先日、東京出身の方とお話をしていて、意外な質問を受けた。
「地方の居酒屋に駐車場あるよね。あれ、何で?」
秋田出身の私にとって、居酒屋に駐車場があることは当たり前のことだ。しかし、よくよく考えてみると、お酒を飲むことが前提の居酒屋に、車を止める場所があるのを疑問に思うのは自然なことだ。
なぜ、居酒屋に駐車場が必要なのか?
地方は都市部に比べて土地代が安いため、駐車場を作りやすい(駐車場に土地を充てられる)という理由もあるが、それだけではない。それは、どのように地方の人たちが飲みに行って帰宅するのかということに関係している。
地方では、お酒を飲むのにも車が必要
そもそも、地方の場合、居酒屋まで行くのにも車が必要だ。
私の実家の場合、旧町中にある最寄りの居酒屋まででも5kmぐらいあり、さらに市内の中心部の居酒屋・飲食店となると自宅から10km以上も離れている。
バス停や駅も離れたところにあり、公共交通機関ではお店に行くこともできないため、自家用車で行くことになる。その結果、飲みに来た人たちが車を止められる場所が必要というわけだ。
利用できる意外な駐車場
ちなみに、お店の駐車場だけでは足りなかったり、2次会・3次会とお店を移動したりするため、飲み屋エリア周辺にある市役所や銀行の駐車場に車を止める人も多い。
約30万人規模の秋田市だと、そのような駐車場の利用は難しいと思うが、約10万人規模の秋田県横手市であれば、銀行や市役所の駐車場が夜間は解放され、そのような使い方をされている。
地方では、飲酒後どうやって帰る?
さて、車で飲みに来たは良いが、飲酒運転はできない。では、どうやって帰るのか。5つほど選択肢がある。
代行サービスを利用する
地方には、運転代行サービスというものが存在する。タクシーのように、サービスを提供する車が路肩に停車して、その中に2人の運転手が乗っている。このサービスを使用することで、飲酒しても自分の車で自宅に帰ることができる。
1人は代行サービスの車を運転する人、もう1人はお客様を乗せてお客様の車を運転する第二種運転免許の保有者だ。乗客を乗せて対価を得る場合、二種免が必須だからだ。
代行料金は、乗車距離に基づいて算出される。コスパの高い利用方法として、1人が自分の車で他の友人をピックアップして飲みに行き、帰る際に代行代を分割負担することで安く抑える方法がある。言ってみれば、乗り合い代行だ。
尚、地方と言っても、人口100万人以上の仙台市のように地下鉄を有する地域では、秋田のような田舎に比べて利用率は少ない。多くの人が電車で来て、電車で帰ったりタクシーを利用したりする。
飲まない人が運転する
外でお父さんはお酒を飲むけど、お母さんはあまりお酒を飲まないという昔ながらの家族が多い地方では、行きはお父さんが運転して、お酒を飲まないお母さんが帰り道を運転するケースが多いように感じる。
最近だと、飲みの席でもお酒を飲まないという若者も増えてきている。その場合、その人が友人を乗せて帰るという方法もある。お酒を飲む人にとっては、非常にありがたい存在とも言える。
家族に迎えに来てもらう
都市部では意外に感じるかもしれないが、家族が同居する地方では、飲み会が終わるまで家族が寝ずに起きていて、飲み終わった後に迎えに来てもらう場合がある。
特に、子どもが親を呼ぶ、夫が妻を呼ぶ、兄が弟を呼ぶ形で、飲み終わる頃に電話をして迎えに来てもらうという流れだ。翌日が休みの場合などは、車を駐車場に置きっ放しにして、翌日に車を取りに行くことが多い。
ホテル・友人宅に泊まる
少しレアケースだとは思うが、飲み屋から自宅までの距離が離れていて、代行代よりもホテルに宿泊した方が安いという場合、ホテルに泊まってしまう人もいる。
近年の少子化により、小・中学校の学区が広域化している。そのため、同級生同士の居住地域が離れていたり逆方向だったりすることがある。高校だと、更にその可能性は高い。その場合、前述の乗り合い代行ができないのだ。
この時、みんなで友人の自宅に泊まるという人たちもいる。宿泊代がかからない上に、朝ごはんまでしっかりとご馳走になる場合もある。そのおかげで、友人の家族とも繋がりが深まっていく。
仲間に迎えに来てもらう
最近、知人に聞いた方法は、更にレアケースだ。知人・友人で仲間を募り、その中で、その日に飲んでいない誰かが、飲んでいる誰かの送迎を行い、相互に助け合うという方法だ。
お酒に強い・お酒が好きと思われがちな秋田県人でさえ、昔ほど、若い人たちはお酒を飲まない。だからこそ、このような仕組みができているのかもしれない。
地方にあるシェアリング文化
近年、ビジネスや経済活動において、シェアリングというキーワードが注目されている。
しかし、今回ご紹介した飲酒後に帰る5つの方法は、最近になって突然生まれたものというよりも、地方に昔から存在する文化や精神に基づいている。
自分の空き時間で収入を得る運転代行サービス、家族や友人の間で運転するスキルを相互補完するのが普通だという考え方、仲の良い友人が実家に泊まって親がご飯をご馳走する関係性。
人と人とが繋がり、お互いに補い合い、助け合いながら生きていくというシェアリング文化は、地方が誇れる魅力の1つだ。