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世界一幸せな国デンマークの「ヒュッゲ」から学ぶ。日本人の幸せな生き方

世界一幸せな国デンマークの「ヒュッゲ」から学ぶ。日本人の幸せな生き方

    CATEGORY: AREA:地域活性化の海外事例

世界一幸せな国として、デンマークが注目されています。

デンマークは、国連が調査し発表しているWorld Happiness Report(世界幸福度報告書)という国際的な幸福度ランキングで、2013年、2014年、2016年に、世界一となっています。

この結果を受けて、「世界一幸せな国」として知られるようになり、その秘密をこぞって知りたいという人々が世界的に増えています。

2016年にデンマークの幸福のあり方が注目され始めると、デンマーク語で「居心地がいい時間や空間」という意味の言葉「ヒュッゲ」が世界的なブームになっていることでも話題。

世界幸福度報告書の最新版によると、日本人の幸福度は、世界51位。デンマークのあり方から、日本人が幸せに生きるために、どのようなことが学べるのでしょうか。

話題のキーワード「ヒュッゲ」とは?

デンマーク独自の言葉として取り上げられる「ヒュッゲ」は、なかなか適した翻訳が見つからないといわれています。

イメージでいえば、「人と人とのふれあいから生まれる、温かな居心地のよい雰囲気」というような意味合いで、あらゆるシーンで活用されています。

例えば、心地よく道を歩いているときは「ヒュッゲ」な時間ですし、良いことがあると「ヒュッゲ」な瞬間を迎えるし、家族とのんびりと過ごす時間は、大切な「ヒュッゲ」な空間になっているというような遣われ方をするのだそう。

ヒュッゲは今や世界的なブーム

この「ヒュッゲ」は今や世界的なブームになっています。その火付け役はイギリス人ジャーナリストのヘレン・ラッセルさん。デンマークで5年生活し、実体験とデータ、そして専門家に取材し、ヒュッゲを巡る一冊の本を上梓しました(『幸せってなんだっけ?――世界一幸福な国での「ヒュッゲ」な1年』(鳴海深雪訳、CCCメディアハウス))。

なぜヒュッゲがブームになっているのかといえば、それは個人的な経験で、自分の生活に手軽に取り入れることができるあり方だからだといえます。

何かを所有したりすることなく、生きているあり方の中で幸福を感じること。それが「ヒュッゲ」という言葉で表され、世界が憧れているものなのです。

デンマーク人は、なぜ幸せなのか?

世界一幸福な人々が住む街を散策しながら、その理由を探ってみます。デンマークを訪れた際にガイドをしてくれたのは、Copenhagen Urban AdventuresのMieさん。

Mieさんによると、デンマーク人が幸せな理由のひとつは、「アクセス」が挙げられるといいます。

聞いてみると、アクセスとは「平等な機会」へのアクセスであり、デンマーク人は平等にそれが保証されているのだそう。中でも、教育に関しては先進的で、世界的にも注目されているシステムができあがっています。

デンマークの充実し平等な教育システム

デンマークの教育の特徴はたくさんありますが、例えば、幼稚園から大学まで学費が無料であり、20歳になるか、大学に通い始めると、全員が学生支援金として月額約10万円を国から支給されること。

その他にも、大学受験がなかったり、興味があることに特化して学べたりと、多くの特徴があります。

その中で、今回注目したいのは、何歳からでも教育を受けるチャンスがあるということです。

それを担うのは、デンマーク独自の教育機関「大人の学校(Folkehøjskole)」。1844年に設立された学校の形態で、17歳以上であれば、小中高などの教育機関の卒業履歴に関わらず、何歳からであっても、誰でも通うことができる学校として運営されています。

アカデミックな学びは当然として、アートやスポーツや音楽など、好きなことに集中して打ち込める学び舎です。

この学校制度が、一種のセーフティネットとして機能していて、仮に仕事を辞めて、大学院に行き博士号をとろうという場合には、給料が出ることもあり、研究を行なって、自身の見聞や経験を深めた上で、社会に出ていくということも可能なのだといいます。

女性が活躍しやすい社会が実現している

また女性の就労率が世界一高いのも特徴です。20〜60代の女性の社会進出率が70%以上という数字は、世界的に見ても圧倒的です。

女性が働きに出やすい環境を下支えしているのも、教育制度の保障と充実です。女性自身が学べる機会という意味だけでなく、保育施設の利用料の3分の2を国が負担するなど、親が子どもを安心して預けて働きに出られる環境が整っています。

このような社会システムを維持するために、デンマークの税金は非常に高く設定されており、消費税は25%で、所得税は40〜60%にものぼります。

しかしその変わりに、国の国民への保障が充実しており、教育機会へのアクセスや、世界最高水準の医療がほぼ無料で受けられたり、介護も無料など、様々なことが上げられます。

人生を楽観的かつ公平な環境でおくれるということが、幸福度の高さにつながっているというわけです。

近年では社会課題も増加

もちろんデンマークの人々すべてが幸福というわけではありません。貧困率は世界最低水準であるといってもホームレスの方はいますし、離婚率は約45%にものぼります(これは女性の社会進出が進み、経済的な自立が果たせている結果でもあります)。

近年最も課題となっているのは、自殺率の高さ。孤独感を感じうつ病になるという傾向も増えているのだそうです。この背景は、わかりやすい経済的な理由などで片付けられず、今後の調査や分析が待たれるところとなっています。

まとめると、デンマークは、国が税として多くの富を徴収し、再分配し、平等に機会を与えることで、社会的な幸福度を高めるとともに、そこで暮らす人々は、自らの幸福なあり方「ヒュッゲ」を大切にすることで、豊かで幸福な生活を築いているということがいえます。

