慶應義塾大学発のスピンオフベンチャーとして、大学からも出資を受け、味覚を数値化することで、新しい価値を生み出そうとしているAISSY株式会社 代表取締役社長 鈴木隆一さんにお話を伺った。
鈴木 隆一氏(写真)
AISSY株式会社代表取締役社長、慶應義塾大学共同研究員(兼務)。慶應義塾大学理工学部卒業、同大大学院理工学研究科修士課程修了。大学在学中よりシステム開発の受託などを行いながらSFC研究所研究員も兼務。大学院修了後、慶応義塾大学から出資を得てAISSY株式会社を設立。味覚や食べ合わせの研究を行い、メディアにも多数出演。通称「味博士」。著書として、『日本人の味覚は世界一』(廣済堂新書)、『「味覚力」を鍛えれば病気にならない』(講談社)など。
齋藤 潤一氏
地域プロデューサー。慶應義塾大学大学院 非常勤講師/MBA (経営学修士)
1979年大阪府出身。米国シリコンバレーのITベンチャーで、ブランディング・マーケティング責任者を務め、帰国後に起業。震災を機に「ビジネスで持続可能な地域づくり」を使命に活動開始。ガイアの夜明け・NHK・日経新聞等に出演・掲載。
「生茶」の売上1.8倍に貢献、味覚センサーとAI
齋藤
味覚センサー「レオ」には、どんな特徴がありますか?
鈴木
我々以外にも味覚センサーはあるんですが、甘みの数値化するのは、まず難しい。後、弊社のセンサーはAIを使って、おいしさの感じ方を再現でき、拡張性があるという特徴があります。
他社は、主成分分析を行う方法で、そこまでの拡張性が無いだろうと思っています。例えば、弊社の場合、対象にとって相性の良い食べ物は何かなども数値化して示せるというアドバンテージがあります。
齋藤
具体的にどんな依頼が多いですか?
鈴木
先ほど言った相性度、この食べ物にはどんなものが合いますねとか、この食べ物にはどの調味料をかければおいしくなりますねとかの研究結果を食品メーカーさんや飲料メーカーさんに使っていただいていますね。
後、味覚というのは時代で変わっていくんですね。今の時代でおいしいと人々が感じる味は変わっていくので、最終的にはおいしさの味を予測できるようにしていこう考えています。そのために、AIの学習データを集めているという段階です。
齋藤
具体的には、どんな事例がありますか?
鈴木
キリンビバレッジ様の「生茶」の事例があります。この味が一番おいしいという数値を我々が提示して、キリンビバレッジさんがその味を工夫しながら再現されて、2016年に味をリニューアルし販売を開始して、売上が1.8倍になったという成果を出しています。
味覚センサーで売れる特産品に
齋藤
地方から特産品などを発信し、地域を元気にしていきたいというニーズにも応えられていますよね?
鈴木
茨城県のお米にも関わらせていただいています。「ふくまる」という新しいお米の「美味の秘密」というコンテンツで、弊社の味覚センサーを活用いただいています。生卵や梅干しなど具体的なおかずとの相性を数値化することで、お米の特徴を見える化しています。
地方自治体から、地方の特産品を分析をして売りを見つけてほしいという問い合わせも結構ありますね。
齋藤
地方の特産品に対してAISSYさんの技術を使うメリットは他にありますか?
鈴木
販路拡大を狙う際、バイヤーの人たちが、これ扱えるのかなって思った時に、当事者のデータだけだと弱くて、やっぱり第三者のデータが価値なんですよね。
第三者機関で、AISSYという大学発の会社がちゃんと数値化してお墨付きを出してますよというのがあると、バイヤーが組織の中で同僚や上司に説明する際に客観性を持たせられというのが良いところかと思います。
味覚センサーとAIで「おいしさ予測」
齋藤
消費者にとっても良いですよね?
鈴木
そうですね。結局、甘みのポイント・旨みのポイントといってもよく分からないので、このカテゴリで一番旨みのあるのは何なのかというのを「旨味大賞」として表彰していくっていうのをやろうと思ってます。
バージョンゼロを2018年3月にやってみて、これから本格的に日本初でグローバルに通用するものつくっていこうとしていますね。
齋藤
AIの活用、拡張性という部分でいうと、具体的にどのようなことを行われているんですか?
鈴木
基本的には、おいしさとか、好みとか、好き嫌い。最後には、おいしいかおいしくないかというのが重要になってくるので、おいしさのトレンドを予測していくためには、人の好き嫌いやおいしいとかおいしくないを学習させていく必要があります。そこで、AIを活用していますね。
齋藤
実際にご依頼するとしたら、どのぐらいの費用がかかるんですか?
鈴木
基本料金10万円と、1サンプルあたり3万円の分析料になります。お茶やビールなどの場合は、それに「後味評価」というオプション費用が加わります。後は、対外的に公表する時に、2次利用費として追加費用がかかります。
例えば、特産品の場合であれば、他の地域のものを3〜5種類ぐらい持ってきて平均値を出して、自分たちの地域の特産品とどれぐらい違うのかという出すことが多いですね。
科学的に「ついで買い」を促進
齋藤
相性度というのは、販売においても有効的ですか?
鈴木
対消費者もそうなんですが、小売側に刺さっていますね。例えば、店舗内にあるコーヒーのコーナーで、「科学的にコーヒーに合うクッキー」という掲示をして商品を置いておくと、ついで買いに繋がるんです。
齋藤
科学的に二次購買を誘発するというはおもしろいですね。先ほどおっしゃっていた「おいしさ予測」というのは具体的にどういうことですか?
鈴木
今、研究中なんですが、例えば、一時濃い味を求めていたのが、徐々にまろやかな味を求めるようになるとか、そういう味のトレンドの波を予測していくということです。そのためには、味が数値化されていないと、なんとなくでは予測できないんですよね。
テクノロジーを活用した地域ブランディング
齋藤
自分たちも、テクノロジーを活用して、食べ物というものをもっと科学的によりおいしくして、多くの人に届けたいと考えていますが、ブランディングや差別化を行っていく上で、自治体の人たちもやりたそうですね?
鈴木
そうですね。大手メーカーの場合、規範として、他社商品との比較をメディアでどこまで出せるかという問題はあるんですが、地方から地域の特産品を売っていく際、他の地域や海外の商品との比較したデータについて公表していけないゾーンってどこまでなのかなと思うし、出して良いと思うんですよね。1つの分析結果なので。
後は、商品ができてからではなく、研究開発の段階からもっと入っていきたいですね。仕事を経験してみて、研究開発の段階から入っていかないと、変えにくいと思いました。
齋藤
そういうのが増えていって、自治体の地域づくりも勘と経験ではなく、テクノロジーを加えようよという動きが広がっていくとおもしろいですね。
ありがとうございました。