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地方から1000億の事業を。大前研一氏が推奨するイタリア型の地域づくり

地方から1000億の事業を。大前研一氏が推奨するイタリア型の地域づくり

    CATEGORY: AREA:地域活性化の海外事例

日本の最大手シンクタンクとして知られる野村総合研究所が発表した「成長可能性都市ランキング」が2017年の夏に発表されています。

これは国内の100都市を対象に、今後の成長を左右する「産業創発力」の現状や将来のポテンシャルを分析したものです。

都市の産業創発力については、「多様性を受け入れる風土」「創業・イノベーションを促す取り組み」「多様な産業が根付く基盤」「人材の充実・多様性」「都市の暮らしやすさ」「都市の魅力」という6つの視点を設定し、総合的に分析しています。

この調査の結果、1位に福岡県福岡市、2位に鹿児島県鹿児島市が、ポテンシャルが高いとしてランクインしています。成長可能性の高い上位都市は全国にわたっており、3位以下は下記のようになっています。

3位 茨城県つくば市
4位 愛媛県松山市
5位 福岡県久留米市

つまりこの調査の結果をふまえると、日本の地方には、まだまだ伸びしろがあるということがわかります。

「地方には伸びしろがある」いつまで言い続けるのだろうか?

しかしこの「伸びしろがある」という免罪符的な言葉も言い古されてきたように思います。

いま必要なのは、この伸びしろをどう活かし、実際に成果につなげられるかということでしょう。

当然ですが、伸びしろがあるという状態は、伸びしろを活用できている状態ではありません。地方の伸びしろを活かすためには、まずそれぞれの地方の強みに特化したコンテンツを準備することが必要です。

数10名の企業が1000億以上稼ぐイタリア

地方の強みを活かすモデルとして参考にしたいのが、イタリア型のモデルです。実はイタリアは、地方分権が進み、国とは独立して各地域が稼ぐモデルを実現しています。もともと都市国家を統合してできたイタリアは、都市ごとの特色を維持したまま発展してきたモザイク型の国です。

イタリアには、約1500もの国際競争力をもった地方都市があるといわれています。人口数千人から数万人の都市にわたって、それぞれの地域のレベルで、産業政策を実施し、生き残りをはかり、実際に稼いで生き残っています。

「世界で1位」に特化する政策

日本にも馴染み深いパルマ地方

著名な経営コンサルタントとして知られる大前研一氏は、日本の地方創生は「イタリア型」をモデルにするべきだと提言されています(参考: 大前氏「日本の地方はイタリアの村を見よ!」)。大前氏は、イタリアの都市国家に共通する要素をあぶり出しながら、日本の地方が目指すべき方向性を示しています。

イタリアの都市国家に共通するのは、手広く産業を展開するのではなく、「世界で1位」のものを、集中的に手がけることによって、顧客と直接交渉することができ、価格決定力を維持しているという特徴があります。

パルメザンチーズやパルマハムなどの食品、シルク縫製など、イタリアを見渡すと、様々な世界で1位が存在しています。当然ながら彼らの顧客は、世界中の人々です。そのため、ほとんどすべての産業が1000億円以上の規模となっており、小さな村が、世界を相手に1000億円以上のビジネスを生み出していることになります。

各地域内では分業が進み、シルク縫製では600社以上の地元の小さな会社が集まり、連携し、オーダーに基づいた商品を高品質につくりあげています。

イタリア全体にわたって、都市国家ごとに、小規模の会社が集まって、分業し、それぞれの地域独自の強みを活かし、世界一の産業を興しているのです。

地域ブランドを確立すれば人が来る

日本にも馴染み深いチーズやハムの産地として知られるパルマ地域に注目してみましょう。

この地域の代表的な商品に「パルミジャーノ・レッジャーノ」というチーズがあります。この地域だけで作られたもので、かつ一定の厳しい基準を満たしたチーズだけに与えられる称号で、これに合格すれば、世界中のイタリア料理屋で使われるため、高い金額で輸出することができます。

このような地域ブランドの認証は、地元の協同組合的な組織が積極的におこなっているといいます。

注意したいのは、ただの認定機関ではなく、地域ブランドを高めるための認定機関として付加価値を高めようと機能していることです。例えば、品質の管理はもちろん、生産者の指導や、ときには販売や流通まで手がけています。人材育成からマーケティングまでを担っているわけです。

つまり、生産者は生産に集中でき、良い商品を作れば、組合が世界にきちんと売ってくれる。このようなエコシステムができあがっています。きちんと稼げるので生活も豊かになる上に、後継者も育つといいます。

日本の地域ブランドの育て方

日本には魅力的なものが数多くあるが、世界一は?

