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地域活性の課題は人財不足。6時間かけても人が会いに来る秋田の山女ガイド

地域活性の課題は人財不足。6時間かけても人が会いに来る秋田の山女ガイド

    CATEGORY: AREA:秋田県

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地方創生。地域資源を活かした地域活性化を目指す自治体は多い。

その中核をなすのは、地域資源というコンテンツを発掘・発信し、その魅力を伝えられる人財だ。

度々、地方における地域活性化や観光誘客の課題として、交通アクセスの問題が挙げられる。私の故郷である秋田県も、地理的にその課題は大きいように感じる。

しかし、場所の魅力だけでなく、人の魅力が伝われば、アクセスのハードルを大きく下げることができる。その場所に行くだけではなく、その人に会いに行きたいという考えへシフトできれば、多少の時間は問題にならない。

それを実践する人が、秋田県にいる。登山ガイドとして、地域や山の魅力を発信し続ける大川美紀さんにお話を伺った。

地域の魅力を伝える登山ガイド

今回伺った場所は、秋田県の北部に位置する北秋田市の旧鷹巣町。

北秋田市は、東京23区の約1.8倍の広さに約32,000人が住む、自然豊かな場所だ。この地域には、様々な高山植物が見られる森吉山(もりよしざん)があり、冬には日本三大樹氷の一つ「森吉山の樹氷」を見ることができる。

また、北秋田市の阿仁(あに)地域は、クマなどの大型獣を捕獲する技術を用いて集団で狩猟を行う「マタギ」が住む場所として知られている。

そんな地域で、登山ガイドとして自分らしい働き方を見出しているのが、今回お話をお聞きした大川さんだ。

大川さんは、ブログやSNSを通じて情報を発信し、全国にファンがいる。中には、6時間以上かけてでも、定期的に会いに来てくれる人もいるという。

多くの人を惹きつける大川さんに、その背景やこれまでの経緯、大切にしていることや山への想い、地方における登山ガイドのニーズについて伺った。

ワクワクは原体験の中にある

大川さんの出身は、隣接する秋田県大館市。両親の影響もあり、旅行に行ったり、山に山菜を採りに行ったりするのが好きな子どもだった。

趣味は、時刻表を見ながら妄想すること。頭の中で電車の乗り換えをしたり、地図を見ながら訪れたことのない場所を歩き回る想像をしていたという。

小学2年生の時、自分の足で町歩きをしながら地図をおこすという授業の課題があったんです。それが自分の中で凄く楽しくて、その感情が今でも強烈に残っています。

元々、電車が好き、地図が好き、歩き回るのが好きで、高校生の時には、バイトでお金を貯めて、東京に1人で遊びで行ったこともあります。そして、人にその魅力を伝えるのが好きでした。子供の頃から、旅行記を紙ベースでまとめて周囲の人に配っていましたね。

大川さんが今行なっている活動の原体験は、幼少期にあった。その頃から、実際に行動を起こす中で、自分がワクワクできるものを見つけていたのだ。

仕事と人生の大きな転機

そんな大川さんだが、長女として家に居なければいけないという想いもあり、どのように自分のやりたいことを仕事として実現して良いか分からず、高校を卒業後、一旦は地元企業の事務として就職した。

しかし、自分の好きなこと・ワクワクすることを諦められなかった。そんな時、秋田市で旅行業の採用募集を見つけて転職。その後、地元の旅行会社に就職することができた。

そうして、7年ほど旅行業界で働きながら、様々な経験とノウハウを積み重ねた。仕事優先で毎日遅くまで、添乗員としてバリバリ仕事をする中、大きな転機が訪れた。

息子と娘に病気が発症

大川さんの息子が、長期治療を必要とする病気になり、それまでのようなペースで仕事をすることが困難になったのだ。

その時は、家庭を顧みない働き方をしていた自分を見つめ直し、ゆるく生きようと考えたという。5年ほどアルバイトで生計を立て、息子の治療が終わった頃、旅行会社へ復帰し、再び仕事にのめり込むようになった。

2年ほど働いた頃、今から約10年前、今度は娘が病気になった。病名は、白血病。半年間の入院治療、2年間の在宅治療が行われた。定期的に再発の検査を受ける必要はあるものの、幸いにも白血病の治療はできた。

ただ、当時の抗がん剤投与による副作用で、娘は子どもながら脳梗塞を発症。そして、記憶力や集中力が低下する「高次脳機能障がい」と診断された。

人生観の変化と山の存在

2人のお子さんの病気は、大川さんの人生観を大きく変えた。

自分は、おまけで生かせてもらっている。将来は分からないけど、今を笑って生きよう。自分はその時間をもらっている。今は、そんな風に考えています。

そのように残りの人生を過ごそうと考え、少しずつ毎日が楽しくなってきた頃、友人から誘ってもらい、山に登ったという。

最初は、現実逃避だったという山登りも、大川さんの中で少しずつ前向きなものに変わっていった。娘が調子の良い時は、毎週のように山に足を運んだ。

山が伝えてくれたこと

山は、色んなことを伝え、思考をプラスに変えてくれたという。大川さんは、山に登ることで自分が変われた理由を語ってくれた。

山を登る時は、ただ前に1歩踏み出すことだけを考えればいいんです。他の余計なことは考えなくていいんです。だから、自然とストレスから解放されるんです。

山に登り、少しずつ考え方が変わりました。山のことをブログで発信しようと思い、新しいブログも開設しました。ただ登るだけから、山に咲く花を見に行くようになり、その花を調べ、ブログで発信していきました。

当時、ブログを通じて色んな想いを発信してはいたものの、社会から取り残されたような感じがして、卑屈になっていたという。それが、山を登るにつれて、少しずつ変化していった。

