、駅前再開発で劇場が閉鎖になるのをきっかけに、芸術がもつ人をつなぐ力を活かすことをしていきたいと考え、まちとアートをむすぶコミュニティ拠点となる「コミュニティシアター」としての劇場再建を目指したそうです。劇場というハードを創造拠点とし、ソフトとなる様々な芸術文化を触媒として異分野・異世代をむすぶことで、地域の活性化に取組んでいったのです。
現在、廃校となった小学校の活用として、文化芸術を通して地域住民との協働を図っている「あけぼのアート&コミュニティセンター」の委託運営を行っています。上の写真のように部屋をレンタルし、市民の創作活動を支える活動を展開しています。
札幌市市民活動サポートセンター
札幌市市民活動サポートセンターでは、札幌市が設置した、ボランティアやNPOなどさまざまな市民活動をサポートする拠点施設となっています。打合せ・会議コーナー、パソコンコーナー、印刷作業室、レンタル事務ブース等の施設が充実し、市民が利用しやすいよう夜も22時まで開館しています。
さぽーとほっと基金(市民まちづくり活動促進基金)
さぽーとほっと基金(札幌市市民まちづくり活動促進基金)は、市民からの寄付を札幌市が募って、町内会・ボランティア団体・NPOなどが行うまちづくり活動に助成する仕組みです。市民が気軽に寄付してもらえるような仕組みをつくっていくことで、「寄付文化」が一般的に広がり、資金面での負担を軽減することによって、より市民の活動を活発にしていくのが狙いです。
「脱誰かがやってくれる」&「脱ひとりよがり」
札幌市の取り組みを見て、「協働」を円滑に進めるために、二つの視点が重要であると考えます。
「誰かがやってくれるだろう」という依存的な考えから着実に「自立」へと歩んでいるのを感じるものでした。それぞれのニーズが多様化した現在、画一的な行政サービスでは、市民の不満は高まり、地域の連帯感も薄くなっていく。地域の問題を解決するのは地域に住む人が一番良く知っている。行政はそのマンパワーや財政など援助できる部分もある。「協働」を通し、住民と行政が共に悩み、知恵を出し合い、解決していく。そして、市民も、行政も、NPOも、係る人みなが自分の問題として係る意識をもつことが重要です。
もう一つは「脱ひとりよがり」。こうした取組は、かならず「継続的に運営すること」を念頭におき、より多くの人々の賛同を得ることが重要です。実際に組織を回している人たちのひとりよがりになってはならないことです。
コンセプトの共有、ニーズの吸い上げ、サービスの質の向上等を視野に、「自主的な運営」を目指さなければなりません。
「協働」というのは一つの通過点にすぎないのです。最終的には「市民管理」というレベルにもっていくことこそが最終的なゴールなのです。