このイタリアのモデルは、日本の地域にとって大いに参考になる事例だといえます。

なぜなら、本当の意味で、地域ブランドが確率できている地域が日本にないのではないかといえるからです。

例えば、世界的ブランドに素材を提供したり、製品を作ったりしている地域や会社は、たしかに多数存在します。しかしそれらが自立して地域のブランドになっているかというと、そんなことはありません。あくまで、下請けの高品質な工場となっているわけです。

しかしイタリアの例に倣うならば、もしも地域ブランドを確立し、世界と直接商売ができるようになると、世界中から、その地域に人を呼べる可能性もあります。

なぜなら日本は、国内全体の交通網の整備が行われ、インフラが整い、治安も良いことから、旅行者が移動しやすく、過ごしやすい環境の基礎が形作られているからです。

地域ブランドを確立し、人を呼び、さらに認知度を高め、商品を世界に販売していく。この好循環を生み出せるかどうかが、今後の地方のあり方を占うことになるでしょう。

強みを見つけることから始めてみよう

地方独自の強い産業を作るには、まず地域の強みを明らかにすることから始まります。

その際に重要なのは、強みを他との位置関係の違いでみることです。マーケティングにおいて、ポジショニングマップといわれるような内容です。

なぜなら、世界で1位という状況は、常に他との比較でそうであるということであり、自分たちだけで世界一だと誇っていても何の意味もありません。

多くの地域で、「世界一の◯◯」というのがありますが、それを英語にして発信した時に、一体どれだけの人が来るのか。そもそも、本当に世界一なのかを考える必要があるでしょう。

日本の強みの1つ「食」で勝負する

例えば、地域の強みとして「食」があがったとしましょう。しかし「食べものがおいしい」だけでは、何が強みなのかがわかりません。

そこで、2つの軸を用意してみます。

例えば、「素材←→加工品」、「いつでも食べられる←→特別なときに食べられる」これらを、重ねて十字をつくり、その地域の「食べものがおいしい」がどこに位置づけられるかを明確にします。

すると、「素材が良くていつでも食べられること」が魅力なのか、「素材がよくて特別なときに食べる料理が抜群」なのかなど、売り出したい強みが明確になっていきます。

このように、何かひとつを単純に考えるのではなく、それがどのように位置づけられるのかを考えることによって、磨き上げ方が変わってきます。

最初から世界市場で勝負する。すぐできる2つのこと

2017年は、3000万人弱の訪日外国人観光客が日本を訪れたとされています。政府が掲げるように、いま日本は観光立国として、積極的に、外国人旅行者を受け入れようと進めています。

そこで思い切って、地方からも世界に発信するという視点をもって行動してみましょう。顧客の反応を実際に見ながら、改善することが、最短ルートです。顧客を見ずに机上で考えていても始まりません。

そのための手段は、既に整っています。

エアビーアンドビーで世界とつながる

例えば、Airbnb。旅行者に部屋を貸す民泊サービスですが、既に諸外国の間では、旅行時のインフラとして機能しています。最新のデータによると、Airbnbを利用して400万人の外国人が日本を訪れています。

Airbnbに登録して、どのようにすれば旅行者の目にとまるのか。出した瞬間、世界に情報発信ができ、反応を得るために改善をし続けられることになります。

まず最初の目標は、1人の顧客(利用者)を獲得すること。顧客を獲得し、満足度の高い体験を提供し、口コミをいただく。その積み重ねが次の顧客獲得につながります。

今や常識のトリップアドバイザー

次に行いたいのは、トリップアドバイザーへの登録。トリップアドバイザーは、世界最大の閲覧数をもつ口コミ旅行サイトです。

世界中で使われており、その数は合計すると、月間の利用者数は2億3000万人で、口コミの総数は5億件にものぼるといいます。

つまりトリップアドバイザーに登録するのは、最低限の情報発信だといえます。ここからが改善のスタートです。どんな情報を掲載すれば興味をもっていただけるのか、実際に顧客は何を求めているのかを知り、改善していきます。

トリップアドバイザーは、施設側は施設の登録は行なえますが、口コミを自ら登録することはできません。来ていただいた顧客に、積極に口コミを依頼することで、意見や感想を見える化していきましょう。

まずは1人の顧客を獲得し、地域のファンになってもらい、次の顧客につなげる。地道ですが、強みに特化するために必要なことだといえます。

地方の成功は、1日にしてならず

イタリアは、国家規模で見れば、債務超過など財政問題も取沙汰され、危険な状態になっています。しかし、上記で見てきたように各地方には元気があり、実際に稼いで地域経済を回しています。

今すぐできることは、地域資源を洗い出し、強みを見つけることです。そのときに考えたいのは、圧倒的な世界一といえるものがあるかどうかという視点です。

すぐに見つかるものではないかもしれません。しかし既存のものの組み合わせであったり、他にないもので、まだ価値が十分に伝わっていないものだったりを、比較検討し、地方から世界に対して提案をしていくことが求められているといえます。

実際に、世界的なブランドが優れた技術だと認め、製造を依頼したり、一流レストランが買い付ける素材があったりと、地方には既に世界一が数多くあるはずです。

それを、いかに地域ブランドとして確立していくのか。その成功モデルは既にイタリアにあるわけですから、できないはずがありません。

イタリアが都市国家の統合によってなりたっており、それぞれの地域で長い歴史が培われてきたように、一朝一夕で、世界ブランドになれるわけではありません。

しかし、ひとつひとつの積み重ねがなくても、永遠に世界ブランドになれるわけではありません。

大事なのは、一人ひとり、一つ一つの積み重ねだといえます。

1人の顧客に向き合い、最大限のサービスを提供していく。そうすることで、1人またひとりと、丁寧にファンを増やしていく。

3年、10年と地道に積み重ね、改善をし続けることで、少しずつ世界一を目指して、やり続けることが必要でしょう。

地域づくりに王道なし。戦略的な一歩一歩の積み重ねが、地域の産業をつくっていきます。

参考文献:「世界一」だけをつくるイタリアの地方創生法