インバウンド誘客促進を実現しようと、観光地域づくりの舵取り役として重要な役割を担う日本版DMOが全国各地で設立された。
地域への誇りと愛着を醸成しながら、経営視点をもって「観光誘客」で地域に人を呼び込む役割を期待される日本版DMO。地域と関係者をまとめ、データと戦略に基づいて、観光地域づくりを行う上で、地域の人財づくりも重要だが、容易には進んでいない。
三陸DMOセンターは。平成29年11月から平成30年3月まで、平成29年度「三陸観光プランナー養成塾(全5回)」を開講した。そのプログラムに参加し、地域のウニの魅力を伝えるツアーを計画した岩手県洋野町の地域おこし協力隊・大原圭太郎さんにお話を伺った。
地方でチャレンジする地域おこし協力隊
岩手県洋野町は、岩手県の沿岸北部に位置し、県一のウニ漁獲量を誇る。
そんな洋野町で、大原さんは最初のスタートとして、近隣市町村観光関係者などを対象に、ウニの栽培漁業の取り組みを学び、昼食には絶品の生ウニ丼を食べることができる「岩手県洋野町で夢のウニ尽くし!三陸観光プランナートライアルツアー in洋野」を平成30年6月29日に行った。
午前中は、ウニ栽培センターの見学と増殖溝(ウニの栽培センターや海の岩盤に掘られたウニを育てるため溝)のある海に長靴で入る体験、ウニの殻むき体験を行った。
昼食は、生ウニ丼かウニ尽くし御膳のどちらかを選び、調理長の話を聞きながらウニについて理解を深め、午後はウニの缶詰商品などを作っている加工場を見学した。
また、洋野町は東日本大震災による津波被害を受けた地ということで、経験者から復興の話を聞くことができたそうだ。このテストツアーは、参加者に洋野町のウニをPRするとともに、水産業者が観光への意識と理解を深める機会にもなった。
地域おこし協力隊として地方移住
大原さんは、宮城県仙台市出身。東京で働いた後、平成28年10月から、イラストレーターとして活動する奥さんの故郷である洋野町へJターン移住し、地域おこし協力隊として活動している。
東京に出て働いていたのですが、都会で『誰がやってもいい仕事』をするよりも、地方で『誰かのためになる仕事』がしたいと思うようになっていきました。
自分と関わりがある地域での仕事を探していたところ、たまたま妻の故郷である洋野町で地域おこし協力隊の募集が始まったのを知り、応募しました。
地方で大切にすべき現場主義
地域おこし協力隊として、観光業務を行ってきた大原さん。なぜ、三陸観光プランナー養成塾に参加したのか。
観光担当として1年働いてみて、ツアーを作ってみたいと思いました。しかし実行するのはとてもハードルが高いと感じました。ツアーに関わるスタッフとの調整が難しく、協力してくれる人がいませんでした。
みなさん、他の業務で忙しいですし。そもそも、自分自身が信頼を得られる存在か考えてしまい・・・。そんな時に観光プランナー養成塾の案内があり、ツアーを作って実行するにはどうしたらいいか学ぼうと思い参加しました。
そんな状況で参加した養成塾を通じて、大原さんは、信頼と協力者を得ることができたと伝えてくれた。自ら動き、現場に飛び込むことは重要だ。
実際にツアーでは、ウニ栽培センターの職員さんに直接話を聞いたり、普段一般の人は入ることができないウニ増殖溝に立ち入ったりすることができたという。ツアー中のウニの剥き方指導やガイドは、ほとんど現場の方が協力してくれたそうだ。
地方で観光をビジネスにする難しさ
ツアーを終えて、参加者が喜んでくれた嬉しさの一方で、きちんとビジネスとして持続可能なものにするための課題も見つかったという。
これまで関わらなかった町の人と、関わることが出来ました。ウニ漁について、自分自身も知らなかったことを学べました。参加した人が喜んでくれたことが、純粋に嬉しかったです。
ツアーの最後には、主催者と参加者(主に近隣市町村観光関係者)による意見交換会が行われた。「地域性が、存分に生かされていた。」「五感で楽しむことができ、記憶に残りやすい。」「洋野町のファンが増えそう。」など良い感想が多かったが、「雨天時の対策をどうするか?」「事業者に利益があるか?」「ガイドを誰がやるのか?」など、商品化に向けては改善点についても多く意見が上がった。
自分自身のガイドが、力不足だったことと、詰めの甘さを感じました。もっと喜んでもらう工夫が出来たのでは・・・と。 晴れの日が前提の内容になり、天気が悪い場合でも同じくらい楽しめる案は必要です。それから、収益に対しても考えが甘かったので、 ツアーを実際に商品化するにはどうしたら良いか模索中しています。
なんとかトライアルツアーは実現できたものの、ツアーを一般客に販売するとなれば旅行業法なども絡んでくる。
地方で迷いながらも、チャレンジを続ける
大原さんに、地域おこし協力隊任期終了後の夢やビジョンを伺った。
地方移住・仕事に関する悩みや葛藤、地域おこし協力隊は任期が3年しかないこと・・・3年後どんな仕事の形を作れるのかというのを今は常に迷い考えながら仕事をしています。
「観光・移住定住・人の繋がり」というものを結ぶ存在になれたらと思います。 少しずつおもしろい町にしていくお手伝いを担いたいです。
大原さんは、地域おこし協力隊任期終了後も定住し、地域づくりに関わりたいと考えている。
新しいチャレンジをしようとすれば、迷いや悩みは出てくる。その中で、課題を一つずつ解決し、乗り越えていける人が何かを成し遂げられるのだ。
洋野町(旧種市町)で、昭和30年ごろから始まったウニの増殖事業にも、現在に至るまで多くの困難があったという。
この地域で新たなチャレンジを始めた岡本正雄氏という人物は、その後、国の事業として昭和50年から今に繋がるウニ大規模増殖場の整備をスタートさせた。頑固で意思が強かったとされる岡本氏が築いたウニの栽培漁業の基盤は、今も町の経済を支えている。
熱意をもって、もっとおもしろい町にしたいという大原さんのチャレンジは、まだ始まったばかりだ。