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日本最大のかばん産地で、ものづくりのプロになる移住とは?

日本最大のかばん産地で、ものづくりのプロになる移住とは?

    CATEGORY: AREA:兵庫県

メイド・イン・ジャパンのメガネと言えば、福井県鯖江市。では、かばんといえば?

答えは、兵庫県豊岡市。兵庫県北部に位置するこの街は、日本一のかばんの産地として知られています。市内に180社以上のかばん関連企業があり、生産量は日本の約7割にものぼります。

あれ、でもそんな名前聞いたことがないって?。実はこの地域はOEMが中心で、産地として記載されることが少ないんです。

日本の有名ブランドはもちろん、世界の一流ブランドのかばんも、豊岡で作られていたりします。

日本一の鞄の産地で、ものづくりを学ぶ

伝統的な編みカゴの技術を活かしたかばん商品

いま豊岡市は、「地方創生」のキーワードでホットなエリアのひとつ。そのひとつの原動力が「かばんを核とするまちづくり」です。

2014年にグッドデザイン賞を授賞したまちづくりの取り組みで、「コトづくり」のグッドデザインとして大きな注目を集めています。

このまちづくりは、「ものづくり・まちづくり・ひとづくり」が連動したといえるもので、豊岡市だからこそできたもの。

中心となるのは、かばんショップとスクールの複合施設「Toyooka Kaban Artisan Avenue(トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニュー)」。かばんの街豊岡を象徴する場所となっています。

今回注目するのは、トヨオカ・カバン・アルチザン・アベニューの3階に作られた、かばん作りを学ぶ専門学校「アルチザン・スクール」です。

北海道から沖縄まで本気の人が集う学び舎

豊岡のかばんの歴史は古く、そのルーツは神話の時代まで遡ります。神様によって伝えられた「柳細工」の技術で作られた編み込みのカゴ「柳行李(やなぎごうり)」です。

奈良時代には、柳行李が奈良の正倉院に上納されていることからも、その質が高く評価されていたことがわかります。

つまり豊岡のかばん作りは大げさに言えば、2000年以上にわたって脈々と受け継がれてきた技術と、時代に合わせた変化で現在につながっています。

そんなかばん作りを今に伝えるのが、「アルチザン・スクール」です。

「ひとりでかばんがつくれる、かばん職人の育成」を掲げて、かばん作り界のベテランで神様と呼ばれるような職人が講師となり、CADなどの最新技術と共に、かばん作りの方法を学びます。

1年間の専門課程で、卒業後は市内のかばんメーカーに就職したり、独立したりという道に進みます。

ご案内いただいた紙谷さん

徹底してものづくりを学ぶのがこのスクールの特徴です。毎年限定10名の少数精鋭のクラスになっていて、日本中から応募があります。

「プロになりたい」という強い思いで志望していただいているので、熱量も高いです。

と語るのは、スクールを運営する豊岡まちづくり株式会社の紙谷さん。入学者の選考から施設運営までを行なっていらっしゃいます。

地場産業を支える人材を地場で育むという挑戦

ベテランの講師陣が身近にいることでいつでも気軽に相談できる環境がある

このスクールは、地場産業の次世代の担い手を育てる重要な役割があります。かばん作りは相応の技術が必要である一方、専門的に学べる機会は多くありません。そのため、各製造会社が育成も担っている状況でした。

しかしそれでは十分な研修もおこなえず、このままではかばん作りの職人が育成できないという危機が迫っていました。そこで、豊岡鞄協会の協力のもと、この施設が誕生したというわけです。

つまりここは、かばんのプロを育て、地域に送り出し、次の産業の担い手として活躍するという人作りの拠点なんです。

国産のかばん市場が海外産のかばんに押されている中で、製造会社と役割分担をすることで、高品質な教育と、熱心な学生、そして就職先の確保が一体となって進んでいるというわけです。

ステップアップのための移住という考え方

この専門学校には、全国から学生が集います。かばんづくりを学びたいという、20代から40代までの本気の方々です。

土日も自主的に通い、この学びの機会を最大限に活かそうと前のめりなのだとか。

当然ながら、県外から来ている方々は豊岡に住むことになります。つまりかばん職人になりたいという夢を叶えるための移住が行われているわけです。

話を聞いてみると、「産地だからこそ現場にもいけるし、素材や機械も十分に揃っています。この地域だからできる学び方だと思います」とのこと。

そしてここで学んだ多くの卒業生は、市内のメーカーに就職するわけですから、学生から産業の担い手になり、もしかしたら定住することになるかもしれません。

いま地方では、どこもかしこも移住促進に熱心です。そこで行われる多くの言説は、「こんなに良いことがありますよ」というものでしょう。

しかし一方で、誰にでも移住してほしいわけではないという本音も聞かれます。理想は、仕事が作れて、産業の担い手になるような人に来てほしい・・・とか聞くと、「そんな人は簡単にこないでしょう」と思ってしまいますが、この豊岡は良い例だといえます。

街の産業の担い手を育成するために、産業の担い手になる前のステップを専門学校として地場に作ってしまったわけですから。

つまりステップアップのための一歩目が、わかりやすく歩み出しやすいように作られているんです。

地方の魅力を伝えることで移住促進しようというところで止まらず、地方に来てほしい人と、地方に行きたい人の間の距離をどう埋めるかということを考えて、最初のステップを作ることが必要だということがわかります。

そして、いまやりたいことがある人へ。もしかしたらそれを学べて、自分のキャリアアップになるような場所が、地方にあるかもしれません。

豊岡市のアルチザン・スクールのあり方は、そんな移住の可能性を示してくれています。