職人技が光る美しい仕上がりの湯呑み茶碗や、漆器類。しかしその表面を彩るのは、日本の古典柄ではなく、元気いっぱいのアニキャラたちです。WEBサイト『銘品零号』に展開する、この不思議なコラボレーションに今、熱い視線が注がれています。
伝統工芸品の良さを広める方法とは?
今、日本が世界に誇れる文化といえば、真っ先に思い浮かぶのは、マンガやアニメですよね? 悲しいことに伝統工芸品は、もはやそれだけで売るのは難しいのが現状です。そこで思いついたのが、アニメとのコラボレーションでした。
最近では「伝統工芸って何?」とか、「自分の地元の工芸品を知らない」という日本人も多くて、これじゃ売上げは伸びません。また、職人さんたちがネット社会からはじき出され、後継者問題に悩む姿に直面して、なんとか僕らの持つWEB技術が役に立たないだろうかと考えたのがネットショップ『銘品零号』http://www.zerogo.jp/の始まりです。
工芸品の先行きが不透明とはいえ、付加価値を付ければ、きっと消費者の心をつかめるに違いない。それなら「人気アニメとの組み合わせはどうだろうと思ったんです。
「アニメで伝統工芸を残す」――(画像は、九谷焼とアニメのコラボレーション商品)
ここにビジネスチャンスが潜んでいると直感したまでは良かったのですが、やはり試行錯誤の連続でした。アニメファンが欲しがる商品を開発すればいいわけだけど、これが意外と難しい。しかも伝統工芸品という枠から外れるわけにはいきません。職人さんに理解していただくのも一苦労でした。
最初は、職人さんを理解することから始まった
当初は、工芸の技術を理解するのも困難で、職人さんの常識と、こちらの常識との温度差がかなりあったものです。その溝を埋めて、互いに納得した形にもっていくまでには時間もかかりました。断られた窯元さんも、たくさんありますよ。電話をかけた途端に「やらない」と切られたり、「一回試したけれど、二度とやりたくないとか……(笑)。
結局は、いかに気持ちよく働いてもらえる環境を作れるかなんですよね。そしてそれが出来たら、次は実績を作ること。実績がなければ、ただの仲良しグループで終わってしまいます。現在は受注も多く、生産の度にヒアリングを繰り返し、絵付けなどもすべてこちらから指定しますが、職人さんが協力的なお陰で、いい生産体制を築けていると思います。
交渉のハードルは高くても、アニメ市場は魅力的
よく「アニメファンが食器なんて買うの?」と言われますけど、これが意外と受け入れられました。一番の売れ筋は、なんと湯飲み。漆器のiphoneケースも人気です。
だからとにかくアニメを研究して、ファンの動向に目を光らせ、「これは伝統工芸で表現できる」と思う人気作品があれば、すぐに作ってみるわけです。
ただ契約面でのハードルが高いため、権利元にはこのビジネスの将来性、海外進出の可能性などを理解いただき、後はとにかく営業活動です。
僕は体育会系の人間だから、人より汗をかいて、努力するのが性に合ってるんでしょうね。アニメの権利元と、職人さんの間に立つという結構きついポジションですが(笑)、契約が済み、お客様から注文をいただくことで、後は窯元から直送してもらえるので販売の手間はかかりません。
それに、うちの製品はターゲットが決まっているから、PRもシンプルです。アニメの公式サイトやtwitterから情報を流すことで、一気に各情報サイトに広まったり。まだ完全に国内向けですけど、確かな手ごたえを感じています。
“Made in JAPAN”を引っ提げ、海外に挑戦
今(2012年11月取材時)、取引している窯元さんは、40都道府県32社。アニメのライセンス契約をしているのは『パワーパフ ガールズ』『ラストエグザイル』『織田信長の野望』などです。ひと月で、もっとたくさんのタイトルを出すというのが、現在の課題です。
このビジネスを思いついた時、「海外の方が受け入れやすいんじゃないか」というのが発想の原点でした。たとえば日本だと、アニメファンでさえ「どうして伝統工芸でやっちゃうの?」みたいな理由がいりますが、海外なら“Made in JAPAN”の大きな括りで喜ばれるんす。外国人がよく漢字のTシャツやタトゥーを好む感じですかね。
