多くの地方自治体が地方創生を目指し、新規就農や移住定住の促進を実現しようと様々な取り組みを行っている。
しかし、経験ゼロから農業を始める人たちにとって、就農×移住という選択を実現するには様々な壁や不安が存在する。例えば、これまで多くの農家さんが経験に基づいて農業を行ってきた中で、それをどう受け継ぐか、また、本当に稼げるのかということが挙げられる。
そのような課題を解決する、あるいは、解決を補助するものとして、アグリテックに注目が集まっている。作業の効率化や収量の安定化を考える上で、今後さらに有効的な補助ツールになり得るだろう。その1つとして、ドローンによるセンシングとデータ解析が挙げられる。
今回、起業家として「Drone × 農で、日本の土づくりを世界へ」をビジョンに掲げる、ドローン・ジャパン株式会社 代表取締役社長の勝俣 喜一朗さんにお話を伺った。
勝俣 喜一朗氏(写真:右)
ドローン・ジャパン株式会社 代表取締役社長
1967年生まれ、48歳。日本マイクロソフトで営業・マーケティング部門で20年以上にわたり、Windowsなどの事業に関わる。2014年に事業統括執行役員として退社後は、以前より構想を描いていた日本のものづくりの原点「農の匠」と IT技術の活用・融合を目指し、約1年の準備期間を経てドローン・ジャパンを設立。
齋藤 潤一氏(写真:左)
地域プロデューサー。慶應義塾大学大学院 非常勤講師/MBA (経営学修士)
1979年大阪府出身。米国シリコンバレーのITベンチャーで、ブランディング・マーケティング責任者を務め、帰国後に起業。震災を機に「ビジネスで持続可能な地域づくり」を使命に活動開始。ガイアの夜明け・NHK・日経新聞等に出演・掲載。
ドローンを活用し、日本の農業で世界を変える
勝俣さんは、ドローン・IoTを活用して、日本の土づくり(農業)を世界の環境問題、ひいてはサステナブルな農業に対して、貢献できるような事業を実現させていくことを目指し、農業・教育・コンサルという3つの領域でビジネスを展開されている。
齋藤
教育の部分で、ソフトウェアの技術者育成に取り組まれているのはなぜですか?
勝俣
多くの人がドローンというとハードの部分をイメージとして強く出されると思うんですけども、実はドローンというのは8割の部分がスマホみたいなもので、スマホが羽とモーターを付けて飛んでいるようなものなんです。
要するに、ドローンもIoTデバイスなんです。スマホが普及している理由は、IT機器だからで、そこにおけるコンテンツ・サービス・ソフトウェアがリッチなものにしていくわけです。
齋藤
ドローンも、同様というわけですね?
勝俣
はい、ドローンって、色んなセンサーを付けているんですが、データをセンシングして、AI解析して、そしてそれをシステム化して、ソリューションにして、アプリケーションにしていくというところに大きな可能性があります。
そういうわけで、ソフトウェアの技術者育成に力を入れています。世界的に見ると、ソフトウェアの日本人技術者って少なくなっているんですよ。前職の会社がIT事業者ということもあって、ドローンをプラットフォームとしたソフトウェアの開発者をどんどん育成しています。今200名弱ぐらいになっています。
齋藤
それによって何が実現されようとしているんですか?
勝俣
ドローンのクリエイティビティというのを日本から発信させたい。そのエンジニアを農業に活用させたい。
創業から2年半、まだまだ事業性という意味では、特に農業という事業は、投資フェーズです。こらからまだ時間がかかりますが、着々と視点を世界に移して、僕らがやっている農業でドローン活用というものが、これから需要として確実に出てくると確信しています。今は、努力しないといけない時期ですね。
地方創生とドローン
齋藤
地方創生に関して具体的にどんな取り組みをされてますか?
勝俣
「ドローン米」プロジェクトというものを3つの事業を組み合わせながら、地方を元気にする、地方創生に役立てられるかなあと考えています。
地方の農業者の方、自治体の方、農業関連事業者の方々などと一緒にやっていて、特に、特徴的なお米づくりをされていてファン持っている農家さんとつながり合いながら、ドローンを活用してお米をつくる農家さんを中心として地域を元気にするということに携わらせてもらってます。
齋藤
プロジェクトの特徴は、どんなものがありますか?
勝俣
IT・ドローン・世界というポイントがあります。世界では、日本のお米=本物のお米への需要というのが富裕層の中で高まっています。ドバイと香港で販売を行っています。
海外に対してお米をどう売って行くのか、僕らの想いや趣旨やビジョンに共感できるプロジェクトメンバーと一緒に、それぞれの農家さんと地域に対して、世界から脚光を浴びせられるような仕組みづくりを行っています。
地方の農業×ドローン
齋藤
こういったことを農家さんにやろうよと言っても、なかなか受け入れにくい農家さんもいますが、ドローンはどんなところで一番効果を発揮しますか?
