前回に引き続き「ふくい南青山291」館長の井上義信さんに、アンテナショップがより効果的に機能するために大切にしていることなどを中心に、その考え方を伺った。
ブランド力がなければ、自ら売り込む、巻き込む
井)福井県はまだまだブランド力が高いとはいえません。福井県と聞いて思い浮かぶキーワードとして「東尋坊、鯖寿司、永平寺、めがね、ちりとてちん・・・」などありますが、恐竜、若狭塗りなどが思いつけばそれはもう通の域ですよ。それくらい、県外に知られていないということですね。だから私たちは自分たちから発信しています。
福井の魅力を様々な方法で発信
井)291では様々なイベントやPR/広報に力を入れています。
まず、店外に出て行ってイベントを企画しています。例えば都内の有名百貨店で福井県の「食」催事を開催したり、大型ショッピングモールで大規模な「福井フェア」を企画したりしています。
「食」だけでなく「漆器」や「陶器」「若狭塗り箸」「ツアー商品」などを紹介して、「ミス水仙」が来て県花水仙をプレゼントなど、モールのどこに行っても越前・越後の商品が眼に入るようなイベントを連続で開催したりしています。
とにかく首都圏で一人でも多くの人に福井の魅力を知ってもらいたいのです。
積極的な発信で驚異的な売り上げ増を達成
手前味噌ではありますが、私が着任してからの3年間で売り上げは60%以上の伸びを示しています。
291が開館してから約10年の間、少しずつ商品開発を始めたり、イベント開催・PRなどといった取り組みも運営をオペレーションを委託している会社を291に任せて、比較的自由にさせていることもとこれだけ伸びた理由のひとつだと思います。そういう意味では懐が深い県だと思います。
県内企業が291詣でするようになった
井)291では福井県の企業が首都圏に進出するためのチャネルとして、ビジネスマート、商品エントリー、ブランド委員会といった仕組みを設けています。
ビジネスマートはいわゆる商談会ですが、商品の種類別に福井県の企業とバイヤーの方々のビジネスマッチングをする場です。首都圏の販路に福井県の商品が多く流通することを目標に、291がアンテナショップとして珍しい「商談会」を設けているのです。ここに参加する福井の企業の方々も、具体的なビジネスにつながる機会として、利用してもらっています。
商品エントリーは、企業に291で売りたい商品をエントリーしてもらい、私をはじめ「ブランド委員会」のメンバーが月1回、見分け会で仕入れを決定したり、アドバイスをしたり、一緒に商品開発をしたりしています。
ブランド委員会には商品デザインのプロの方々にも参画してもらい、これまで多くの商品がこのエントリー制度を使って商品改善を図り、291と取引するようになっています。
291と話せば、具体的な取引の話につながる
また、商品は自分たちで発掘しようと、毎月291のスタッフが福井県に出向いたり、年に2回県内企業との情報交換会なども行っており、291と県内企業のコミュニケーションがより密になってきています。
ただコミュニケーションを密にするだけでなく、291と話せば、具体的な取引の話につながるという感触を持ってもらい始めているからか、県内企業の方が東京に来られた際、291を訪問してくださることが年々多くなってきたように思えます。長く居るスタッフの言葉を借りれば「291詣でする企業が増えた」らしいですよ。
実績が人を惹きつける
井)どんな仕事でもそうだと思いますが、熱意と実績があれば、人はかならずついてきてくれます。
以前から私は企画書を例にとれば、去年のものは見ないで常に白紙から考えます。常にトレンドや一年先のことを考え、好奇心を持ち、アンテナを錆びないようにしてストックしてきたデータを基に、企画や計画を練っていきます。
そして、アンテナを錆びさせず、良いアイディアを生み出し続けるのに大切なことは、「良いもの」や「ほんもの」を積極的に見るようにすることです。文化、ファッション、食、住空間、芸能などジャンルは問わずです。良いものを見ていると良くないものが見えてきます。
良くないものばかり見ていると良いものは見えてきません。こうした普段からの意識や努力が企画や商品開発でも新しいアイディアを生み、実績につながっていくのではないかと考えています。
ストーリーが伝わる店舗へ
井)今後は291単体だけでなく、アンテナショップの横のつながりを活かして、テーマを設定してイベントを開催したり、企業のイベントなどとタイアップして、福井のことをもっとひろく紹介していきたいですね。また店内の取り組みとしては、まず、商品ひとつひとつが持つストーリーを紹介することを徹底させていきたいと考えています。
店のスタッフがストーリーを語れることだけでなく、商品POP(商品につけられた商品紹介や価格が書かれたもの)を充実させていきたいと思っています。そしてオンラインショップでの商品販売も更に強化していきたいですね。
ふくい南青山291のウェブサイトはこちら
【インタビューを終えて】
世の中にはないもの、新しいものを発掘紹介していくのが自分の天命、と語る井上館長。都内に33あるという各県のアンテナショップと比較しても、ここ291の存在感は、新しい。
まず店に入ると感じるのは、291はセレクトショップだということ。館長の「物産館ではないアンテナショップに」という言葉が店の展示や商品のセレクションに現れている。おいしいから、きれいだから、わくわくするから、というように、人の五感に働きかける仕掛けが人を惹きつけるきっかけだとしたら、ここ291は「福井ブランド」だけでなく、五感に訴える商品で人を惹きつけているだろう。
きっと井上館長にそう話したら、「まだまだ新しいことを仕掛けますよ」と笑われそうだけれど。
インタビュアー 久保田利恵子
広報・マーケティング・人材育成担当として、認知度向上のためのプロモーション活動を企画・実施を行う一方、立命館大学理工学研究科博士後期課程において、都市経営における文化的資源の経済的活用方法、歴史都市における 観光振興に関する研究に従事している。
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