地方創生。その実現のため、人財育成に取り組む自治体は多い。
人口減少・少子高齢化が進む地方で、地域をもっと元気にするため、起業家(アントレプレナー)が果たす役割は大きい。地域の課題を解決するため、地域の資源を活用したビジネスを生み出し、持続可能な地域をつくるために行動を起こす人財が求められている。
起業家人財を育成する多くの講座は、行政や外郭団体の主導のもとで運営されている。受講無料という参加者にとってのメリットがある一方で、参加者の意識向上や事業予算の確保という課題がある。
そんな中、民間主導で補助金を一切活用せず、クラウドファンディングによって支援者・受講生を募集した、起業家人財の育成講座「東北イノベーション大学」が2017年5月にスタートした。
クラウドファンディングで起業家人財育成講座を始動
2017年1月29日から3月20日までの期間で、58人のサポーターからの支援金1,064,000円、取り組みに賛同してくださった「INTILAQ東北イノベーションセンター」からの後援、「株式会社 コー・ワークス」からの協賛を得て、「東北イノベーション大学」は開校した。
36,000円という支援(受講料の支払い)を行い、1泊2日のフィールドワークを含む全6回の講座に参加したコアメンバー(受講生)は9名。東北の起業希望者・起業家・経営幹部だけでなく、公務員や東京在住の会社員・起業家も参加し、高い熱量と志をもった多様なメンバーが集まった。
起業家に学ぶ、起業家人財育成
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「東北イノベーション大学」では、第一線で活躍する起業家を講師としてお招きし、多くの学びと気付きを頂きながら、3つのことを目指した。
□課題意識を持ち、
自ら問題解決できる人財づくり
□自分を発見し、
自分を磨ける場づくり
□生涯を通じて、
共に切磋琢磨できる仲間づくり
人財育成からビジネスを創出
全6回の講座・フィールドワーク・受講生の企業訪問などを経て、2018年1月28日にプレゼンテーションを開催し、受講生がこれまでに得た学びや気づき、挑戦するビジネスプランを発表した。
起業家の実体験から考えるアントレプレナーシップ、情熱をもって行動を起こすことの重要性、人の心を動かすブランドの考え方、講座を通じて出会った仲間や講師との縁、そして、様々なノウハウを得ることができたという声が多かった。特に、深い繋がりの中で、共に成長しながら想いを共有できる多様な仲間を得たことは、非常に大きかったと受講生全員が伝えてくれた。
また、今回のプレゼンテーションでは受講生3人が、実際に取り組むビジネスプランのプレゼンテーションを行った。
公務員の働き方改革
宮城県の最南端に位置する丸森町の役場で働く八島大祐さんは、地元の地域資源を活かした新たな取り組みに参画する。地域のキャンプ場と自然の川という資源を活かし、フィンランド式のサウナを体験できるサービスを開始する。
テントの中でサウナに入り、自然の水(川)へ飛び込みクールダウンするという日本で初めてのサウナとなる。大自然を体験しながら、癒しや日常のストレスからの解放という価値提供を目指す。
八島さんは、公務員でありながら、このプロジェクトの実現に向けて様々なサポートを行っている。プレゼンでは、12月の極寒の中、サウナに入り川に飛び込んだ自らの実体験も共有してくれた。公務員として地域とどう関わっていくか、どのような働き方ができるのかという可能性も垣間見えた。
故郷の希少りんごのブランド化
故郷の青森県弘前市で両親がりんご農家をしている、宮城県仙台市内で会社員として働く吉﨑愛美さん。そこで作られている、ほとんど市場に出回っていない希少品種「星の金貨」をブランド化し、弘前市のファンを創造するというプランを発表してくれた。
「星の金貨」は、多くの人が口にする「ふじ」のように赤いりんごではなく、黄色いりんご。皮が薄く、水洗いすれば丸ごと食べられるのが特徴で、酸味と甘みのバランスも良く、サイズも小ぶりで一人で食べるにはちょうど良いという。
この取り組みで、他のフルーツに比べて皮を剥くのが煩わしいというりんごのイメージを変え、単身世帯や若者のりんご離れが起きている現状を変えたいと伝えてくれた。ブランド化の先に、新規就農者の獲得や体験型の観光誘客も視野に入れている。
アップルエールビールで地域の文化を守る
東北全域の活性化をITの力で支援する 株式会社 コー・ワークス に勤めながら、新たなプロジェクトを開始しようとしている五十嵐淳さん。昨年、ビジネスで訪れた青森県三戸町に惚れ込み、好き過ぎて移住。そんな三戸に恩返しがしたいという想いから、今回のビジネスを行う。
五十嵐さんは、地域の価値を全国・世界に届けることで、東北の経済と文化を守り、東北の活性化に繋げたいと考えている。その中で、三戸のりんごという資産を活かした新たな形として「アップルエールビール」の製造・販売を考えた。
この背景には、りんごの販路開拓や担い手不足の課題に加えて、三戸のホップ農家の消滅危機がある。価値の高い売れる商品を開発することで、地域経済の活性化と魅力あるまちづくりに貢献し、地域の文化を守っていきたいと考え、クラウドファンディングにも挑戦予定だ。
東北で起業家人財を育成
「東北イノベーション大学」という起業家人財の育成講座をスタートし、学長として運営を行う中で、私自身も多くの学びと気付きを得た。
今回の講座を通じて、多くの感謝と笑顔が生まれた。ビジネスでも、コミュニティでも、それぞれが感謝し合える関係性は、当事者意識をもって本気でコミットすることで生まれることを改めて感じた。その中で求められるのは、謙虚な姿勢とチャレンジする精神、そして、それを行動で示す力だ。
自分自身や地域の人々が、情熱をもって本当に夢中になれるものを探求し、行動し続けることで、多くの人から共感を得られ、その中で大切な仲間ができていくのだと実感した。
起業家人財育成で大切な3つのこと
最後に、受講生の声から学んだ、起業家人財育成で求められる大切な3つのことを共有したい。
1) 現場のリアル
2) 実践者の体験
3) 地域外との交流
今回の講座の中で、特に受講生の満足度(得られた価値)が高かったのは、起業家がビジネスを行っている現場を訪れた会だった。話を聞くだけでなく、実際に見たり、手で触れたり、場合によっては食べて味わうことで、学びや気づきの量も多くなり、質も高くなる。
その上で、これまでの経験や体験談を通じて得た、考え方・ノウハウ・仕組みを起業家自身から聞くことで、学びはより深いものとなる。単に、解決するテクニックや方法を学ぶだけではなく、そこに至った想いや背景を共有してもらうことで、受講生は自分ごととして考えを深められる。
加えて、今回の講座運営で良かった点として、東北という軸で、東北各県の出身者や東北出身で東京在住の人たちが集まり、多様性のあるコミュニティを形成できたことが挙げられる。相互に情報を交換したり、人のネットワークを共有したりすることで、ビジネスが広がった。
次世代に誇れる東北をつくる
実際に、「東北イノベーション大学」を主宰・運営し、地方における起業家人財の育成講座のニーズと重要性を改めて実感できた。
今後については、私自身が第1期の受講生を引き続きフォローアップし、運営形態や方法の改善を考えながら、第2期の受講生の募集をしていきたいと考えている。
第1期の受講生のみなさんからは、運営サポーターとして関わっていきたいという申し出やコミュニティ(OB会)を設立するという動きがあった。
「次世代に誇れる東北をつくる」という想いの輪が、少しずつ広がり始めている。