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地域には編集力が求められている? 全国各地から宮崎県新富町に情報発信人財が集まる理由

地域には編集力が求められている? 全国各地から宮崎県新富町に情報発信人財が集まる理由

    CATEGORY: AREA:宮崎県

地域の魅力を発見し、磨き、発信する。

そんな編集者やライターとしての基礎スキルを身につけ、地域を再編集しようという目的のもと、宮崎県新富町にある「こゆ財団(一般財団法人こゆ地域づくり推進機構)」が、『地域を編集する学校』を2018年1月20日に開校した。

「地域を編集する学校」は、こゆ財団が2017年4月の設立と同時にスタートした教育事業の一環。

同年5月~8月には児湯郡を中心とする若手人財にソーシャルビジネスの種をまく起業家育成塾「児湯シータートル大学」を開校し、20人の受講生のうち、6人がクラウドファンディングに挑戦。総額150万円の支援を集めた。

全国で後継者不足が叫ばれている希少品種のキュウリを集め、町内の耕作放棄地で共同栽培を行う「きゅうりラボプロジェクト」や、鹿の解体時に出る皮を使った製品づくりを通して村に寄り場をつくる「鹿皮プロジェクト」など、受講生たちは4つのプロジェクトを起動。

2018年5月には、町にある天然記念物の梅の実を使い、お土産品になる梅酒をつくるプロジェクトもスタートするなど、受講生の活躍は現在も続いている。

発信力・編集力が地方を変える

その流れを継ぐ形で開校したのが「地域を編集する学校」である。

もともとメディア自体が少ない地方都市(宮崎県は地上波のテレビチャンネルが2つしかない)では、地域でのさまざまなネットワークを持つ個人がブログやSNSなどで発する情報は、既存メディア以上に価値を築いているといっても過言ではない。

個人が、どのように地域に眠るさまざまなトピックを発見し、受け手に伝わるよう磨き、発信できるか。地方都市の情報発信力は、これに直結する。

まだまだ多くの価値が眠る地方都市に、情報の編集力・発信力を備えた個人が増えれば、地方都市に人財やモノ、お金の流通を生み出すことができる。「地域を編集する学校」はそうした趣旨で、編集・ライティングのスキルを培うことを目的に開校した。

関東など遠方を含む100名が応募

「地域を編集する学校」では、当初宮崎県内からの応募を想定していたが、実際に募集を開始したところ、埼玉や神奈川といった関東エリア、広島や愛媛、九州各県など県外からの応募が多数を占めた。

応募者に動機を聞いたところによると、都市圏には出版社などが企画するライター養成講座を中心に、編集やライティングのノウハウを学べる場があるが、地方都市にはなかなかないことがわかった。

また、応募者のうちいわゆる本業(編集者、ライターなど)ではなく、自治体の広報担当だったり、地域おこし協力隊として地域の情報発信も手がける立場だったりする人が多数を占めたことも特徴的だった。

これは前述の通り、情報発信=既存メディアの仕事ではなく、個人のメディア化が進んでいることの現れであり、編集やライティングが職業の垣根を超えて求められるノウハウであることがうかがえる。

日本を代表する講師陣が集結

講師には故星野仙一さんが阪神タイガースを優勝に導いた際、新聞広告に掲載され全国の注目を集めた「あーしんどかった」のコピーで知られる中村禎さんをはじめ、ビューティーライフクリエイターの長谷川朋美さん、新富町をソーシャルビジネスの新天地として「月刊ソトコト」で特集した同誌編集長の指出一正さんが登壇。

県庁所在地ではない新富町でこれだけの講師陣から指導を受けられるとあって、受講生だけではなく聴講生(一般参加を含む)も毎回多数参加した。

外からの視点で、町の隠れた魅力を発見

「地域を編集する学校」は全5回のプログラムで構成し、およそ2〜3週間に1回のスパンで開校。第2回は別府での宿泊研修も行った。

テーマは『新富町の魅力を発信する』。県外・町外からの参加が大半を占めた受講生たちには、外からの目線を生かしながら、あらかじめアポイントを設定した職業も年齢もさまざまな町の人を取材。実際に記事を書き、こゆ財団が運営するウェブメディア「こゆメディア」で公開していった。

最終プレゼンテーションで最優秀賞を受賞した記事はこちら。

【記事】「気持ちいい古墳!? 百足塚古墳のここがスゴい!」

国指定史跡「新田原古墳群」の中にある百足塚(むかでづか)古墳について取材した記事。歴史の教科書にも掲載されているような貴重な人型埴輪「踊る女性」が新富町で発見されていたという事実に驚いた取材者が執筆している。

なお、この記事の取材者は最終プレゼンテーションで「左手が見つかっていない埴輪」を題材に、どんな左手だったかを想像して書き込むシートを用意。子どもたちなどの学習教材として使用し、楽しみながら地元の歴史を知ることを提案した。講評した「月刊ソトコト」編集長の指出一正さんからは「受け手に対し、考える余白のある提案に高い編集力を感じました」と評された。

また、新富町のカフェを題材にした記事も生まれた。

【記事】「Cafe Kiitos」のあるまち

新富町総合交流センターきらり内にある「カフェキートス」のオーナー・緒方イスエさんを取材した取材者は、その人となりやカフェ経営に対する思い、ママとしての仕事への向き合い方に多くの気づきを得て記事を作成した。

これらの記事は、町に住む人からすれば「あのあたりに古墳があるのは知っている」「あそこのカフェはよく利用している」というふだんの風景のひとつでしかないところを、新しさや驚きを伴って読めるコンテンツとなっている。

ふだんの風景や印象などの「当たり前」に対し、違う角度・切り口からスポットを当ててみると、知らなかったことや興味深い事実が浮き彫りになる。「地域を編集する学校」でのねらいは、まさにここにあるといって過言ではない。

最終回(第5回)のプレゼンテーションでは、受講生たちが取材を通じて発見した「新富町の魅力」について発表した。なかには動画を作成していたり、特産品のひとつである漬物を模した被り物をかぶったり、先述の「Cafe Kiitos」について発表した受講生はお店のことがわかるリトルプレスを作成するなど、バラエティに富んだ内容でのプレゼンテーションとなった。

講座終了後、ライターとして再び新富町を訪れ、記事を執筆している受講生が生まれている。また、受講生同士のコミュニティが生まれ、メディアを共同制作しようという動きも生まれている。

6月より「地域を編集する学校」第二期が開校!

こうした流れや、地域にはまだまだ価値あるものが眠っていることを受け、こゆ財団では引き続き編集・ライティングのノウハウをより多くの人財に身につけていただくため、2018年6月から8月まで全5回にわたって「地域を編集する学校 第二期」を開校する。(募集は既に終了)

今回のテーマは「新富町のふるさと納税の魅力を発信しよう」。地元では高い評価を得ていながら広く知られていない特産品を中心に、新富町のふるさと納税返礼品の魅力をみつけ、受講生の手で磨いてもらおうというものである。

編集・ライティングはそこに光を当て、多くの共感を生むために有効な手段のひとつである。新たな情報発信人財が生まれることを期待したい。