今後は、アニメ人気の高いアジアやヨーロッパなどに拡大していく予定で、最短で認知拡大をするための方法を模索中です。アニメを1つの軸にすると入りやすいんです。
そしていずれは、この事業で上場することも視野にいれています。。無謀に見えるかもしれないけど、そのくらいのゴールを設定しないと、具体的な行動ができませんから。やってみて駄目だったら、その時考えればいいと思っています。
僕の運命を変えた、ある起業家との出会い
僕は初めから起業したわけじゃなくて、大学卒業後3年間は会社員でした。大手芸能プロダクションに入り、一年目に女優さんのマネージャー、その後、自分の音楽好きを生かしたいと社長に直談判して、役者兼、音楽アーティストを担当させてもらいました。いい経験になりましたね。それから、2年ほどベンチャーの立ち上げにも参画して、今の会社を起こしたわけです。
僕の育った北海道の帯広市は、職人さんはいても起業家とは無縁な土地柄で、“働く”=“サラリーマン”という考えが長く染みついていました。だからアイスホッケーの実業団から、日本代表になって、引退したら学校の先生というのが自分の人生設計だったんです。
それが大学2年生の時、同級生のお父さんに出会って衝撃を受けました。青年実業家って、いい車に乗ってチャラチャラしているイメージでしたが(笑)、彼はお金を使って世の中にどんな貢献をするかというビジョンがしっかりしていて、何の迷いもないその姿勢が、僕にインスピレーションを与えてくれたんです。素直に「カッコイイ!僕もこんな男になりたいと思ったものです。
リスクを取らないことが、最大のリスク
僕は大学時代に「起業」という夢を持ちました。今の大学生は安定志向のようですが、僕たちから見れば、リスクを取らないことがよっぽどリスキーです。いつ、どうなるかわからない会社に依存し、毎日我慢の連続や挑戦しないことを後悔するよりも、将来自分が成長できる選択をする方がいいと思いませんか?
もしも「起業したい」と言いながら躊躇しているのなら、「いつか」ではなく、「今、始めるべきだと思います。思っているだけで「起業を唱え続けるなら、勤め先で出世を目指した方が、自分のためにも社会のためにも得策かもしれません。
最後に、これからチャレンジに挑むすべての人に自分の経験から言えること。それは、いきなり高いハードルを掲げるのではなく、小さなハードルから乗り越えるということ。「やりたいけど無理……という人は、物事を大きく捉えすぎているのかもしれません。
イチロー選手も言っていますが、仕事の本質は地味なことの繰り返しです。
あせらず、淡々と課題をこなしていくしかありません。就職活動では本命企業オンリーもいいけれど、いろんな企業を見て回り道するのも悪くないと思います。それも小さなハードルのひとつです。
そんなステップを積み重ねて「いけそうだ」と思える感覚を養うのが大切だと感じています。僕たちもそうやって小さなステップを踏みながら、ハードルをだんだん高くしていきたいと思っています。
『No Mark』は、こんな人材を求めています!
「まず、素直で元気のいい人。そういう人って伸びると思うんです。僕の一つの判断基準です。日本代表として戦った経験がありますが、僕自身仲間に恵まれ、それが大きな財産となっていますです。人の言うことを素直に受け入れ、あとは一生懸命にやるというスタンスがあってこそ、人は成長できるんじゃないかと思っています。
株式会社「No Mark」代表取締役
玉井 晴貴さんHaruki Tamai
Profile
1983年8月20日生まれ、北海道帯広市出身。白樺学園、法政大学卒業。アイスホッケー元日本代表。趣味はPCプログラミング、ギター、観葉植物、バイク、読書など。
About 『No Mark』 http://nomark.jp/aboutus
『No Mark』とは、アイスホッケーの専門用語で、ゴールキーパーとの1対1、最大の得点チャンスを意味しています。もともとはアイスホッケー応援サイトとして始まり、WEB事業に乗り出した現在は「サイバラ水産」『銘品零号』を運営中。お台場のダイバシティなど、徐々に実店舗からの依頼も増加しています。
○販売サイト=http://www.zerogo.jp/