カフェが、街のコミュニティをつくる

デンマークの街を歩いていると、たくさんのカフェを見つけることができます。実はデンマークは、世界有数のコーヒーの消費量を誇る国でもあります。

消費量は、一人あたり1日平均で3〜4杯とも言われ、国民的な習慣となっています。そしてコーヒーが飲めるカフェが、人と人をつなげる場にもなっています。

例えば、デンマークのユニークなカフェの形態のひとつ、ランドリーカフェ。コインランドリーの中にカフェが作られたような空間です。ここには、ベビーカーを押す女性が友だちと訪れるかと思えば、若い人や家族連れ、新聞や雑誌を読むおじいさんなど、多世代が集まる空間になっています。カフェなので、マックブックを広げて作業をする人も。

この多様な人を受け入れる空間が、デンマークにはそこかしこに広がっています。この景色は、周辺に住むあらゆる世代の人たちの拠り所となっているだけでなく、ゆるやかなコミュニティの形成につかながっています。

コミュニティがセーフティネットをつくる

このゆるやかなコミュニティは、デンマークの幸福度の高さが現れた部分かもしれません。作家・ジャーナリストの佐々木俊尚さんは『自分でつくるセーフティネット』の中で、新しいかたちのつながりを作ることを説いています。

「同じ会社」「同じ共同体」というような強いきずなが、日本から失われようとしている中で、次のつながりをどのように作るのか。佐々木さんは次のように提言しています。

新しいかたちのつながりをつくり、新しいセーフティネットをつくり、それで新しい日本をつくる。……弱いつながりの上につくられる新しいセーフティネット

が必要だといいます。そのかたちのひとつが、デンマークのカフェで、ゆるやかにつながるコミュニティであるのではないでしょうか。

社会と個人がつながるデンマークの価値観

デンマークの人々の中には、生まれながら「共」の感覚があるのかもしれません。

なぜなら、デンマークで生まれると、「あなたの子どもは、あなたの子どもではない」という通知が送られてくるのだそうです。この意味は、子どもにも自由と人権があり、両親だけの所有物ではありません。子どもとはすなわち国の将来ですというメッセージが込められています。

デンマークはその豊富な社会保障と共に、個人個人が「共」の感覚をもちながら、個人的な暮らしと、社会的なつながりを両立させているのではないでしょうか。

日本流のヒュッゲを目指そう

慶應大学の前野教授の講座の一コマ


世界的に注目される「ヒュッゲ」に、私たち日本人はどう学べば良いのでしょうか。

そのまま取り入れるということは、デンマークの社会的文化的背景も踏まえると、難しそうです。

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授が研究をリードする「幸福学」の成果が参考になります。

幸せになるためのメカニズムの研究ともいえる「幸福学」。ここにヒュッゲと日本をつなぐ鍵がありそうです。

本稿では、詳しく論じることは差し控えますが、前野教授は、脱領域的な分野として「幸福学」を研究し、実践まで含めた総合学問として幸福学を扱っています。

「幸せの四つの因子」とは?

研究から明らかになったのは、「幸せの四つの因子」です。それぞれ、
(1)「自己実現と成長」
(2)「つながりと感謝」
(3)「前向きと楽観」
(4)「独立とマイペース」
となっており、前野教授自身が付けたわかりやすいネーミングが、それぞれ、「やってみよう!」因子、「ありがとう!」因子、「なんとかなる!」因子、「あなたらしく!」因子です。

これらの4つの因子をバランスよく高めることが幸せにつながるのだといいます。この研究は、教育や、組織開発、経営など、様々な分野に取り入れられ、幸福になることを目指した取り組みがおこなわれています。

なぜ幸福である必要があるのか。それは個人的に豊かな人生を送るためだけではありません。アメリカの研究によると、幸福度が高い従業員は創造性が高く、仕事の効率に優れ、欠勤率や離職率も低いというデータがり、幸福度はそのまま社会の豊かさにもつながるのです。

デンマークは幸福の因子に当てはまる

これら4つの因子から、デンマークの社会を見てみましょう。

教育と機会の充実による「やってみよう!」因子があり、ゆるやかなつながりがコミュニティをつくり、ヒュッゲという独自の文化が「ありがとう!」因子に寄与し、充実した社会保障が「なんとかなる!」因子を保証し、自立し生活できる豊かな社会性が「あなたらしく!」因子を構成していると考えると、デンマークの幸福度の高さにも納得できるのではないかと思います。

幸せな生き方を実践しよう

デンマークの公演。親子が楽しそうに遊ぶ

幸福になるためには、幸福に生きていく心構えがあるかどうかが大事ということを、前野教授の研究は教えてくれます。

幸せの4つの因子を、日々の生活の中で捉えて、バランスをとっていくことが、毎日の幸福度を高めることになるでしょう。そのときに、「ヒュッゲ」から学べることは多いはずです。

ヒュッゲとは、いまここにある幸せを自覚する感覚ということだと言えるのではないでしょうか。

ヒュッゲは、誰の心の中にもあるもので、それは幸せのセンサー次第で、敏感にも鈍感にもなります。そのように考えると、デンマークのような国を目指して幸福度を高めようという議論ではなく、日本的なヒュッゲ、つまり日本的な幸せとは何か。そして幸せが持続可能な社会とはどのような姿なのか。そしてそのような社会はどのように形作られるのかといった議論を、深めていくべきでしょう。

いま、世界的な「ヒュッゲ」という価値観のブームの中で考えたいことは、「自分の中にあるヒュッゲとは何か」ということであり、「日本的ヒュッゲとは何か」ということであるはずです。