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石川県の過疎地域で70年以上続く、生き残るまちづくり

石川県の過疎地域で70年以上続く、生き残るまちづくり

    CATEGORY: AREA:石川県

全国各地で様々なまちづくり活動が行われています。次々と新しい団体ができ、新たな視点での取り組みがスタートしています。まちが発展し、生き残っていくために、有益な仕組みをつくることに奮闘している人たちがたくさんいます。

そんな中、「まちづくり」というものの根幹を考えさせられる取り組みがあります。

人口約1万5千人の小さな市で70年以上続く取り組みです。その主役は、地域の若者たち。いったいどのように、世代を超えてバトンが渡されてきたのか。この仕組みが地域や若者たちにどのような影響を与えているのか。取り組みに参加してきた3人の若者たちに話を聞きました。

舞台は地方の過疎地域

自然豊かな石川県珠洲市

石川県珠洲市。日本海に突き出た能登半島の先端にあり、総面積247.20キロ平方メートル、人口約1万5千人、高齢化率が約40%の過疎地域です。県都の金沢市からは、車で約2時間半の距離に位置しています。

70年以上続くまちづくりの取り組み

各地区に1つのまちづくり団体

珠洲市は、10個の地区に分けることができます。この地区の単位で、小学校や公民館が設置されています。この10地区にそれぞれ、18~35歳の若者が所属する「地区のまちづくり団体」があります。清掃活動やイベント開催など地区によって様々な取り組みを行っています。

市全体のまちづくりを考える協議会

駅伝競走大会の開会式。市民が応援するなか各地区のチームは練習を重ねて本気で優勝を目指す。

「地区のまちづくり団体」から有志を出し合い、市全体でのまちづくり活動を行うための「協議会」が組織されています。毎年、「協議会」では様々な取り組みが行われます。なかでも、地区対抗の駅伝競走大会は2018年に72回目を迎える歴史ある取り組みです。

立ち見が出るのど自慢大会。終了後、出口で若者たちへの「ありがとう」の声があふれる。

また、2007年の能登半島地震からの復興を願って企画されたのど自慢大会は2018年に11回目を迎えました。これらの取り組みは、どれも地域の若者たちが実行委員会を立ち上げてボランティアで企画・運営しています。イベント前になると、若者たちは仕事終わりに集まって連日のように夜遅くまで準備を行います。ときには準備が深夜に及ぶことも。しかし、若者たちはとても楽しそうです。

取り組みを担う若者たちの思い

今回、これらの取り組みを担う若者たちの思いを聞きました。お話をお聞きしたのは、「協議会」の現会長である陳祐(じんすけ)喜和(よしかず)さん(32歳)、前会長である坂本(さかもと) 洸士(こうじ)さん(34歳)、前々会長である浦(うら) 勝肥郎(かつひろ)さん(36歳)の3人です。

参加者は普通の若者たち

浦さんは、のど自慢大会の準備を手伝うという形で参加し始めました。

もともと人と関わるのが嫌で、「面倒くさいな」という思いもあって。最初は、イベントの手伝いだけのつもりでした。イベント準備をしている実行委員会のメンバーから頑張っているなというのが伝わってきて。楽しそうだったんですよ。「なんで、みんな頑張れるんだろう」って。それがなんか羨ましいと思ったんです。それで、イベント後も活動に参加することにしました。(浦さん)

この取り組みに参加している若者たちは、けっして最初から地域に対する意識の高い若者たちばかりではありません。様々な体験を通じて若者たちの考え方や行動が変化していきます。

活動による若者たちの変化

いったいどのような活動の場なのでしょうか。坂本さんは言います「大人になってからの学校の延長のような感じ」だと。同世代の仲間たちと地域のために頑張る。その経験は、若者たちに様々な変化を与えます。

仲間のありがたみが分かったかな。自分の至らなさや、1人では何もできないこと(を知った)。地域のための活動に関わっていると、地域の将来について考えるようになるね。どうなっていくのかなって。(坂本さん)

若者たちは、仕事をしながら自分の余暇時間をまちづくり活動に充てています。それも、嫌々ではなく積極的に。なぜ、そこまで頑張ることができるのでしょう。

若者たちが頑張れる理由

協議会の部屋。窓の外まで笑い声や真剣に議論する声が響く。

若者たちが頑張れる理由は、社会貢献のためといった崇高なものではなく、誰かに命令されたからという強制的なものでもありません。もっと単純で人間らしい理由です。

人それぞれだと思うんですけど。なんか心地よいというか、楽しかったんだと思います。(浦さん)

