ファブラボと呼ばれる、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房、個人による自由なモノづくりの可能性を拡げ、「自分たちの使うものを、使う人自身がつくる文化」を醸成することを目指すネットワークが、2002年から始まり現在までに世界50カ国以上1200か所以上に広がっています。
静岡県浜松市で2014年度からファブラボ浜松を主宰しているTAKE-SPACEの竹村真人氏にお話を聞きました。
わざわざ海外から来る理由の一つになる存在
ファブアカデミーを開講している数少ないNode(拠点の意)が浜松にある、ということは“ものづくりの街・浜松”における一つの魅力や財産、地域の誇りになると思っています。
米国トップスクールの一つマサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)のニール・ガーシェンフェルド教授から、インターネットを介してモノづくりの技法を学べる“ファブアカデミー”を浜松で開講している竹村氏はこう語ります。
ファブとは、英語の“Fabrication=モノづくり”と“Fabulous=素晴らしい”の二つの意味から成る造語とされます。総務省の資料「ファブ社会推進宣言(Fab Society Declaration)」では、ファブ社会のことを「インターネットとデジタルファブリケーションの結合によって生まれる新たなモノづくりと、デジタルデータの形をとったものの企画・設計・生産・流通・販売・使用・再利用が前景化する社会である」と表現しています。
浜松といえば、スズキ、ホンダ、ヤマハ、河合楽器、そして浜松ホトニクス等の日本を代表するグローバルな製造業企業を輩出している地域です。
浜松に住まう技術者達に、もっとオープンに試作やモノづくりができる環境が必要ではないか?と市民工房を始めた竹村氏のファブラボ浜松は現在、世界にも開かれた環境へと進展してきています。
ファブという共通言語
実際、ファブラボ浜松へはスイスや台湾、イスラエル、オーストラリアからの訪日外国人が訪れたこともあると話す竹村氏、
ファブアカデミーでは、受講生のアウトプットが分かるポートフォリオが、インターネット上にオープンに保存されています。
作品を通じてネットワークが広がるだけではなく、アカデミー修了後にはインストラクターとして世界各国のファブラボで活躍するチャンスがあります。
竹村氏自身も2014年度にアカデミーを修了し、ファブマスターとして世界中のファブ仲間と繋がり、ファブを共通言語に様々なプロジェクトを仕掛けています。
ファブアカデミーの受講料は約50万円。授業料が東京大学の約10倍ともいわれる米国MITの授業である、ニール教授のレクチャーがインターネット越しとはいえ、その価格で受けられるのは、割安といえるでしょう。
何より、竹村氏のお話しの通りアカデミー通じて海外のファブ仲間と繋がることは、ビジネスとは別に開かれた世界を得られるという魅力があります。
“Think Globally.Act Locally. (地球規模で考え、足元から行動する!)”という、使い古された謳い文句がありますが、日常的に実践するチャンスは実は少ないのではないでしょうか。
ファブラボ浜松では、浜松地域のローカルからグローバルへ繋がる機会を創ることで、新たな“モノづくりの街・浜松”を実現しようとしています。
模索されるファブの在り方
2017年11月、大規模でオープンなモノづくり工房として知られる米国のTechShopが、米国内全店舗を閉鎖する報道がなされました。それについて竹村氏は、モノづくりの環境を継続・維持するビジネスモデルの難しさを感じさせるニュースとして冷静に受け止め、ファブラボ浜松の展望について真剣に悩み、模索しています。
モノづくりと関係性の強い、全てのモノをインターネットに繋げる“IoT(Internet of Things)”という領域の市場は、数年内に国内だけでも十数兆円規模の市場にまで拡大すると予測されています。
オープンイノベーションの重要性が求められる昨今、小さくとも世界に開かれた地域の工房こそが次代の潮流を掴み、新たな“モノづくり”を創り上げていくのかもしれません。
寄稿:秋間 建人