全国的にも有名な鳥取砂丘を有する、18.8万人の都市・鳥取県鳥取市。
宝島社『田舎暮らしの本』が発表している「住みたい田舎ベストランキング」では、大きなまち(人口10万人以上)部門において、6年連続トップテン入りを実現している地域でもある。2017年版では第1位、2018年版では第4位の地域となっている。
NPO法人鳥取 森のようちえん・風りんりんの代表を務める徳本敦子さんにお話を伺った。
地方へ移住し自然保育に出会う
8年前に、東京から旦那さんの出身である鳥取県移住してきた徳本さん。鳥取県智頭町にある森の幼稚園に我が子3人を通わせた経験から、その必要性を感じ、自ら自然保育をスタートしたという。
−鳥取県に移住して、ご自身のお子さんを自然保育で育てられたと伺いました
はい、3人目がお腹にいる時に東京から移住してきて、その子が生まれてしばらくして、鳥取県で最初にできた森のようちえん「まるたんぼう」というところを旦那が見つけてきて、そこに3人とも通わせました。
すごく良かったんですが、鳥取市から距離があったんです。それで、一旦近くの保育園に戻しました。
−普通の保育園へうつされて、違いを感じることがあったんですか?
そうですね。普通の保育園は、子どものトラブルがあっても、全部大人が介入して解決するので、「もうちょっと子ども自身が考える時間を与えてほしいなあ。」と思ったり、夏だと暑いからクーラーがきいている所に一日中いたり、冬は雪が降っても30分ぐらいしか遊べなかったり、大人の価値観で活動する園のあり方にすごく疑問を持ちました。
それで、やっぱり森のようちえんが良いなあと思って、つくりました。
−普通の幼稚園に行っている時と、森のようちえんに行っている時では、お子さんに変化はありましたか?
よく森のようち園の効果を聞かれるんですけど、例えば、身体的なことで言えば一日中、自然の中で走り回ったりしているので筋肉がついて引き締まったり、精神面で言えば子どもの社会を大切にするため大人は見守る役目なので、自分のことは自分で全部するようになりました。自主性がめきめき育ちました。
−子どもが、違ってくるんですね?
子どもは大人が思っているより、よく見て考え自分でやる力、想像力を無限に持っています。子どもが自分でやりきるまで待ってあげることで「できた」経験を積んで自信をつけていきます。うちの子も毎日本当に楽しそうでした。
地方で森のようちんを始める
−なぜ、自分で森のようちえんを始めようと思ったんですか?
鳥取市内に無かったからですね(笑)あったら多分やらなかったです。1年ぐらいは少し悩んで考えましたが我慢できなくてやろうと決めました。
−その悩んでいる間、どういう葛藤がありましたか?
どうやって園児を集めるか、スタッフへのお給料をちゃんと払えるのか、など初めてのことでいろいろ戸惑いもありましたが、考えるほどやりたい気持ちは高まりました。
「私と一緒にやらない?もしかしたら1年目はお給料も払えない可能性もあるけど。」と4人目に声をかけてOKしてくれた人が今の副代表です。家族会議で反対されていたにも関わらず「私もやりたい!」と決めてくれたということを後日談で聞きました(笑)
−実際に、1年目はどうでしたか?
1年目も年度途中で増えて結局園児は10名に。補助金的なものが整備される以前でしたが、モデル事業として県からの助成があったのでお給料も無事払うことができました。
−プロポーズでどういう想いを伝えたんですか?
森のようちえんは絶対に世界平和をつくるというのを自分は確信していて、それを実現したいんだと伝えました。最初は、1人でも2人でもいいから、子どもを連れて森に行きたいって言いました。
目指すのは「世界平和」
−描かれているビジョンが「世界平和」ということなんですが、自然保育からどのようにそこに至っているんですか?