地域での生きやすさをつくりだす

まちづくり活動で得た仲間たちとの絆は、地域での生活を支える基盤となります。この基盤は、あくまで楽しく活動をした結果の副産物的に生まれていくものです。

どこにいても1人では生きていけない。何かきっかえけがないと人って寄り添えんやん。この取り組みが人との絆をつくっていく1つのきっかけになる。子供がいれば今度は保護者同士として協力することもある。一緒にまちづくり活動を行っていたときの関係性があると、協力しやすいやん。できた絆がずっと活きてくる。協力しあえる。この取り組みに参加していた人と、していなかった人では全然違う。あの人が言うなら助けてあげなきゃダメやって思うもん。(陳祐さん)

仕組みと若者の気持ちがもたらした継続

協議会の現会長である陳祐さん。「後輩たちが頼りになる。すごいよ。」と笑顔。

この取り組みは、70年以上も継続しています。その理由には、組織体制や各種イベントが作り出す仕組みと、若者たちが得られる気持ちがあります。

この組織体制が維持できたのは、組織体制を基にして開催している駅伝競走大会が大きい。活動していない「地区のまちづくり団体」がある度に、他の地区のメンバーたちが復活させようと手を差し伸べてきた。そのきっかけは「協議会」のメンバーがつくってきた。(陳祐さん)

楽しいから。珠洲市では、まったく完成されていないものを、どうやって自分たちの手で良くしていくか。主体的に動くことで達成感が大きい。自分で直接まちに関わっているというか。なんか、「生きてる」って感じがするやん。(坂本さん)

セーフティネットと未来に生き残るまちづくり

70年以上続く駅伝競走大会。市民のなかには事業に関わっていた元若者が多い。

珠洲市のまちづくり団体の正体

珠洲市での取り組みの主体である「地区のまちづくり団体」「協議会」の正式名称は「〇〇(地区名)青年団」「珠洲市青年団協議会」です。今回、団体名をあえて伏せて紹介しました。それは、「青年団」という言葉の固定観念に囚われてほしくなかったからです。

いま、「青年団」と聞くと、「ダサい」「時代遅れ」などのイメージを持つ人がいます。珠洲市の場合は違います。多くの地域住民は、青年団を応援する気持ちを持っています。また、行政関係者は青年団を高く評価し、信頼を寄せています。

平成28年度に日本一を受賞。多くの市民が青年団への誇りを持っている。

珠洲市での「青年団」は、時代遅れの衰退気味なものではなく、まちや若者たちに成果を残し続けている時代を経てもなお最先端な取り組みです。

地域で生きることを支えるセーフティネット

若者たちは、活動を通じて自分の住んでいる地区だけではなく、地区の垣根を超えた繋がりの強い友人関係を得ます。その友人関係の存在は、地域で生きていくうえでの生きやすさに直結します。それはまるで、その人が地域で楽しく安心して生活できるようにセーフティネットが張られているかのようです。

あなたが小学生だとして、教室に自分の味方になってくれる信頼できる友人がたくさんいることを想像してください。その教室での学校生活はとても楽しくて安心できるものです。飲みに行きたいと思ったとき、腹を割って話しができる友人がいること。子供会や地域の行事で協力し合う必要があったとき、それが友人や友人の知り合いであること。

このセーフティネットは、活動を通じて、楽しく・前向きに・自然に、つくられます。まちづくりに関わる人間であれば、この仕組みが確立されていることの凄さを感じずにはいられません。

セーフティネットは厚く重なり続ける

珠洲市青年団協議会の会長や各地区の団長は、基本的に1年で交代となります。その度に、チームが変わります。毎年つくりだされる新しいチームは、中心となる会長や団長によって大きく変わります。毎年、様々な形のレイヤーが重なっていくように、セーフティネットが様々な箇所で強化され、必然的に誰かを介せば誰とでも繋がる形がつくられています。

今回の珠洲市の「青年団」の仕組みは、他の地域では別の組織が担う形で存在している場合があります。もしくは、このような人との繋がりを生む仕組み自体が淘汰されている地域もあるかもしれません。これからの人口が減り続ける社会のなかで、地域での生きやすい環境をつくるこの仕組みはとても大切なものです。

未来に生き残るまち

現時点で見ると、人口減少が激しく過疎に悩む珠洲市は苦境に立たされているかもしれません。しかし、「まちづくり」は、何十年、何百年という長い時間のスパンで見なければ分からないという面白いものです。

住民の地域での生きやすさ、まちに対する思い、今の珠洲市のまちづくりの取り組みが更に続いた未来に、珠洲市はどんなまちになっているのか。その時、日本全国でどのまちが生き残っているのか。珠洲市が生き残っている可能性は充分にあります。

人が少なくなっていく。10人が5人になってしまうかもしれないけど。俺が勝手に考えているのは5人が「こうしていこう!」と強く考えていければ捨てたもんじゃないと思う。(陳祐さん)

寄稿:森山友世