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女性経営者が子育てしやすい地域をつくる-「仕方がない」を、あきらめない。

女性経営者が子育てしやすい地域をつくる-「仕方がない」を、あきらめない。

    CATEGORY: AREA:熊本県

写真右の女性が益田沙央里さん。現在5人目の子を妊娠中だ。

女性の社会進出が進んだといわれる昨今だが、いまだに20代後半から30代半ばの女性の就業率は落ち込んでいる。いわゆる「M字カーブ」と呼ばれる状態だ。そんな中、第一次産業で目覚ましい活躍をみせる女性がいる。天草の地で、主にEC事業を営む益田沙央里さんは今年36歳。結婚・出産適齢期と言われる年齢を迎えながら、女性経営者として活躍をみせ、2018年3月に農林水産大臣賞を受賞した益田さんにお話をうかがった。

次世代を担う女性経営者に贈られる農林水産大臣賞を受賞

周囲を海に囲まれている熊本県天草地方は、車海老の養殖が一大産業だ。2017年度「農山漁村女性活躍表彰」にて、最優秀賞の「農林水産大臣賞」に選ばれた益田さんは、夫が営む車海老の養殖業を支え、地域経済の活性化に重要な役割を果たしたことが高く評価された。

農林水産業は家単位で行うケースが多く、女性も重要な働き手の一人。しかし、その働きが十分に認められているとはいえない状況にある。そんな中、益田さんは次世代リーダーとなりうる女性たちを対象とする「女性起業・新規事開拓部門」にて表彰された。女性がいきいきと活躍できる環境づくりを推進するための部門での選出は、天草の将来を考えた時に、大きな意義があるのではないだろうか。

赤字体質を前にして一念発起

益田家では、夫が車海老の養殖事業を行い、妻が販売を行う分業制をとっている。益田さんは、車海老をはじめとした天草の一次産品を主にインターネット上で販売する「株式会社クリエーションWEB PLANNING」の代表取締役を務める。もともとは1つの会社で養殖・加工・販売のすべてを担っていたが、夫が生産に特化できるように別会社を設立したという。

運営する通販ショップでは、自社の商品だけでなく地元の農産物など特産品も取り扱う。通販事業が軌道に乗るにつれ、自家養殖した車海老だけでは需要に応えられなくなっていった。益田さんの通販ショップにおいて、車海老は12月のひと月で年間の90%を売り上げる。また、車海老は冬場しか販売ができないこともネックだった。「年間を通じて販売できるものはないか。」益田さんは、地域の生産者の特産品を取り扱うことを思いついた。

益田さんは高校を卒業後、一度天草を離れたUターン組。天草を離れた後は、弁当販売や水産関係の仕事などに就いたが、働き過ぎがたたり体調を崩し天草へと戻ってきた。網元の漁師だった実家で働くことになった益田さんは、その間に魚のカマや中骨などの捨てられる食材を活用した商品を開発。この商品は評判を呼び、ヒット商品となった。

その後、結婚した益田さん。夫の事業が典型的な赤字体質だったことが再び益田さんを奮起させる。事業の状態を見て「自分が動かなければ」と強く思ったそうだ。

女性のパワーを信じて、保育環境を整える取り組みをスタート

益田さんの会社の従業員は全員子育て中の女性

マイナススタートから始めた車海老の販売事業は、10年経たずに評価を得て、農林水産大臣賞を受賞するまでに成長した。しかし、当然のことながら道は平坦ではなかった。益田さんに聞くと、最大の障害は「土日に子どもを預けられる保育園がないこと」だったという。天草の基幹産業は、観光業と農林水産業だ。そこには、サラリーマンのような土日祝日の休日はない。

通販事業のほか、子育てママサークルの運営にも携わっていた益田さんは、女性のパワーの大きさを実感していた。にもかかわらず、書き入れ時の土日祝日に働くことができない。実際、仕事はあるのに「預け先がないから」と働くのをあきらめている人も多い状況があった。

企業主導型保育事業の活用で地域課題を解決へ

益田さんを苦しめていたのは制度上の問題だけではない。「子育ては母親が中心となって自ら行うべき」という周囲の価値観も大きな障害となった。

母親が働くことに否定的な考えは行政も例外ではなかった。天草は介護施設の職員や看護師として働く女性も多いが、役所の担当課でさえ「子どもがいるのにそういう仕事を選ぶ人が悪い」と言い、相手にしてもらえなかった。保育園が土曜日の保育を拒否することもあったという。

そんな状況を目の当たりにして、益田さんは、2016年度から政府が待機児童対策の切り札としてスタートした「企業主導型保育事業」を活用することを知人の保育園の理事長に掛け合った。

通常、認可保育園の運営には市町村が関与するが、この制度を利用して整備した保育園ではその必要がなく、土日祝日の保育が可能となる。現在、益田さんは地域の子育て支援事業を行うNPO法人のスポンサーとなったり、子育てママに役立つフリーペーパーを自社で発行するなどしたりして、子育て世代が住みやすい町づくりに取り組んでいる。活動を重ねるうちに、地域の保育園事情も随分変わったという。「住みやすい街」というのは制度上の問題だけでなく、周囲の人の意識によるところも大きい。多くの人は我慢してやり過ごすが、益田さんは違った。これまで「仕方がない」とされてきたことを、そのままでは終わらせない。どこからそんなエネルギーが生まれるのか。

50年前から問題は変わっていないというけれど、何もしなければ子育てしにくい世の中が続きます。

そう益田さんは話した。目立った活動をすると離れていく人もいるが、その一方では応援する人も必ず現れる。周囲を巻き込んだ、子育て世代に住みよい地域づくりが、地方から、そして民間からはじまっている。