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衰退する地方経済を立て直し、持続可能な地域づくりのための手法として「エコノミックガーデニング」という方法が注目され始めています。
2006年にアメリカで理論化され、最初に取り組まれたコロラド州リトルトン市で地域雇用の増加に大きく効果を発揮したことから、採用する自治体が全米で増えている取り組みです。
エコノミックガーデニングにいち早く注目し、日本への導入に取り組み、研究と実践を行われてきたのが、拓殖大学の山本尚史教授です。
「地域経済の未来は雇用の拡大にかかっている」と語る山本教授。地域ビジネス環境を整備するエコノミックガーデニングとは、どのようなものなのでしょうか。
地方経済に残された時間はあと10年
日本の人口は減少局面に入っています。国土交通省が出しているデータを見てみると、2050年には日本の大多数の地域で現在よりも人口が大幅に減少するとしています。
しかしここで注意が必要なのは、人口減少はいきなり起こるものではないということです。「残された時間は10年もないかもしれない」と山本教授は指摘します。
ひとつの指標は、団塊世代の後期高齢化する2025年という区切りです。この後、消費はさらに落ち込み、社会保障支出はさらに増えることが予想されています。
また2020年に東京オリンピックが開催されますが、オリンピックの後は不景気なるというデータがあり、それらが重なる2025年というのが、ひとつのタイムリミットといえるかもしれません。
つまり地方に迫っているのは、少し先の危機ではなく、差し迫った喫緊の危機というわけです。
解決のカギは、地元中小企業の雇用創出
地域経済の未来が雇用の拡大にかかっているとすると、どのような雇用が地域に増えると良いのでしょうか。
ひとつのモデルとして、下記のような雇用が望ましいといいます。
人口5万人から10万人の地域において、子育て世代の30代の夫婦が、世帯年収で400万円から500万円くらいあり、10年間継続して仕事に就けるというものです。
なぜこの年収なのかといえば、これくらいであれば、軽自動車が2台所有でき、子どもが二人いて、二人分の学費を貯金できるという目安をもとにしています。
この年収を実現するのは、地域によっては非常に厳しいことであることは伝わると思います。
では、どのようにすれば地域経済の基盤を整え、理想的な雇用を生み出すことができるのでしょうか。
「誠実経済」の実現で持続可能な地域をつくる
山本教授が提唱する目指すべき経済モデルがあります。それが「誠実経済」です。
市場の原理、社会の原理、環境の原理を活かしたモデルで、持続可能な地域の経済モデルとして理想的なものとなっています。少し詳しくみてみましょう。
市場の原理とは、公立や利潤を指します。しかしこれだけでは危機を迎えることはリーマンショックで世界が体験したことでしょう。
社会の原理とは、道徳や公正など、社会の規範となるような価値観です。
また自然の原理として、自然環境からのめぐみなどを示すものをおきます。
そして、あらゆる危機に対抗して、ピンチをチャンスに変える逆境力が重要な要素だといいます。
渋沢栄一の言葉をもじっていえば、「右手にそろばん、左手に論語、頭の上には自然の原理」という状態が理想なのではないかと思っています。
この誠実経済を支えるのが、「地域経済生態系」という考え方です。地域経済生態系は、地域の稼ぐ力の源流であるとし、その内容は次のようなものです。
地域内でのイノベーションをもたらす源泉は、地域の「ネットワーク」と「ルール」と「学習」と「資本」がうまくつながり、機能している状態だと考えています。
地域のキーパーソンがネットワークされ、条例などのルール(ここには無言のルールも含まれます)が機能し、取り組んだことの結果がフィードバックされ改善することができ、取り組みを実施する資本政策ができているような状態です。
地域経済生態系は、地域での実践を下支えし、誠実経済の基盤となるものです。
エコノミックガーデニングは地域経済活性化の実践
地域経済生態系の上で、実践の方法とされるのが「エコノミックガーデニング」です。
エコノミックガーデニングとは「地域経済賑耕」という訳語がうまく言い表しているように、地元の中小企業が活躍できるビジネス環境を創出し、地元企業を成長させることにより、地域経済を活性化させる取り組みを意味します。
ここで注意が必要なのは、エコノミックガーデニングは概念ではなく、調査をもとにしたデータに基づき実施される非常に実践的な地域ビジネス環境作りの方法であるということです。
エコノミックガーデニングの導入は、まず地域の特性調査から始まり、目指すべき方向性を決めます。このときに、地域リーダーと呼ばれる地域のキーパーソンをネットワークし、総合的な観点から判断します。
その後、詳細調査として、地域経済生態系の調査、地元中小企業の実態調査を行います。このときに、どれだけ詳細なデータがとれるかが重要です。なぜなら客観的な分析こそが重要であるからです。
現在多くの地域の経済施策が「カンや経験や好み」といった根拠なき施策になっていることに対し、データに基づき、ロジカルに地域ビジネス環境を整備する取り組みであることがエコノミックガーデニングの大きな特徴です。
このエコノミックガーデニングでのビジネス環境の基盤の上で、やる気のある地元中小企業が持続的に発展し、雇用を創出することが目指されています。
行政と民間の連携、そして民間主導へ
現在日本で行われているエコノミックガーデニングの取り組みは、多くが行政主導となっています。詳細調査など、地域の実体を浮き彫りにするプロセスもあり、エコノミックガーデニングは、取り組み始めてから実現するまで4年から6年かかるとされています。
ここで課題になるのは、自治体の首長選挙や議会選挙です。実際に、首長の交代によって、調査が終わりこれからというところで白紙撤回になった取り組みもあるといいます。
そこで必要なのが、行政と民間が連携し実施し、主導を民間に移していくような取り組みです。実際に日本のある地域では、商工会青年部と市役所が組んで実施し、商工会の方に移していくような将来像を描いているそうです。
エコノミックガーデニングは、長期的な視野にたち、ビジネス環境を整えていく実践のための施策です。そして「ガーデニング」の名の通り、内外のビジネス環境の変化に合わせて、耕し続けていくことが不可欠です。
エコノミックガーデニングへの取り組みとその成果は、即効性のあるものばかりを求めず、本当に効果のある地域経済活性化を目指し、実践するべきだということを教えてくれるものだといえるでしょう。