勝俣
瞬時にして、見える化ができるということですね。ドローンで撮影して、自動解析・自動合成を行い、瞬時に、リアルに自分やパソコンやタブレットで今の状況が分かる。自分の田んぼがどういう状況になっているかというのが、今までは、あぜからしか分からなかったのが、上から見られるという点で、農家さんにとっては魅力を感じて持続的に使ってくれています。
今までは、ITで農業が点だったんですけど、ドローンによって、面にの見える化ができる。点から面で、田んぼを見える化することができるようになることに対しての期待が大きいですね。
齋藤
見える化というと、具体的にどのようなものが挙げられますか?
勝俣
北海道で一番長くやっていますが、自然栽培の一番のネックというが、通常の栽培方法よりもムラができやすことなんです。1つの田んぼでも、生育が早すぎるところもあれば、逆に遅いところも出てきてしまう。最初は、通常の農薬を使った場合に比べて2〜3割ぐらいしか収穫できないんです。慣れてきた段階で、5〜6割です。
そこで、ドローンのリモートセンシングを活用することで、どこが生育が早いのか遅いのかを解析できるんです。そこに対して、最初の土づくりを行ったり、「穂肥」と呼ばれる、ポイントポイントで有機肥料をあげる作業を場所や量を解析データに基づいて行うことで、7割5分ぐらいまで収量がアップした農家さんがいます。
齋藤
実際、導入しようとした場合、どのようなプロセスになるんですか?
勝俣
ドローン米プロジェクトに参画してくれる農家さん向けのサービスを用意していて、通常のセンシングサービスの半額でやっています。年に2回現地に行く費用、最低3カ月のドローンレンタル代、センシング費用で、通常の半額で生産者に提供しています。
更に、私たちの想いやビジョンに共感して、今までは慣行農法でやってきたけど、「有機やるよ」「無農薬やるよ」「化学肥料を半減させるよ」と言ってくれる農家さんに対しては、半額にした上で、それをお米の物納で受けています。通常のJAさんが買い取る価格よりも高く買い取って、我々は海外でそれを販売しています。
地方の農業の未来
齋藤
すごく人というものを大切にされていて、大きいビジョンでITという手段を活用しながら、世界をより良くしようと行動されている点に感銘を受けて、今回インタビューをさせてもらいました。
例えば、これから農業をスタートする子たちが、この事業を活用して始めたらすごく良いですよね。多くの地域で新規就農者を求めていますが、今の農家さんに弟子入りしてくださいではなく、ドローン米プロジェクトから始めませんかというようなことができれば、農業を始める人の視座も高まり、町に一石を投じることもできるので、自治体には喜ばれる気がします。
勝俣
おっしゃる通りですね。そこが、僕の一番のワクワクどころです。その地域で、農業で食い続けて行くためのソリューションをつくるということを志しています。ドローン米プロジェクトは、まさにそこで、新規就農者さんがワクワクしながら、楽しく地域に貢献しつつ、農業をやってもらうにはどうすれば良いのかというのを考えています。
新規就農者さんだとすれば、3反歩ぐらいからチェレンジできます。それに、これまで一緒にやってきたドローン米プロジェクトの3年生・4年生の農家さんに技術開発において協力をしてもらっています。この方々が、新規就農者に色々と現場の経験から教えることができます。先輩から後輩へ、スキルをとランスファーしていく仕組みを今つくっています。
齋藤
僕は、稼げる農業が大事だと思っていて、大規模でぼろ儲けしろという意味ではなく、家にお米を持って帰れるぐらいきちんと稼ごうということを伝えていて、勝俣さんはJAの在り方や今後について、どう考えられてますか?
勝俣
本当に営農活動しているところは、すごくこれから力がついてくる救世主になると思いますし、金融に重きを置いて営農を軽んじているところは淘汰されていく、はっきりと別れる時代に入っていると思います。
僕らも、地域に行くたびに、JAさんにお会いすることがありまして、意識が低いところは、全く関心を持ちませんし、自分たちの既得権益を荒らされるんじゃないかという目で見る人もいます。逆に、新しいものを活用しながら、地域に貢献して、営農活動をやっていきたいという方もいて、こんなに違うのかと驚くことがあります。
ひとくくりはできなくて、志高くやられているところと、そうでないところがあります。それは、JAだけでなく、生産者さんも同じですね。
地方の農業に必要なROI と価値づくり
齋藤
そうですね。どうすれば、地域を巻き込んで、ドローンのような技術を現場で普及させて、アグリテックを推し進められるでしょうか?
勝俣
大きく2つあります。1つは、現状だと分かりやすいROIがないので、それを明確にするために技術を上げていくことです。もう1つは、作られたものに対して、価値づくりを行うことです。
これだけの投資で、これだけの収量アップを実現できるということ、それをこれだけの高付加価値で海外のマーケットに売れるということ、その両方を見える化して実現することが大切ですね。それを通常よりも、どれだけ高くできるのかということです。
齋藤
1人、ロールモデルがいると分かりやすいですよね。そして、それが他の地域でもできるよとなったらおもしろいですね。それで、コミュニティができると良いですね。
地域の中に新しい技術を取り入れながら、人財育成にもつながると思います。ぜひ、全国の自治体に取り入れてほしいですね。
ありがとうございました。