今でも、そのブログは続いており、後にそれを見た全国の人からガイド依頼が来るようになる。山は、今の仕事のきっかけをもつくってくれたのだ。

地域コミュニティと新たなチャレンジ

そして、5年ほど前、山登りを通じて地元のガイド団体の人たち出会い、大川さんに再び大きな転機が訪れることになる。

過去に旅行会社の添乗員をやっていた経験から、「山登りのガイドをやってみなよ。」という誘いを受けたのだ。その後、地域の歴史を調べたり、マタギの人たちと話したりする中で、山とそこで生きる人たちと深く関わり始めたという。

そして、地域にあるスキー場の支配人から、「どうせガイドするなら、きちんと資格を取ったら?」という話をされ、支配人の紹介で資格保有者の伊東さんという方に弟子入りした。

最初はロープの使い方から学び、時には、資格条件である「60kgの人を背負って歩く」ことを克服するために師匠を背負っての訓練も行なった。

支えてくれる人たちの存在

当時、大川さんは、資格保有者に必要な装備を買うお金も不足していた。また、資格試験を受けるにも、受講料が必要になる。困っていると、スキー場の支配人が施設内にあるレストランで働きなさいという提案をしてくれたという。

山が好きで、地域のコミュニティに入っている内に、みんなが背中を押してくれたんです。一人だったら、何にもできていなかったと思います。

やっているというより、させてもらっているという風に考えています。この地域は、困ったと言いさえすれば、温かく支えてくれる人たちばかりです。

大川さんは、地域に住む多くの人たちから支えられ、2年半前に登山ガイドの資格を取得した。前職の添乗員のノウハウも活かしながら、「2525」という会員番号の「ニコニコ」ガイドとして多くの人を案内している。

娘の存在と登山ガイドの原点

大川さんの登山ガイドの原点は、娘と一緒に山を登った時の体験だ。それまで辛い辛いと言っていた娘が、山に登って良い表情を見せたことだという。

娘の大川千里さんは、現在、アコースティックギターを弾きながらアーティストとして、自分の気持ちや様々な障がい・悩みを抱える人たちへのメッセージを伝えている。

娘は音楽で、大川さんは山を通じて、相互に影響し合いながら、今まで自分が受けてきた多くのことへの恩返しとして、他の誰かのために活動を続けている。

山と人を繋げる癒しのガイド

大川さんは、置かれた状況や人生を辛いと感じている人が山に来ることで、今抱えている悩みがちっぽけに思えたり、明日も元気に生きようと感じてもらえたりすることが幸せだと伝えてくれた。

自分にできることは、誰かと一緒に山へ登って、誰かと一緒に景色を見て、誰かと一緒に美味しいものを食べることだけです。

私は、自分で山に登って解決できるけど、自分だけでは登れない人がいる。自分は、そういう人たちと一緒に登りたい。自分は、山と人を繋げる接点になりたいと思っています。

自分も、地域の人たちや山から、そうしてもらったように、誰かが元気になるきっかけになればと思い、登山ガイドを続けています。

大川さんは、自作の地図をお客様に配ったり、その時に見られる花を描いて渡したり、地元の食材を使った料理を振る舞ったりしている。

一人ひとりと向き合いながら、一緒に山を登る。それが、多くの人の心を癒すことに繋がっているのだ。

秋田の魅力と登山ガイドの役割

最後に大川さんは、地域の魅力と登山現場の変化を伝えてくれた。

ここは、本当に良い場所なので、是非多くの人に訪れてほしいです。生い茂るブナや美しく咲く高山植物のチングルマが特に素晴らしいです。森が生きている、花が生きているということを実感できます。

また、先日一緒に登山された首都圏在住の女性は、「ここは、空気が違う。人が違う。全てが優しい。帰りたくない、ずっとここに居たい。」と仰っていました。

多くの人がこの地を訪れ、大川さんと一緒に山を登り、リフレッシュして帰っていく。

地方で生まれる新たなニーズ

近年、登山をする人の層は広がり、敷居が低くなっている一方で、熊の出没頻度は増えている。大川さんは、登山経験の浅い人たちでも安全に楽しめるよう、登山ガイドの重要性は高くなっているという。

また、「山ガール」ブームによる女性登山者の増加や今の子どもの課外授業への親の意識変化に伴い、女性の登山ガイドのニーズが増えているそうだ。

例えば、若い女性や小さな女の子が、登山の途中で用を足したいと思ったり、怪我をして救助が必要になったりした時に、男性では女性と同じように対応できないということだ。

実は、観光客の層や意識の変化に伴い、地方では新たなニーズが生まれている。

行動の先にある、新しい生き方・働き方

今、地方では、大川さんのように現場に入って地域の価値を発掘・発信し、体験を通じて地域の魅力を伝えられる人財が圧倒的に不足している。

もしあなたが、地方・田舎での新しい働き方や生き方を模索しているなら、実際にワクワクしながら現場で働く人たちや様々な取り組みを行う企業の話を聞いてみてほしい。

その中に、新しい可能性のヒントを発見できるかもしれない。大川さんのように、行動しなければ見えないものが、そこにはある。

自分らしく生きる・働くを考える

2018年2月25日(日)13時から東京・渋谷ヒカリエで、自分らしく生きる・働くを考える無料イベントが開催される。

ゲスト講演は、月刊「ソトコト」編集長 指出一正氏。加えて、今回ご紹介した大川さんを含め、秋田で地域課題を解決する人たちや地元企業から話を聞くことができる。

また、地方移住や田舎暮らしに関心を持った人たちと交流できる貴重な機会。先着50名限定で、事前お申し込み必須。

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