現代子どもを取り巻く社会問題として、いじめ、指示待ちっ子、体力の低下、虐待などがあげられます。風りんりんは子どもがケンカをしても容易く大人は介入せず、見守ります。どれだけしたらどれくらい痛いとか心が傷つくとか、やったりやられたりで体験していきます。
週に一回のクッキングでは子どもたちが自分で火をおこしたり包丁で野菜を切ったりしますが、軽い火傷や切り傷も作ります。包丁で指を切れば、「痛いから切らないように使えるえるようになろう。」「火は熱いものだから近寄るのはここまで」などのように、自分で考え生み出す力を身につけます。
今の保育や教育は全部それを遠ざけようとする方向ですが、そうすると、心の痛みも、体の痛みも分からずに子どもが育ってしまうと思っています。その結果、心が折れやすく、他人に対して限度をしらない行為に至ってしまうということが起こり得ると思っているんです。
何度も言いますが、本当の生きる力は自分でやった体験からしか生まれません。
−そのような現場って、危険ではないですか?
人間は生まれながらに危険察知能力を持っています。子どもは以外と臆病で、初めての山で草むらや崖に走り出す子はいません。そこが安全な場所なのか確認できてから行きます。大人が思っているより子どもは賢い!(笑)
例えば、棒を持って振りかぶっても、目にはいかないんです。そういう状態になったら、私たちが側に行って、いつでも制止できるようにスタンバイするんですが、なるべく止めずに、子ども自身に気づいてほしいなと見ています。自分がもやってしまったら、相手がどれだけ痛いかを想像してほしいんです。体験や興味を大人が制限せずに、できるだけやらせたいと思ってます。
−なぜ、そうまでして、子どもが自分で考えて体験することにこだわるんですか?
そこからしか、本当の生きる力や自分の中の引き出しは生まれてこないと思っています。
基本、私たちの仕事は、いかに手出し口出しをせず見守るかです。子どもは子ども同士の触れ合いややり取りの中で一番成長します。私たち大人は手や口を出さない代わりに、よく聞いて、よく見るんです。毎日、子ども一人ひとりの体調とか精神状態を把握して、個々の性格も踏まえて、この子だったらどこまでやらせて大丈夫とかをよく見て把握します。
自然保育の葛藤
−先生たちの中にも、葛藤があるんですね?
毎日、葛藤ですね。思考錯誤とドキドキです。塀に登っていてもどこまでを許すとか、できるだけさせてあげたいんですけど、下がコンクリートだったらこれぐらいで止めないととかを毎日見て、考えています。
そのためにも、救命や応急処置の仕方など研修にすごく力を入れています。そのスキルは絶対に身に付けておいて、私たちのリュックの半分は、医薬品です。万一、何かあった時には、すぐにきちんと対応できるようにしています。でも5年間大きな怪我がないのは、日ごろのリスクマネジメントと子どもたちの高い能力のお蔭だと思っています。
−子ども預ける親にも葛藤があると思うんですが、どのように説明されているんですか?
そうですね、究極、入園説明会の時に、腕の1本や2本折ることは覚悟してくださいと言います(笑)実際に大きな怪我は今までありません。
自然の中というと、それだけで危険がいっぱい・・・など不安になる保護者さんもいらっしゃいますので、百聞は一見にしかずで、なるべく風りんりんの活動を見ていただくようにしています。
実際活動を見た保護者さんは、家では見られない子どものたくましさ、仲間同士の関係、スタッフの見守りに安心と感動を覚えてくださり、今では「家でも見守り」が浸透しています。風りんりんは保護者さんも一流の見守り保育ができますよ(笑)
地方へ移住し地域と関わる
−移住されてきて、この地域に対してどのような想いを持たれていますか?
この地にて来て8年になるので、もう愛着がありますよね。自然がすごくきれいだし、人も良いし、私たちの子どもが育ったところだし、森のようちえんをここまでやってこれたのも、家族や地域の力添えがあったからだと思いますね。
−地域に来て、今まで無かったことを新たに始められる中で、反対や反発などは無かったんですか?
あったかもしれません。でも人口減少の村に「子どもの声が聞こえると元気が出てくるよ。」と言って山をフィールドとして貸してくださったり、この地域に昔から伝わるお料理や遊びを園児と一緒にやってくださる、応援してくれる地域の人たちがいます。おじいちゃんおばあちゃんとの触れ合いは子どもたちも大好きです。すごく感謝しています。
森のようちえん・風りんりんは、子どもたちを育んでいるだけでなく、地域の伝統や昔から続いていることを次の世代へ受け継ぐコミュニティづくりにも貢献している。
徳本さんは、子どもからも地域の人たちからも毎日刺激を受けながら、自ら目指す幼児教育とビジョンの実現に向けて、チャレンジを続けている。