中国には行政が決めた地域の範囲を「社区(しゃく)」として定めており、一つの行政単位としています。この「社区」を活用して、ワークショップを通した住民・行政・NPOが協働する仕組みをつくり、住民が中心となって地域運営や地域問題への参与・参画を推進するNGO「社区参与行動」(Community Action)の活動から、特に住民と行政の間に立つ潤滑油としてのNGOとしての立場から、WSの進め方を中心にまちづくりのヒントを探ります。
ワークショップを通した住民・行政・NPOが協働する仕組み
中国の行政機関は、それまで「社区」を一つの行政単位としてしか認識しておらず、すべての社区に対して画一的な行政サービスを行っていました。しかし、それでは住民のニーズには応えることにはならず、社区毎の個別の問題を解決することにはなっていないため、住民たちの不満が高まっていきました。
一方、行政としては、そうした住民ニーズを吸い上げる方策がわからないため、何から手をつけてよいのかわからない、といった状況が発生しました。そこでCommunity Actionでは、「ワークショップ(以下、WS)」の手法によって、住民たちが本当に望んでいるニーズを見出し、自らが主体となって問題解決にあたる体制をつくりあげます。
一方、行政にはWSで得られた住民意見を尊重して、問題解決のためのサポートを全力で行う体制をとってもらいます。このような活動を様々な「社区」で行い、住民・行政・NPOが協働して、よりよい地域・まちづくりを実現しているのです。
表現に耳を傾ける場がワークショップ
現在各地でWSを活用したまちづくりが行われていますが、効果のあるWSを展開するために重要なポイントがある、とCommunity Actionの代表である孫さんはおっしゃいます。
それは、住民が求めたいものをみんなと協調し、ひとつのゴールを決め、行動プランを作ることまです。
「強調することで、グループが生まれるのです。自分たちが求めたいものを手に入れるためには、その責任を自分たちも担わなければならないのです。その意識を、住民たちが持たねばなりません」
この意識の変革こそが、自発的・持続的な活動となっていくのです。一方、行政にも意識を高めてもらいたいとおっしゃいます。
「行政も聞くだけではダメで、住民が出した答えに対してコメントをしてもらいます。これに関してはこれ、これはこうすれば解決できる、とその場で言わなければなりません。そして、住民が決めた行動計画に基づいて、行政は必要な資源を調達してきて、住民たちがそれを実現するために環境を整えることを約束することが大切です。
互いが真剣に問題解決のために向き合う姿勢であるという意思表示をすることが重要です。
ターゲットを明確にすること
それでは、WSによる話し合いを行っていくなかで、明かにしていかなければならない点はどういうところにあるのでしょうか。
これには3つのポイントを提示していただきました。
・このまちでどんなことをやりたいか、という、まちづくりの目標をできるかぎり明確にすること。
・あなたがやろうとしていることは誰に対してやるのか、あるいは、あなたがやろうとしていることに関係のある人(利害関係のある人、影響のある人等)はいったい誰なのかを明確に探し当てること。
・グループのなかで、熱意があって、リードのとれる人を発見すること。そして、その人にプロジェクトを組織させること。
漠然とした結論となり、行動に移すことができないのであれば、WSをやった意味がなくなります。そうならないためには、できるだけ明確に、できるだけ実践的になるまで議論を落としこんでいかなければならないのです。
WSをうまく進行するための工夫も大切です。
WSをうまく進めるために、その場をコーディネートするスキルも非常に大切になってきます。
話し合いに参加した人それぞれの意見を尊重することは、その人の自己重要感を高め、積極的な取り組みへの意欲を沸き立たせることにつながります。
話し合いに参加していただいた人への感謝を伝えたり、出される意見は絶対に否定はせず、全てをひとつの意見として尊重する等の配慮、そしてなんといっても話しやすい場づくり。
「例えばですが、参加したみなさんの年齢を足していって、何千になるというときありますが、『みなさんは足すと数千年の経験ですよ、みなさんの数千年の経験を生かし、知恵をだしていけば、私たちは良い議論ができるにちがいないですよ』、とみんなを盛り上げたりしますよ。」と、場づくりを楽しみながら行っているようです。
組織をうまく運営するための5つの条件
プランが出来上がったら、それを実行に移すための組織がきちんと運営されるサポートが必要になってきます。そこで、組織をうまく運営するために5つの重要な条件を提示いただきました。それは、
・リーダーがしっかりしていること。
・中核となって動いてくれるメンバーがいること。
・具体的にみんなが関心をもっている話題・分野がないと注意力が分散してしまうので、ベースとなる関心事を明確にすること。
・ただ関心事があって話をして終わりにならないように、持続可能な具体的なプログラムをつくること。
・定期的な例会制度をつくることで、組織内部でコミュニケーションをとり合うこと。
です。組織最初に提案を出した人、問題をだした人、それに賛同した人が中心となって、責任をもっていかに実施に結びつけるかをサポートするのが、NPOの役割としてとても大切になります。
しかし、プランはできてもそれを担ってやっていこう、という人材が不足している、という点にも問題として浮かんできます。
そうした問題は、中国でも同じだそうですが、Community Actionではその一つの解決策として、趣味と、その人が本当にやりたいことに近づけていく、という試みをしたりしているそうです。
「最初に高い目標、地域の問題があって、これを直接解決しようという活動に取り組んでもらうわけではなく、趣味のグループでまずグループを作ってもらいます。グループができるとグループで活動するために、ルールを作ったりして、グループづくりをしていくわけですよね。そうなると、みんなで一緒にグループを作ることでいろんなことができるのだな、ということに気づいてもらい、そして、他のことにも積極的になり、チャレンジしていったり、やることが増えたりします。だから一気に目標のプランに沿って直接実施してもらうのではなく、いかにその人が負担を感じずに、本当にやりたくて、楽しめるようなことを先にやって、徐々にその方向に導くのです。難しいことですが、実際にやっています。」
win-winではなくwin-win-win…
一方、行政に対して求めることは「事前に、もし合理的な意見、提案であったら絶対に採用しなさい、採用しなければ協力しない、と約束をとりつけたうえでやること」です。
住民が立てたプランが行政の一方的な理由だけで実現ができない、というのであっては、WSに参加すること自体に不信感を覚え、WSは機能しなくなります。
逆に住民の声が本当にその後の施策に反映されたら、市民側もこれは面白いかもしれない、ということでその後積極的な参加が生まれ、行政もみんなが喜ぶのであれば、次も協力していこうじゃないか、というプラスの循環が生まれてくるのです。
参加した全ての人が利益を得るような、win-winではなくwin-win-win…をつくっていく、その工夫をすることがとても大事なのです。行政も利益を得るし、住民も利益を得るし、参加するひとたちのニーズが何かということを考えて、プロジェクトというのはみんなにとって利益になる、そうするとみんなもやる気がでて、Happyにつながっていくのです。
「信じることができるかどうか」
WSを主催するときに一番大切なこととして、孫さんは「信じることができるのかどうか」とおっしゃいます。
「このWSに参加する人たちは、いい意見をきっと出してくれる、きっとこのWSの成功のため、最後のこのWSの合意のために貢献してくれる、責任をとってくれる、ということを、信じて疑わないのであれば心配することは実はありません」。
誰もが悪い方向へ導こうとは考えていません。それぞれの立場があり、それぞれの立場から街を良くして行こうという想いがあるなかで、衝突するものもでてくるのです。
そうしたなか、WSはどこが対立しているかを洗い出すことができ、その点を解決するプランを組み上げ、実現する手段として非常に有効です。きっと素晴らしい解決策があると信じて、WSを開催するしてみてはいかがでしょう。