みなさんは、山登りされますか。
登山家の見る景色と、思いとは?
午前4時。世界はまだ始まっていません。
山は静まり返り、そこかしこにはぞっとするほど粘着質な闇が垂れ込めています。
午前4時28分。
木曽駒ケ岳のすぐ近くにある山小屋・宝剣山荘の東側の伊那前岳に立った私は打ち震えました。
東の空から「今日」がやってくるのが見えたからです。
静かに、しかし淡々と東からやってくる「今日」。
標高2883m、森林限界をとっくに超えているため周囲に風を遮るものはなく、私は凄まじい強風にもたれかかるようにして必死にシャッターを切りました。
太陽は少しずつ中央アルプスの山々を照らし始め、漆黒の闇に包まれていた峰は少しずつ本来の緑の姿を明らかにし始めます。
眠っていた山塊が徐々に目を覚ましていく様を目の当たりにした私は、「自然には到底勝てない」と本能のどこかで感じ取りました。
雲海と北アルプスの向こう側から太陽が・・・
午前5時32分。
ついに太陽が雲海と北アルプスの向こう側から姿を見せます。
瞬間、私の体はぶるるっと震え、目からは涙が流れ出します。
何が悲しいわけでも、何が嬉しいわけでもありません。
ただ「よかった」という思いが体の底から湧き上がったのです。
それはひょっとすると寒く、暗い夜をたった一人で過ごしたせいかもしれません。
私たちは普段「今日」が当たり前にやってくるものだと考えがちです。
でも本来の「今日」とは、私がこの日見た太陽のように待遠しく、頼もしいものなのかもしれません。
中央アルプスが見せてくれた美しい夜明けは、私にそんな示唆に富んだ気づきを与えてくれました。
でも都会での生活に慣れてしまうとそんなことはまた忘れてしまう。
だから私は山へ行く。
皆さんも「なんだか大事なことを見逃している気がする」と感じた時には、ぜひ山に登ってみてください。
きっと色々なことがシンプルに考えられるようになるはずです。
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Written by Naoto Suzuki